「キャップを1つ持って帰ってこい」空を見上げ、踏み出した1歩|竹之下仁吾・JAPAN XV(明治大3年)

選手入場時。

空を見上げながら、芝を踏み込んだ。

国歌斉唱時。

その表情に、笑みを浮かべた。

6月28日(土)に秩父宮ラグビー場で行われた、リポビタンDチャレンジカップ2025 JAPAN XV 対 マオリ・オールブラックス。

15番の背番号をつけ先発出場したのは、明治大学3年生の竹之下仁吾選手だった。

ファーストプレーは、ハイボールキャッチ。

キックオフ後1分に満たないファーストタッチ。確実にボールを腕の中に収めれば、まずはひとつ、自ら当たった。

セカンドタッチはメイン平選手へのパス。

サードタッチはラックからの球出し。

この間、前後左右に絶えず動き続ける。

前半7分。すでに手を、頭上に置いた。

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前半9分、JAPAN XVがファーストトライを奪った。

ディフェンスでプレッシャーをかければボールがこぼれた所を逃さず拾い上げ、一気に攻撃へ。

順にボールを展開して、11番・植田和磨選手が鮮やかな先制トライを決めた。

その外側には竹之下選手も待ち構えていたが、植田選手はパスを放ると見せかけ内にステップを切る。

「(ボールが)欲しかったですけど・・・(笑)でも僕がもらっていたら(ディフェンスが)2人来ていたので、あれは和麿くんが行くのが正解やったかなと思います」

自らがオプションであったことを喜べば、報徳学園高校の2学年上の“先輩”に真っ先に駆け寄り、笑顔で飛びついた。

前半14分、キックチェイスに全力疾走。

前半16分、ノックオンと分かっていても笛が鳴るまで全力でプレーを続けた。

前半17分にはスクラムで反則を誘ったフォワードにサムアップ。

前半23分には、逆サイドの危機を察知し一気にカバー。わずかに間に合わずトライを許したが、その献身性と判断力は光っていた。

そして迎えた前半32分。

こんどは竹之下選手から大外にいる植田”先輩”へと放ったアシストパスから、セカンドトライが決まった。

タックルを受けながらもラストパスはしっかりと軌道を描き、トライアシスト。

直前まで逆サイドにいたが「スペースがあったので、僕が移動した。あれは自分の持ち味」という嗅覚でお膳立てした。

「(植田選手とは)高校から一緒にプレーしていたので、やり易かったです」と、先輩との共演を楽しんだ。

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この試合で、竹之下選手が自らに課したテーマがある。

『自分を強く出す』こと。

ボールを持っていない所での運動量を強みとしているからこそ、エディージャパンが肝に据える『ゴールドエフォート(ひとつのプレーの後、休むことなく次のアクションへと向かう最大限の努力)』で存在価値を示したかった。

だからこそ、セカンドトライへと繋がった「自分の持ち味」を発揮できたことにも喜んだ。

シオサイア・フィフィタ選手に代わり、中楠一期選手がピッチインした前半25分からはウイングとしてもプレーした。

練習時には、メンバー交替をしてもフルバックの位置でプレーしていたため「ウイングになるとは思わなかった」と素直な気持ちを明かした一方で「もしかしたら・・・と、ウイングとしての準備はしていました。でもそんな入念にしていたわけではなかったです。サインは頭に入れていたので動きはできましたし、ウイングもできるポジションなので、臨機応変に対応できたかなと思います」

ここでも、自身の強みを発揮した。

試合終了を告げるホーンが鳴る7秒前には、またしても大外にカバーランを見せた竹之下選手。

結果的に被トライ。自身の強みである献身性が表れた1シーンではあるが「ブラインドサイドに人がかたまってしまって、外側でオーバーラップされた。コミュニケーションを取って良いスライドはできていたと思うのですが、メンバーを早めに動かすコミュニケーションを僕から取ったり、枚数を増やしたりすることが課題です」とネクストステップを見据える。

それでも、これが聖地・秩父宮ラグビー場で初めて桜のエンブレムを胸に携えた一戦。

想像していたよりもリラックスしてプレーできたことは「メンタルが成長している」証だと認識する。

自身がこれまで課題としていた『プレッシャーへの向き合い方』に、確かな手応えを示した。

一方で、この日の足の疲労はこれまで感じた類いのものではなかったという。

「もっと僕が後ろから喋っていれば、防げたトライもあったのではないかな、と思います。ディフェンス時の横とのコネクトは、もう一回見直していきたいです」

次なる成長の道しるべを、早くも定めた。

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21歳の夏。

チャレンジの夏。

試練の、成長の、覚悟の夏。

明治大学で監督を務める神鳥裕之氏は、竹之下選手にあたたかなエールを送る。

「この試合がゴールではない。本当にスタートです。まずはこのゲームがどれだけ重要になってくるか、ということは本人が一番分かっていると思います。とにかく自分らしく思いっきり戦って欲しいです」

そして「キャップを1つ持って(明治大学に)帰ってこい」と伝えていることを笑顔で明かした。


応援ボードを携え応援に駆け付けた明治大学の仲間(スタンド上段)に手を振る竹之下選手

恩師からのエールを心に、続く日本代表活動。

翌週末には、日本代表として戦うウェールズ代表とのテストマッチを控える。

試合メンバーに選ばれたらどのようなプレーをしたいか、と問われた竹之下選手は朗らかに言った。

「僕の強みを出しつつ、今日取れていなかったディフェンスのコミュニケーションを改善して、トライを防げるプレーを出したい。ディフェンス面でも貢献したいと思います」

そして「ラインブレイクをもっと増やせるような、走りでも貢献できるような選手になりたい」と、桜に決意を示した。

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