【筑紫】僕たちには『走れタックル、魂のタックル』がある。だから、今年のスローガンはいりません。それが僕たちのやるべきことだから

ボールを持った。

放らずに、前へ出た。

体を掴まれながらも、倒れず、右足を一歩前へと進めた。

福岡県立筑紫高等学校ラグビー部は昨年、創部50周年を迎えた。

51年目の歩みを踏み出した今年、主将を務めるSO/CTB草場壮史選手は、その姿でチームを牽引した。

年度が変わる直前に行われた、春の第26回全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会でのこと。

全国屈指の強豪・大阪桐蔭と戦った2回戦、スコアだけを見れば60-7と大差がついたその試合で、草場キャプテンのプレーにはチームの“意志”が宿っていた。

「どこかで自分がラインブレイクをして、チームを前進させないと、と思っていました。僕は、仲間を言葉で鼓舞するようなキャプテンではないから。だから、プレーで見せるしかないと思っていました」

12番として出場していた草場キャプテンは、ボールを持てば陣地を進めるべく足を動かした。

もしかしたら、ボールを離した方がエリア獲得に繋がった場面はあったかもしれない。

それでも、そのボールキャリーでキャプテン像を示したかった。

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新チームが始動して以降、筑紫の練習環境は大きく変化した。

九州の高校で慣例となっていた、早朝の朝学習『0時間目』。これが廃止されたことで、筑紫でも朝練習が可能となった。

1日おきに学年ごとに分かれ、ウエイトトレーニングに励めば、成果は数値として表れる。

草場キャプテンはシーズン当初、体重78kg。それが春の時点で83kgにまで増加する。

「掴まれても前に出られるようになった。走りに力がついたと思います」

プレーの幅が、確実に広がった。

この試合で特に印象的だったのは、試合終了間際のトライシーンだろう。

フォワードがトライライン前で何度もフェーズを重ねれば、力でこじ開けた。

「バックスは“出せ”って叫んでたんですけど、フォワードは“出すな”って言ってたんです(笑)」と表情を崩した草場キャプテン。

率いる長木裕監督は「筑紫が『TF=トライフォーカス』と呼んでいるピック&ゴーにこだわった結果のトライ」を喜びつつ「みんなの“俺がやる”という気持ちが、あの場面に詰まっていた。プライドが出たんでしょうね」と目を細めた。

ボール支配率(ポゼッション)は、大阪桐蔭を相手にもほぼ互角。

それでも50点以上の点差がついたのは、筑紫がチャレンジを選んだからだった。

「自陣からでもバンバン回していました。インターセプトされても『ナイスチャレンジ』と声が出ていた。失点を抑えられる戦い方はあったかもしれない。でも、僕たちは“攻める意志”を示しました。その延長に、後半35分のトライがあったと思います」

長木監督は、大きな手応えを口にした。

そんなチャレンジを支えたのは、筑紫が大切にしてきた文化『魂のタックル』にある。

草場キャプテンは、試合中に訪れた忘れられない光景を打ち明けた。

相手ボールラインアウトから展開されたボールに対し、6番・大平一颯選手が猛烈なタックルを決め、相手のノックフォワードを誘発した場面のこと。

その衝撃で、大平選手は“バーナー”(頸部神経過伸展症候群、タックルなどの衝撃によって一時的な痛みやしびれなどが生じるもの)となって倒れた。

そんな仲間の姿に、筑紫フィフティーンの感情は震える。

「みんな、各々感じるものがありました。大平が倒れている間に円陣を組んだんですけど、みんな泣きそうになっていて。『仲間が(タックルに)行ってるから』『今からは、俺たちが(大平が行ったタックルを)代わろう』と口々にしていたことが、忘れられません」

長木監督も「やっぱりタックルなんです。やっぱり筑紫は、タックルで流れが変わるんです」と口にした。

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筑紫は今季、スローガンを設けなかった。

「自分たちには『走れタックル、魂のタックル』があるからスローガンは必要ない、って選手たちが言ってきたんです。僕が監督になってからは初めてです。それもいいな、と思いました。嬉しかったです」

長木監督は感慨深げに語った。

「スローガンは、いりません」

草場キャプテンがそう語るように、筑紫には揺るがない『文化』がある。

走れ、タックル。魂の、タックル。

魂を乗せた一つのバインドが、筑紫を形作る。

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「もう一回、タックルからやり直します」

長木監督がそう誓ったのは、桜が咲く直前のこと。

それから2カ月が経ち、6月に行われた全九州高等学校ラグビーフットボール大会福岡県予選大会 決勝では、強豪・東福岡高校に24-31と肉薄した。

ーー僕たちには、筑紫に根付く『走れタックル、魂のタックル』がある。だから、スローガンはいりません。それが僕たちのやるべきことだからーー

チームとしての文化がある。そのことを理解するキャプテンが先頭に立つ、今年の筑紫。

創部50周年を越え、踏み出す51年目の新たな一歩目は『筑紫』へと帰るタックルだった。

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