282日越しに手渡された表彰状。東福岡『感謝』の優勝。報徳学園も『ありがとう』の銀メダル|報徳学園×東福岡|第102回全国高等学校ラグビーフットボール大会 決勝

ラストクオーターで奪った3トライに1PG。最後にいかんなく発揮された、東福岡の強さ。

しかしその裏では、様々な人たちの協力と想いとが支えになっていた。

選手、コーチらが口を揃えて感謝するのは、2人の分析班。OBの森野幹太氏、有田将太氏が昨年度から分析を担当するようになり、今大会も寝ずのダブル分析で支えた。

様々な角度から映像を撮って相手チームの弱点を洗い出すだけでなく、TV放送された試合映像を最も見易い形にまとめ、コーチ陣が無駄な時間を作らないよう気も配った。

もちろん、それだけではない。コンディション状態を把握するGPS班も、遅くまで選手1人1人の体の状態を確認するトレーナー班も、朝のウエイトトレーニングを担当するS&C班も、多くの大人の目が携わる。

そういう多くの「サポートしたい」という人たちを拒むことなく受け入れ、作り上げた藤田雄一郎監督・稗田新コーチ体制のチーム東福岡。

「いろんなものを制限され、いろんなものを我慢した3年生たち。それでもラグビーに向き合った、すごい3年生たちでした。だからリザーブの選手には申し訳ないですが、徹底してスタートのメンバーで最後まで乗り切ろう、と。(藤田監督)」

誰一人として交代させず、15人の3年生たちで1月7日の決勝戦を戦い、勝ち切った。

「3年生の底力ってすごい。」

藤田監督は、しみじみと語った。


試合が終わり、大粒の涙を見せたCTB吉良陸人選手。肩を抱くのはバックロー生島拓海選手。ともにリザーブ登録としてベンチから支えた3年生たちだ

ノーサイドの笛が鳴った瞬間に、表情を崩した選手たち。喜び、涙し、これまでの1年間を、そして3年間に想いを巡らせた。

今季掲げたスローガンは『破』。

夏前に作ったチームTシャツには、背中に『破』と大きな文字で書かれている。文字の色は緑色で、右袖にある『Team 虎拓郎』の文字はオレンジ色。

チームカラーのみを使用した、そのデザインからチームへの愛着心は溢れ出る。

1月5日の壁を破り、頂へと上り詰めた3年生たちに、会場からは惜しみない拍手が鳴り響いた。

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表彰式で直接手渡された表彰状。

3月31日。ポリ袋に入れられた賞状を持ち帰ったあの日から、282日。

表彰状が読み上げられている間、大川虎拓郎キャプテンは1年間で初めて、グリーンを着て涙を流した。

胴上げに写真撮影。思う存分、頂点からの景色を楽しんだ後は、それぞれにロッカーへと向かう。

試合後のインタビューへと足を運ぶ藤田監督に、メインスタンドから声を掛けたのは東海大大阪仰星・湯浅大智監督だった。準々決勝で報徳学園に敗れた後も、準決勝・決勝を部員たちとともに観戦に訪れていたのだ。

「素晴らしい。すごい。」

湯浅監督がそう、藤田監督に声を掛ければ、藤田監督も「昨年のキミの気持ちを味わってる。また一緒に頑張ろうね」と返した。

終わりは始まり。

高校ラグビー界がともに高みを目指す新たな1年が、始まる。

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東福岡にとっての転機は、9月に行われたオーストラリア高校選抜との国際親善試合だった。

久しぶりに味わった悔しさ。圧倒的なパワーとスピード、強さに対する対応力。

藤田監督、そして大川キャプテンも「あの一戦がチームとしてリセットする日になった」と口を揃えた。

「今も交流は続いていて、その時のキャプテンとはSNSで連絡を取り続けています。僕たちが決勝戦に進んだことも知っていて、今日は何人かで集まって配信を観てくれるそうです。(大川キャプテン)」

その時のキャプテンとは、セバスチャン・ブッシュ選手(ノーザン・ビーチーズ・セカンダリーカレッジ)。

東福岡と試合を行った日に18歳の誕生日を迎え、東福岡の保護者の方々からサプライズで祝福を受けていたブッシュ選手は、決勝戦を終えた東福岡に対しコメントを寄せた。

「すべてを支配した東福岡の激しさと緊迫感は、称賛に値します。圧倒的なタックルやヒットアップ、そして自発的か即興的かに関わらず、完璧にパスを通すことができていました。

東福岡のバックラインはとても良く繋がっていて、厚みがあるように見えた一方で、しかし報徳学園のバックスに対するディフェンスにおいては時折バラバラになり、それがラインブレイクに繋がったように思えます。

全体として、東福岡はまさしく優勝に値するチームです。チームには優れた選手が何人かおり、そんな彼らが日本代表としていつの日か活躍することを楽しみにしています。東福岡と対戦した思い出は、彼らと同様、僕自身も忘れることは決してありません。」

いつの日かテストマッチで再び戦う日まで。国境を越えた仲間との切磋琢磨は続く。

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