8月31日に幕を開けた第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会 埼玉県予選。
記念大会となる今年は、埼玉県から2校が全国大会へと出場するため、トーナメントは2つの山に分かれて進行している。
11月8日(土)には熊谷ラグビー場Bグラウンドで熊谷高校(Bシード)対本庄第一高校(Aシード)の準決勝が行われ、熊谷高校が決勝戦へと駒を進めた。
決勝は11月15日(土)、熊谷ラグビー場Aグラウンドで行われる。
熊谷 23-19 本庄第一
800人の観客が詰めかけた一戦。
先に主導権を握ったのは熊谷だった。12番・田留源太郎選手がペナルティゴールとドロップゴールを沈め、6点を先制する。
本庄第一も負けじと10番・森祐樹選手がトライを決めれば6-5と詰め寄ったが、前半21分には熊谷15番・田留継ノ介選手が、前半30分には14番・塚田徳真選手が立て続けにトライを決め、16-5。
熊谷の11点リードで前半を折り返した。

このまま熊谷が勢いに乗るかと思われたが、後半はしかし、本庄第一が反撃に出る。
熊谷のタッチキックミスから好機を得ると、後半8分に本庄第一SO森選手が、20分には2番・渡辺陽心選手がトライを決め、16-19。
この試合初めて、本庄第一がリードを得た。
「ハーフタイムには『0-0という気持ちで後半をスタートさせよう』と声を掛けたのですが、点差があったので気持ちに余裕が出てしまったのか、自分たちがやろうとしていたことが疎かになってしまった。それは絶対に反省すべきところ」と話すは、熊谷高校のNo.8鯨井蒼キャプテンだ。

両校の応援が熱を帯びた、試合最終盤。
リードしている本庄第一にペナルティが重なる。後半24分には故意のノックフォワードによりイエローカードが提示された。
数的有利を生かしたい熊谷。もちろん、次のプレーではラインアウトモールを選択する。
その意思をレフリーに伝えた時の、熊谷・鯨井キャプテンの表情は不思議と穏やかだった。
「何回もやってきたこと。ここで取ってなんぼ、ということを仲間に伝えたくて。周りを落ち着かせるためにも、自分が険しい顔をしていたらいけないと思って、あえて落ち着いてやろうとしました」

後半30分。熊谷はモールで前進すると、そこでもペナルティアドバンテージを得た。
7番・加藤琉選手がトライゾーン目掛けてボールを蹴り込めば、ボールのバウンドに合わせ走り込んだのは、熊谷4番・関口颯選手。
再逆転のトライとコンバージョンゴールが決まり、23-19とした。

残されたロスタイムは2分。
熊谷はリスタートキックオフからボールを保持し、自陣でフェーズを重ねる戦術に出た。しかし笛が鳴ると、レフリーの手は本庄第一サイドに上がる。
「練習でも“残り1分を守る”という練習をしてきたので自信はありました。でも、最後は少し弱みが出たなと思います」(熊谷・鯨井キャプテン)
自陣トライゾーン前で迎えた、本庄第一の最大の武器・ラインアウトモール。熊谷は必死のディフェンスでこれを耐え抜いた。
そして響いたノーサイドの笛。
熊谷の、1990年以来35年ぶりとなる決勝進出が決まった。

試合後。
熊谷の鯨井キャプテンと、本庄第一の亀田優斗キャプテンは互いに手を伸ばし、肩を抱き合った。
「絶対に勝つ」と声を掛けたのは、熊谷・鯨井キャプテン。
「本庄第一さんも、昌平戦に焦点を当てていることは知っていました。だからそこは汲み取って、僕たちが絶対に勝とうという気持ちを込めて『絶対に勝つ』と伝えました」
昌平への挑戦権を、熊谷が手にした。

熊谷高校
勝つための準備を
関東大会予選準々決勝で本庄第一に敗れ、関東大会出場を逃したのは4月のこと。
「半年前、本庄第一に12-17で負けた時から、すべては始まった」と語るのは、熊谷高校ラグビー部の横田典之監督だ。

この日、熊谷が掲げたキーワードは『遂行力』。
「決めたことを効率よくやり切ること、そして決断すること。それを勇気を持ってやってくれた。フォワード一辺倒ではなく、バックスにボールを出してしっかり取り切ってくれた。チャレンジした試合だったと思います」
横田監督は、選手たちを称えた。
なかでも目を引いたのは、スクラムハーフの野村幸佑選手だ。
フォワードのサポートに頼らず、自らの瞬発力でボールを次へと繋ぐ。リズムを生み出すそのプレーは、まさにチームの心臓だった。
「ノーオーバーで捌いていた。異次元の捌きだった」とまで指揮官に言わしめた。

