「どうしましょう? ほんとに、どうしたらいいんでしょう僕は?(笑)」
インタビューの冒頭、197cmの能勢涼太郎選手(近畿大学4年)は何度もそう繰り返し、屈託のない表情で笑った。
ラグビーを始めたのは、高校生になってから。
当時すでに身長193㎝。するとすぐさま日本ラグビー協会が人材を発掘・育成する合宿『Bigman&Fastman Camp』に招集された。体格や身体能力に優れた高校生世代の選手に焦点を当て、有能なタレントを確実に優秀なタレントへ育成することを狙いとして実施されるものだった。
その後能力は順調に花開き、高校3年生で高校日本代表候補入りを果たした。その頃はまだ新型コロナウイルスが猛威を振るっていたため海外遠征をせず、国内でのエキシビションマッチに留まったが、大学2年時にはU20日本代表として、ワールドラグビー U20チャンピオンシップにも出場した。今春にはU23日本代表として、エディー・ジョーンズ日本代表HC指揮の下、オーストラリア遠征にも出向いている。
初めて胸にした桜から、早4年。
いま、日本代表の一つ手前に位置する、JAPAN XVのスターティングメンバーにまでたどり着いた。
もう一度、いや何度も何度も言う。
「どうしましょう?僕はどうしたらいいんでしょうか?」
“テレビで見ていたあの人たち”と、同じフィールドに立つことが『どうしましょう』の一因だ。
「この合宿が始まるときにLINEグループに招待されたのですが、メンバーを見て『うわ、どうしよう!ここまできたんか・・・』と思いました」
すぐさま高校時代の仲間に連絡を入れ、抑えきれぬ気持ちを分かち合った。
「どうしよう、このメンバーで僕ポジション争いするんだけど!!」
するとかつての仲間からも、興奮した返信が続々と入る。
『青木(恵斗)さんがいる!』
『奥井(章仁)さんがいる!』
『テレビで見た人だ!』
『(山本)嶺二郎さんも来る!』
ラグビーファンの気持ちで、ひとしきり地元の仲間と興奮したのだと笑った。
だが戦いの瞬間が訪れれば、自らに求められていることも、自分がすべきことも、自らに向けられた期待もしっかりと理解する。
「(U23日本代表に続き)継続して呼んでもらえているのはありがたいこと。目をかけてもらって、ラインアウトのコーラーも任せてもらっています。ハッツ(ニール・ハットリー アシスタントコーチ)からも『リーグワンの選手を引っ張っていく気持ちでやれよ』と言われていて、良い経験です。ここでアピールしたら『日本代表にもいけるんじゃね?』『俺、頑張れるんじゃね?』っていうモチベーションにもなるし。そういうレベルで頑張りたいな、とも思います」
扉が開いた、日本代表への道。
しかし正直ゆえ、ためらいも口にする。
「ラグビー選手であれば日本代表になりたい」という、まぎれもなく強い気持ちを有する一方で「ラグビーファンとしての気持ちが、やっぱりまだ強い」とも隠さずに明かした。
「ラグビーファンとして”なぜかここにいる俺”。それから”日本代表になりたい俺”が混ざっている感覚です」
きっとこの感情は、すぐに一方が消え去るのだろう。この瞬間しか味わえぬ、混ざり合った感情が、うそ偽りのない21歳の桜に栄養を与える。
NZUとの対戦は、能勢選手にとって2年前のリベンジマッチでもある。U20日本代表候補として秩父宮ラグビー場でNZUと対戦した時にはノンメンバー。だから今回の対戦相手がNZUと聞いて、二つ返事で『行きます!』と声をあげました」
試合前日。意気込みを問うと、朗らかに答えた。
「リーグワンの選手たちの方が絶対に上手いです。この中で僕が一番下手くそだと思っています。でも、いい意味で捉えたら、僕はもうこれ以上落ちることがないので。ここから上がることしかない、だからめちゃくちゃ頑張ろう!と思っています」
けっして卑屈ではない自己評価。逃げずに向き合う強さが、さらなる大きな桜を手繰り寄せるだろう。
「雑草魂で頑張ります!」
これは、夢を追いかける、ひとりの“雑草プリンス”の物語。
そのプロローグである。