新人明治
新人早明戦。
ラグビー部員として一生に一度しか訪れない舞台で、明治大学のルーキーたちが躍動した。
「早明戦という伝統ある試合に勝ちたい、という思いがありました。だから勝ち切れたことは良かったです。緊張は特になくて・・・とりあえず勝たなあかんな、と思っていました」
そう話したのは、ゲームキャプテンを託されたLO百武聖仁選手。
試合前、百武キャプテンは仲間たちにこんな声をかけていたという。
「早稲田さんは絶対、最後までプレッシャーをかけてくる。絶対に走ってくる。だからそこに負けずに、僕たちが走り勝っていこう」
その言葉通り、最後まで足を止めなかった明治フィフティーン。ピッチ上で“走り勝つ”姿勢を貫いた。
この試合で明治のスタンドオフを務めたのは、國學院栃木高校出身の神尾樹凛選手。12番には東海大相模高校出身の長濱堅選手が入った。
どちらもスタンドオフを主戦場とする選手ながら「長濱はフルバックなど他ポジションの経験も豊富。今回はそのユーティリティ性を活かした布陣だった」と、神鳥裕之監督は説明する。
「高野彬夫ヘッドコーチの考えとしても、『一つのポジションだけでなく、いろんなポジションを経験できる選手のほうがチャンスが多くなる』というメッセージを出しています。昨年の白井瑛人(現・2年生)もそうでしたが、複数ポジションを担える人材を育てていくことが大事です」
後半、神尾選手がピッチを退いたあとは、長濱選手がそのままスタンドオフの役割を引き継ぎ、堂々とゲームをコントロールした。
伝統と挑戦が交差する、特別な一戦。
その舞台で、明治のルーキーたちは、一人ひとりが確かな足跡を残した。
「みんなでつくるチームに」百武聖仁のリーダー像
スキルフルな選手も、キャプテン経験豊富な選手も揃うチームにおいて、この一戦でゲームキャプテンを務めたのはLO百武聖仁選手。
任命意図を指揮官に問えば、返ってきたのはいたってシンプルな答えだった。
「学年リーダーだからです」
明治大学ラグビー部では、学年ごとにリーダーを立てる風習があり、その選出は学生同士の話し合いによって決まる。
「僕たちスタッフよりも、学生たちのほうがよく見ている」と神鳥監督は語り、百武選手がその過程で選ばれたことに一目置いた。
オンフィールドだけではなく、寮生活や日々の取り組みなど、ともに過ごす時間の中で培われる仲間からの信頼。
「(百武選手は)しっかりしています」と、一言添えた。
当の百武選手自身も、与えられた役割をしかと受け止める。
「やる、となったらやろうかなと」
中学時代にはキャプテン、高校時代はクラブリーダー。節目で常にリーダーとしての責任を担ってきた、まさに生粋のキャプテンシーを備える存在だ。
そしていま、新人早明戦での勝利を皮切りに始まった、明治での4年間。
「みんなで作っていくチームにしたいです。意見を出し合って、切磋琢磨していきたい」
百武選手が目指すのは、誰かひとりが引っ張るチームではない。声を出し合い、支え合い、ぶつかり合いながらも高め合うことができるチーム。
仲間とともに歩む紫紺の未来を、果たしてどんな色に染めていくだろうか。
「スクエアに、真っ直ぐに」 早稲田を押し込んだスクラムの信念
「自分たちのセットアップをしっかりと出したら、絶対自分たちが前に出られるぞという話をしていました。相手に合わせるのではなく、自分たちのセットアップでスクラムを組むことができて良かったです」
この日、早稲田を圧倒したスクラムをフッカーとしてコントロールした井本章介選手は、そう試合を振り返った。
ゲームメンバーでスクラムを組み込んだのは、わずか1週間。
それでも井本選手は「修正力で勝負しよう」とチームに働きかけた。
「試合の中でコミュニケーションをとって、相手の組み方に対して自分たちの強い組み方を当てよう」と話し合っていたという。