FWの安定したセットプレーと、ラグビーIQの高いバックスが繋いだ攻撃で、一時は11点のリードを手にした熊谷。しかしミスから流れを明け渡すと、後半終盤に逆転を許す。
それでも後半30分、トライを取り切り再逆転。4点のリードを得て、試合はロスタイムへと突入した。

ここからが本当の勝負だった。
リスタートキックオフからボールを保持し、自陣でラックを重ねる。FWが次々と当たる姿に、横田監督の脳裏には、過去の苦い記憶がふと、よみがえった。
――終盤での逆転劇。あと一歩で届かなかった、かつての光景。
一度目は、第92回全国高等学校ラグビーフットボール大会・3回戦。当時、深谷高校を率いて花園に出場していた横田監督は、2013年1月1日、伏見工業高校(現・京都工学院高校)と対戦した。
深谷の10番は山沢拓也(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)、伏見の15番は松田力也(現・トヨタヴェルブリッツ)。後半28分まで19-18とリードしながらも、残り1分半で逆転トライを許す。
19-23。これが、一度目の“試合終了間際の逆転劇”だった。
二度目は、第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会・埼玉県予選準々決勝。
熊谷高校の監督として挑んだ2023年11月4日。前任校・深谷高校との対戦で、またしても後半ロスタイムに逆転トライを許し、2点差で敗れた。
そして、2025年11月8日。3度目となる同じようなシチュエーションを迎えたとき、過去2試合の記憶を「頭によぎらないようにしていた」と笑った横田監督。
「自分に賭けていたんです。これで負けたら“やっぱり俺、持ってないな”って。逆に勝ち切れたら、新しいフェーズに行けるだろうな、とも。選手のことは信じてましたけどね」
自陣でペナルティを喫し、相手ボールでのトライライン前ラインアウトモールを迎えたが、なんとか耐え抜いた。
そして鳴り響いた、試合終了の笛。
横田監督は「やっと呪縛から解き放たれた。やっと勝ち切れた」と、表情を緩めた。

次戦はいよいよファイナルマッチ。相手は、昨季・今季ともに県内無敗の王者・昌平である。
新人戦で22-40と敗れた記憶が、選手たちの胸には鮮明にあることは事実。
だからこそ、鯨井キャプテンは真っすぐに言葉を放った。
「昌平を相手に勝つ、という方針を絶対に自分から伝えたいです。もちろん強い相手だということはわかっていますが、だからといって気持ちで下がってしまったら本庄第一にも失礼。勢いとパワーで前に進みます」
熊谷高校が決勝に進むのは、第70回大会以来、実に35年ぶり。花園の舞台は、まだ踏んだことがない。
横田監督も、熱を込めて語った。
「勝つための準備をします。決勝に出られて良かった、なんて一つも思っていません。準々決勝や準決勝は“次がある”。でも、決勝は違う。高校生は接戦を勝ち切れると、ぐんと成長するんですよ。びっくりするくらい自信をつける。自分たちの良いところを出せる準備をします」
指揮官の目が、決戦へと向いた。

負けない、引かない
「ビッグゲームで失敗しないと育たないから」
「いいんだ、一蓮托生だから」
横田監督から、愛情あふれる言葉をかけられる選手がいる。
田留源太郎選手。2年生のインサイドセンターだ。

1年時からスターティングメンバーとして出場を重ねてきたが、この秋、チームの中心に立つ存在感はいっそう増した。
流れを変えた一蹴がある。
前半10分、敵陣ゴールポスト正面でアドバンテージを得ると、田留選手は迷わずドロップゴールを選択した。
ボールは美しい弧を描き、ポストの間を正確に抜ける。3点が追加された瞬間、会場はどよめきに包まれた。
もちろん誰に指示されたわけでもない。自らの判断で、試合の流れを引き寄せた。

身長180センチ、体重90キロ。しかし夏休みが始まった当初は、わずか81キロだったという。
U17関東ブロック代表のセレクションキャンプで全国区の選手たちとともにプレーすると、その体格に衝撃を受けた。
「デカすぎて、びっくりしました」と笑う。
そこから体づくりにいっそう打ち込めば、連戦続きで体重が落ちやすい夏も、ウエイトトレーニングと食事管理に全力を注いだ。
その結果、わずか4か月で約10キロの増量に成功。
地道に努力を続けられる力――それもまた、確かな才能である。

いよいよ迎えるは、高校生活初の決勝戦。対するは、2年連続4冠を狙う王者・昌平。
対峙を前に、田留選手は静かに言葉を紡いだ。
「決勝戦は、誰もが昌平が勝つと思っている中で、一発“やってやる”のが熊高だと思う。自分のプレーでまずは前に出て、チームを盛り上げたいです。自分のプレーがゲームの結果に直結すると思うので、コンタクトでもキックでも、負けたり引いたりせずに挑戦します」

「来週は全校応援と聞いています。めちゃくちゃ楽しみです」弟は1年生で唯一先発入りしているFB継ノ介選手
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