ゴールデンウイークに行われた、サニックスワールドラグビーユース交流大会2022。
石見智翠館高校男子ラグビー部は、過去最高成績となる3位で大会を終えた。
写真手前のFLが大沢櫂キャプテン。No.8はバイスキャプテンのホルス陸人選手
全員がコロナの制限下に入学した選手たち。練習試合すら、まともに経験することの出来なかった世代である。
安藤哲治監督は「より多くの選手たちに試合経験を積ませてあげたい」と今大会に臨んでいた。「全国の強豪校が集まる中で公式戦をこれだけ多く戦うことが出来る貴重な、有難い機会。当然優勝を狙う気持ちもありますが、何より経験値を高めさせてあげることが財産になると思っています。」
予選リーグから猛者との対戦が続いた。
初日の相手は東福岡。強豪相手に、ラインアウトモールから先制トライを奪った。前半を0点に抑えるディフェンスが出来たことも、自信となる。
ただ後半、ラインアウトが取れなくなってしまい攻撃のリズムを生み出せず。
「前半は自分たちがやってきたディフェンスやアタックのオプションが通じました。でも後半になって引き出しが減ってくると、ヒガシのアタックに翻弄されてしまった。そこで自分たちのアタックにプラスした次のこと、が出来なかったです。」と大沢櫂キャプテンは振り返る。
昨年度から東福岡とのゲームは『ベアーズカップ』に進化。勝者チームが両校のジャージを纏ったぬいぐるみ(ベアー)を持ち帰る。今回3度目のベアーズカップにして初めてベアーを持って帰るか、と光は見えたが最後に突き放された。「前半を7点リードで折り返したハーフタイムでも、選手たちは言っていました。『ヒガシが強いのはここからだぞ』って。いくら僕たちがリードしていても、何ら雰囲気が変わらないのが東福岡です。(安藤監督)」
予選リーグ2日目の名古屋戦は、ノートライで守り切り勝ち点5を獲得。
3日目の大分東明戦でも2日目の勢いそのままに、後半13分まで12-0とリードしていた。だがそこから2トライ2ゴールを決められ、12-14の逆転負け。
「点を取られたら取り返さないといけないのはもちろんですが、1トライ取られた後に相手の土俵に立ってしまったことが反省です。時間の使い方、そして自分たちのやるべきことを遂行するために頭を冷やすこと。学びの多い一戦でした。(大沢キャプテン)」
しかし、勝利の時にはトライ数でのボーナスポイントを、敗れても7点差以内のボーナスポイントを手にし、勝ち点を積み上げたことで3位グループの1位として順位決定トーナメントへ進出した石見智翠館。
準々決勝は不戦勝で勝ち上がり、準決勝で京都成章に敗れると、迎えた最終日の3位決定戦。相手は、予選リーグで逆転負けを喫した大分東明だった。
より多くの選手に経験値を、との事前の話通り、最終戦はメンバーを大きく入れ替えて臨む。キャプテン・バイスキャプテンを登録メンバーから外すと、先制トライこそ許したものの、徐々に粘り強さを発揮し後半4トライを奪ってリベンジを果たした。
一戦一戦、課題に挙げていたアタックで試行錯誤をしながら、徐々にフィニッシュまでアタックを継続し切る力強さを身につけた5試合だった。
3位決定戦後は、自然と両校が混ざって記念撮影
今大会で、チームとして出来たこと、そして出来なかったこととは。
「フルバック・加島優陽(2年生)のキックを含めて、エリアを取りながらマネジメント出来るようになってきた。ただどうしてもファーストフェイズでミスやペナルティが出てしまう。アタックの継続力が課題です。」とは安藤監督。
大沢キャプテンも「自分たちのやるべきことは、まずはディフェンス。そしてスペースアタック」と認識する。
「全国トップのチームと試合をする中で、やるべきこと以上のことをしないと勝てない、と今回の遠征で身に沁みて感じました。ラグビーのIQ、ラグビーに全てが繋がることを意識し、モノにしていきたいと考えています」と話す。
とはいえ、今でも充分心血を注いでいるはずだ。これ以上のことをやるにも、時間は限られている。まずどこに注力したいか、と問えば、迷いなく「私生活」とキャプテンは答えた。
「ラグビーは私生活、オフザフィールドの部分が出るスポーツです。寮に帰って、帰ったその日から自分たちがやるべきことはまず何なのか。そして自分たちが出来たことは何と何で、更に新しくやるべきことは何なのか。『やって当たり前のこと』に追加していく作業をしたいと思います。」
ただ、それはリーダー陣だけがやればいいわけではない。
「チームの誰一人として漏れていいわけではありません。全員で、寮生活から繋がりながらラグビーに取り組んでいきたいと思います。」
初戦から4名の1年生が出場。準決勝の京都成章戦では先発No.8を地元・福岡県宗像市出身の1年生・祝原久温選手が担った。「良い相乗効果が生まれ競争が激しくなっています。上級生の目の色が変わってきた。(安藤監督)」
3年ぶりに開催されたワールドユース。入学して初めて行われた大会を振り返れば、大沢キャプテンは感謝の言葉を口にする。
