左手首のテーピングに書かれた「主将」、そして「勝利」の4文字。
東海大相模の主将として、上村太陽キャプテンが示した覚悟だった。
始まりは神奈川県大会決勝まで遡る。
登録メンバーから外れた3年生たちが、出場選手のテーピングにメッセージを書き始めたことがきっかけだった。
「自分たちの分も戦ってくれ。」
上村キャプテンの右手首にはメンバー外の3年生たちが「5 魂」「勝」と書き、左手首には自らで「主将」「勝利」と記した。
託された想いは60分間を走り切るエネルギーに変わり、花園行きの切符へと繋がった。
神奈川県大会決勝戦。5番・上村キャプテンの右手首には『魂』の文字が濃く刻まれていた
そうして辿り着いた、花園の舞台。
足が動かない時。苦しい時。辛い時間帯。
上村キャプテンは、自らの手首に書かれた文字を見ては「主将としての意地を見せないといけないと思った」と奮い立った。
また花園ではグラウンドレベルに入れる人数が決まっている。
部員82人中、3年生は30人。全員がピッチへのアクセス権を手に出来たわけではなかった。
グラウンドでのサポートが叶わなかった3年生たちは、事前にメッセージをテーピングに書き綴り、キャプテンはそれを自らのウォーターボトルに張り付けた。
「とにかく勝ちたい、という気持ちが強かった。」
託された想い。自らの強い想い。3年生30人一緒に、花園に立った。
Bシードとして迎えた第102回大会。
東海大相模は2回戦から登場すると、初戦は加治木工業と戦い55-7で勝利を手にした。
だが、続く3回戦。フィジカルで上回るBシード・大阪桐蔭に圧倒される。
取られた55点。0から動かすことの出来なかった、自分たちのスコアボード。
ベスト16で、花園を去った。
上村太陽選手が主将として過ごしたこの1年間。振り返れば、決して平坦な道のりではなかった。
いや、そんな生易しい言葉では足りない。ここには書き記せないような想いが、溢れ出た。
きっと主将経験者であれば共感するであろう言葉の数々。
だがこれまでの主将と異なるのは、激戦区・神奈川県を制し、花園優勝3度を誇る桐蔭学園に競り勝ち掴み取った花園出場校の主将である、ということだ。
「特に意識してはいなかった。だけど知らないうちに、神奈川王者としてのプレッシャーを感じていたのかもしれない。不甲斐ない結果で申し訳ないです。」
バックスタンドに深くお辞儀をした東海大相模の選手たち
元日の試合を終え、幾ばくか目を腫らした上村主将は、張り詰めた表情から普段通りの穏やかな表情に戻って言った。
「今日の試合は、正直楽しめなかった。だけどこの3年間を振り返ると楽しかったです。」
神奈川制覇の先に見た、初めての景色。
夢にまで見た光景だった。
高く重い扉を開けた、2022年。
先へと続くこれからの道は、必ずや後輩たちが創り上げていく。
3回戦 第4試合 大阪桐蔭×東海大相模
試合概要
【対戦カード】
大阪府第2地区代表・大阪桐蔭高等学校(2大会連続16回目)×神奈川県代表・東海大学付属相模高等学校(2大会ぶり10回目)
2023年1月1日(日)14:45キックオフ
【場所】
花園ラグビー場第1グラウンド
試合結果
大阪桐蔭 55 – 0 東海大相模