日本大学
開幕戦の舞台は、奇しくも昨季シーズンエンドを迎えた熊谷ラグビー場。
平坂桃一キャプテンは言う。
「悔しい思いをした場所です。だからと言って意識することなく、まずは開幕戦、自分たちのプレーをしようとみんなには伝えました。」
11番・水間選手のトライ後、真っ先に駆け寄った7番・平坂キャプテン
徹底した立正のアップアンドアンダー(ボールを高く蹴り上げ、落下地点で相手にプレッシャーを掛けるプレー)に苦しめられ、前半の早い時間帯に2連続トライを許す。
入替戦を制し昇格した勢いそのままに挑む立正に対し、前半は主導権を渡した。
トライを取られる度、インゴールでハドルを組んだ日大フィフティーン。
「ハイパンだけだから!」「エナジー全開で行こう!」「リスタートから走るぞ!」「日大プライド!」
方々から言葉がかけられる。
「事前に集めていた情報とはかなり違っていた。選手が慌てる場面もあり、後半途中まではかなり厳しい展開でした」とは中野監督。
しかし、慌てず大崩れしなかったことが最後の逆転劇へと繋がった。
後半、いくつかのターニングポイントがあった。
1つはスクラム。
前半でタイトヘッドプロップ(3番)が交代すると、後半冒頭のスクラムが崩れてしまう。マイボールスクラムを押され、ターンオーバーを許した。
フォワードの選手たちにとっては屈辱だろう。
それでもスタンドに控える仲間たちからは、交代しピッチに入った18番・越後雄太選手に向かって「もうお前しかいないんだ!」「気持ちやぞ!」「エチゴ頑張れ!」とスクラムが組まれる度に熱い声が飛んだ。
グラウンドでともにスクラムを組んだ平坂キャプテンも「8人全員で組もう、という声をみんなが掛けていた」と振り返る。
そんな仲間の応援を背にした日大フォワード陣。徐々に安定すると、ラスト5分間に組まれたスクラムは全て組み勝った。
レフリーの手が日大側に上がれば、全員が越後選手に駆け寄り歓喜の輪を作る。
2つ目のターニングポイントは、19番・太田寿一郎選手が登場した時。
後半27分にピッチに入ると、仲間たちは一際大きな声で迎え入れた。最初のラインアウト前、かたく肩を組み息を合わせ、エネルギーを持ち寄り合う。
3つ目は、SH 前川李蘭選手のコンバージョンキック。
それまで12番・広瀬龍二選手が担っていたプレイスキッカーをリザーブから出場の前川選手に代わると、広瀬選手は近寄っていくつか言葉を交わした。
そうして蹴り上げられたボールは、見事ポールの真ん中を通る。
1点のビハインドを1点のリードに変える、難しい位置からのコンバージョンゴールを成功させた。
手を挙げ、全速力で仲間のもとへ戻って行く前川選手
そして迎えた、後半39分。
19番・太田選手が試合を決定付けるトライを決めれば、選手たちはいくつにも折り重なって喜びを表した。
「最後は自分たちがやってきたことを取り戻してくれた」と中野克己監督が安堵すれば、平坂キャプテンも「春・夏と勝ち切れないゲームが多かった。初戦、苦しみながらも自分たちのラグビーが出来たこと、そして勝ち切れたことが収穫です」と笑顔を見せる。
後半20分から出場したHO井上風雅選手やSH前川選手ら、リーグ戦を戦い慣れている選手たちがリザーブに控え、試合を落ち着かせたことも大きかっただろう。
日本大学が11点差で勝利を収めた。
試合後、応援に駆け付けたスタンドを見上げた選手たちの中には、涙を流す者もいた。
「春・夏と結果を出すことができず、選手の中でどうしても不安が生まれていました。そんな状況下での今日の試合内容。安心した涙かな、と思います。」
キャプテンは、優しい笑顔でおもんぱかった。