特に前半に生まれた、会場を沸かせたスクラムトライは圧巻。「スクエアで真っ直ぐに組もう」と決め、挑んだひと組みから生まれたトライだった。
「1番側か3番側、どちらかが回ったらスクラムトライは生まれません。1番から3番までが真っ直ぐ組んで、真っ直ぐ押さないと進みません。だからスクエアに組んで、スクラムでトライまで行こう、と話し合っていました」
トライを告げる笛が鳴ると、選手たちはそれぞれに大きなガッツポーズを見せ、雄叫びをあげ喜んだ。
この日は、自らのキックで50:22を決める場面もあった。
「ボールをもらったとき、相手の裏にスペースがあるのが見えました。そこに向けて蹴り込んだら、たまたま50:22になってくれた」と振り返るが、明確な狙いがあったことは確かだ。
相手の背後へ、照準を定めて放ったキック。その一蹴もまた、彼のラグビースキルを証明するひとつのシーンだった。
「春シーズンの最後に、良い締め括りができました。ここから夏に向けて、もっともっと成長して、早く紫紺を着ることができるようなプレイヤーになりたいです」
スクラムのど真ん中から、チームを前に運ぶ存在へと、必ずやいつか。
「楽しかったです」紫紺に憧れたルーキーのハットトリック
「“新人”ですが、ずっと憧れだった早明戦に出ることができて、好きな同期たちと80分間プレーできて、とても楽しかったです」
そう語ったのは、明治大学1年・CTB井手晴太選手。
この日はなんとハットトリック。伝統の一戦で躍動した。
幼稚園から高校まで、成城学園ひと筋だった井手選手。明治大学は、彼にとって初めて“成城以外”の学校となった。
「僕自身、紫紺のジャージーに憧れていました。でも、実は母が学生時代から明治ラグビーのファンで。母の好きなチームに入ったら、母も嬉しいかな?と思って、明治に進もうと決めました」
高校時代に所属した成城学園は、過去に2度の花園出場歴があるものの、80年近くその舞台からは遠ざかっている。
だから「いわゆる“強豪校”出身ではない」というが、それでもいま井手選手が身を置くのは“日本一”を目指す集団。全国の猛者たちが揃う明治大学ラグビー部だ。
「マインド的に『追いつこう』という立場になってしまったら、消極的になってしまうと思うんです。だから『自分が引っ張る』まではいかないですが、自分が強豪校出身ではないことは一切気にしないでプレーしようと思っています」
「高校のときから見ていた、有名で上手な選手たちと一緒にプレーして、自然と”そういうレベル”に慣れていけたことが、今日のプレーに繋がったのかなと思います」
謙虚に、だが自信をもって語った。
ボールを持てば『自分がプレーを生み出すんだ』と言わんばかりに意志の宿った足運びは、高校時代に比べ随分と力強さを増した。
歴史ある一戦で決めた3本のトライ。
プレーを終えた井手選手は、やっぱり笑顔で言った。
「楽しかったです」
ハットトリックのその先へと、歩み出した。
神鳥裕之監督コメント
昨年は(新人早明戦で)負けているので、勝利できて良かったです。
昨年も、今の4年生も負けているんですよね。通常、新人早明は明治がしっかりと勝って、早稲田がその差を3年かけて埋めてくるという構図が僕らの中では”あるある”だったんですが、ここ数年その方程式が崩れていたので・・・。
我々としてはこれだけ良い学生たちをリクルートしているので、まず最初の戦いでしっかりとアドバンテージを作るというのは大事なことだと思います。そういう意味では、これだけのスコアで勝てたことは良かったですし、そうでなければダメだという気持ちで選手たちにはいてほしいですね。
今年は活きのいい選手が揃っていて、負けん気も強いですし、1年生らしくて良い試合だったんじゃないかなと思います。