「8泊9日という長い期間、開催してくださったことに有り難みを感じました。コロナで辞退した学校もあった中、普通だったらその(辞退校が出た)時点で大会自体がなくなる可能性だってあったと思います。それにも関わらず、こうやって最後まで、形はどうであれ最後まで開催してくれたことに対して本当に感謝しかないです。自分たちの経験が積める、大切な機会になりました。」
気持ちが繋がること
今年のスローガンは、昨年同様『Stay Connect』。3月末に行われた選抜大会後、「気持ちの面でも繋がり続けていきたい」と進化の道筋を示していた大沢キャプテン。果たして今大会、気持ちの面で繋がり続けることは出来たのだろうか。
「出来ていない、とは言いません。だけど完璧に出来たか、と言われると、それは結果として出てしまっているので。自分たちが『出来ている』と思っていたとしても、予選リーグの東明戦、準決勝の京都成章戦と僅差で負けてしまった。結果論です。過程で疎かになった部分があったんだと思うんですよね。僕たちはこれから、そこを追求していくべきなのかな、と思っています。」
安藤監督も「ゲームの中でどう繋がるかが課題」と認識する。試合の中で同じ景色を見るためには、気持ちの面で縦にも横にも全方向で繋がらなければならない、と学んだ。
「監督とも『次がある』って話していて。花園とは違って次がある、というのがこの大会の良い所です。戦った相手は、花園でベスト4に上がっていくようなチームばかり。そのレベル感を、今の時期に身に沁みて感じることの出来る大会でした。いい経験が出来ました。(大沢キャプテン)」
今年、石見智翠館高校男子ラグビー部には47名の1年生が入部。2名のマネージャーを含め、部全体で109名の大所帯となった。
3年生30人、2年生33人、1年生46人。例年より部員が多い年にチームをまとめる立場に就いた大沢櫂キャプテンは、その覚悟を口にする。
「まずは自分がキャプテンとして、やるべきことを率先してやる。やらないとついてこないと思います。みんなと同じことをしていたとしても、絶対についてこない。みんなに『こいつが言ってるんやったら』って思われるようにするためには、みんなの倍、3倍4倍、とやらないといけないなと思います。キャプテンになった以上、覚悟していることです。」
ただ、1人では絶対に109人をまとめることはできない、と理解する。
「そこも繋がる。試合に石見智翠館として出させてもらっていますが、自分のため『だけ』じゃないですし、自分『だけ』じゃ絶対に勝てない。中心選手はもちろん、監督コーチ、サポートしてくれている選手や周りの方々のお陰で試合に全力を出すことが出来ます。そういうことを絶対、忘れてはいけないと常に思っています。」
100人を超えるチームを引っ張るキャプテンとして、この日一番、語気を強めた。
This is 大沢櫂キャプテン ~こんな選手です~
座右の銘:人事を尽くして天命を待つ
中学時代の恩師である、ラグビー部の顧問だった吉川先生から頂いた言葉です。中学生の時には副主将としてプレーしていたのですが、キャプテンはやっぱりみんなに口で言わないといけない。チームの前に立って、言わないといけないですよね。キャプテンって、実際に嫌われているか嫌われていないかは別として、どうしても嫌われる存在であると思うんです。
その中で僕は、副キャプテンとしてキャプテンを支えるということ。まず自分がやるべきことをやり続けて、チームのためにチームの土台として構えて、チームをしっかりと見る、ということをしていかなければならない、と教えてもらいました。但しやることを完璧にやり切ったら、結果はどうであっても胸を張っていたらいい、と言われたことを覚えています。
石見智翠館を志したきっかけ
大阪にある実家から走って10秒掛からないくらいの距離に、幼馴染の松田一家が住んでいます。お父さんは通っていたラグビースクールのコーチで、2つ上のお兄ちゃん(松田陸空選手、現・法政大学2年生)と同級生の弟(松田知恩選手、現・東海大大阪仰星高校3年生)は保育所から一緒。1歳の頃からの付き合いなので、親友歴は今年で17年目です。
2つ上のお兄ちゃんが石見智翠館に進学したことで、石見智翠館を知りました。中学時代には松田家と一緒に、花園遠征や御所遠征に付いて行ってましたね。
弟の知恩(しおん)は仰星に進んだので、高校の3年間離れています。1年生の時に一度練習試合をしたきり、公式戦では一度も戦ったことがありません。本当に尊敬しているからこそ、試合して勝ちたいですね。対面に立ちたいです(笑)
現在の夢
もちろん全国制覇が目標ですが、その中で「感動を与えられるチーム」になりたいなと思っています。勝つことはもちろん大事。だけど更に内容にこだわって「石見智翠館って格好良いな」「良いチームだな、強いチームだな」と思われるようなチームに、これからどんどんしていきたいです。
そのためにもどんどん勝利を重ねて、結果で示していきたいと思っています。そこは110人全員が繋がって。何度も言っていますが、全員で繋がって「感動を与えられるような格好良いチーム」を作り上げていくことが今の夢です。
最終戦はウォーターとしてチームを外側から支えた(写真中央)
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