この一歩を、花園での年越しへ。川越東、72人で戦う1年

初夏の大一番。第73回関東高等学校ラグビーフットボール大会への出場を決めたあと、望月雅之監督はベンチ前で小さくうなずいた。

「しっかり決められて良かったです」と静かに言葉を発する。

その穏やかな声の裏には、積み重ねた日々への誇りと、次なる挑戦への決意が滲んでいた。

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川越東ラグビー部は現在、部員72名の大所帯。春先は主力選手に負傷者も出たが、それを“底上げの好機”へと変えた。

フォワード陣は総入れ替えしても戦えるほどの力をつけ、BチームがAチームを圧倒するスクラム練習も珍しくない。

大学レベルのウエイトトレーニングも導入され、立教大学から招聘したFWコーチやトレーナー指導のもと、基礎体力の強化に励んでいる。

「体ができれば、圧倒できる」

その一心で、全員が日々を積み重ねている。

今季キャプテンを務めるは、ウイングの飯野幹也選手。高校からラグビーを始めた選手だ。

かつては野球少年。「先輩たちが楽しそうだった」という素朴な理由からラグビー部の門を叩いた。

1年時はBチーム、2年の新人戦でリザーブ入り。少しずつ経験を積み、今やチームの先頭に立つ存在となった。

「え、まさか自分が?」と語るキャプテン就任の裏にあるのは、驚きと同時の覚悟でもある。

「役職があってもなくても、やることは変わらない」と淡々と語るその姿に、チームの中枢に立つ決意が滲む。

「最初は足ばかり引っ張っていましたが、Aチームでやらせてもらってスキルも上がった気がします」

素直な言葉に、実戦の中で得た確かな手応えが宿る。

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川越東の強みは、展開力にある。飯野キャプテンのようなウイングも、ただ外に張るだけでなくボールを求めて動く。

「ラグビーの難しさは、むしろ面白さ」。未経験から始めたとは思えぬ視野と熱量が、今の川越東を形づくっている。

準々決勝では、アイディアに満ちたトライも生まれた。10番に”復活”した岡部史寛選手が裏へ蹴り込み、見事に奪ったトライは圧巻だった。

「岡部は関東新人大会まで15番でした。でも前(10番)に戻ってきて、チームは変わったかな。ボールが回るようにもなった」と目を細めた望月監督。バイスキャプテンという役割も与えられた、花園の舞台を知る岡部選手が、今年の川越東の攻撃の中心に立つ。

さらには、秘密兵器も控える。

決勝戦でナンバーエイトとして先発したのは、身長183cm・体重100kgの松本暖選手。4月に入学したばかりのルーキーが、チームにパワフルな活力を与える。

選手層の厚さが武器となりつつある川越東。

「誰が出ても変わらない」と語る監督の言葉には、選手たちへの揺るぎない信頼がにじむ。

今季、目標を「花園での年越し」と定めた川越東。

2年前、花園で1勝を果たした先輩たちが届かなかった景色を、自分たちで超えるために。

やらなければならないこと、やりたいこと。それぞれ山のようにリストアップし、いま「全員で強くなる」。それが、川越東の目指す到達点だ。

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6月6日から始まる第73回関東高等学校ラグビーフットボール大会には、埼玉県2位として向かう。

飯野キャプテンの覚悟は、それでも変わらない。

「先輩たちが届かなかった場所に、自分たちが辿り着く」

15人ではない。登録メンバー25人、いや部員72人で。全員の思いをひとつにして、川越東は前を向く。

この一歩を、花園での年越しへとつなげるために。

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