『日本一』を徹し続けた桐蔭学園。「もうあんな思いはしたくない」前年度県大会敗退から掴んだ全国優勝。東福岡、最後に彩るは「モスグリーン色」|桐蔭学園 8-5 東福岡|第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会

桐蔭学園

遡ること5か月。

暑さ厳しき夏の菅平にて、桐蔭学園は最終・東海大大阪仰星とのBチームマッチを行っていた。

最初に主導権を握られ、後半途中までビハインド。ピッチサイドでウォーミングアップを続けていたAチームの選手たちからも、熱い言葉が大きな声で響き渡った。

すると劣勢の状態から、最後の最後に逆転勝ちを収めた、桐蔭学園のBチーム。

全ての試合で勝利する。一つの負けすらも良しとしない。その執念を見た一戦だった。

「日本一のスタンドオフになること。日本一のチームになること。そのために桐蔭学園に来ました。その気持ちをブラさないように、と手首に『日本一』と書いて決勝戦に挑みました。(SO萩井耀司選手)」

どんな場面でも、どんな困難があっても、日本一を目指し続けることを徹する。

『日本一』を徹し続けた1年間だった。

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昨年度の神奈川県大会決勝で敗れてから、この日で413日目。

「悔しい思いをするのは、もうみんな嫌だった。」

そう口にしたのは、1年間チームを牽引したNo.8城央祐キャプテン。原動力は「もうあんな思いはしたくない」であった。

『あんな思い』をした1年と1ヵ月半前の登録メンバー25名のうち、今年の花園決勝戦のジャージーを掴み獲ったのは14名。うち12名が、スタートを務めた。


LO中野誠章選手も昨年からスターティングメンバーを務めていたうちの1人。試合中、何度も雄叫びをあげた

試合が始まると、いきなりラストワンプレーを迎えたかのような長い攻撃が続く。

重ねた23フェーズ。互いに研究しきった、そして強い想いがぶつかり合う好敵手だからこそ、ワールドカップファイナルのようなゲーム展開は続く。

PGで3点。相手のミスを逃さず取り切ったトライで5点。

今年はとことん、こぼれたボールへの執念がトライへと繋がった1年だった。

「花園では、みんなで体を張ろう、と言い続けてきて。今日も最後の試合だったんで。どれだけしんどくても、みんなで頑張ろうと決めていました。内容は置いといて、結果的に優勝できてよかったです。」

城キャプテンは、ようやく和らいだ笑みを見せた。

試合が終わると、桐蔭学園の選手たちは涙を流し、また弾ける笑顔を見せた。

ただ一人、城キャプテンだけは表彰式が行われている間ずっと、表情を崩さない。

「実感が沸かなかった、というのもあります。んー・・・でも、あんまなんも考えてなかったですね(笑)」

笑いながら、あっけらかんと答えた。

その姿からは、他人の評価を気にしすぎない、新しいキャプテン像をのぞかせる。と同時に、鍛えられた日々とその自信によってもたらされる、強くたくましい精神力があることをもうかがわせた。

「先輩たちに憧れて桐蔭学園に入って。花園優勝を目指した3年間の中では、そもそも花園に出場すらできなかったこともあって。でも最後の1年、自分たちの代でキャプテンをやって最高の景色が見られたことは嬉しい、に尽きます。」

大会中は、常に険しい表情で報道陣との受け答えに応じていた城キャプテン。

大優勝旗を手にした今、ようやく目尻を下げ、高校生らしい表情で笑った。

しかしここがゴールではない。すぐに次の旅路は始まる。

「高校日本代表を目指します。そして大学でも日本一を目指して頑張ります。」

まだ、まだまだ道は半ばである。

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実った3年間

「最高ですね。やっと優勝した」と笑顔を見せたのは12番・白井瑛人バイスキャプテン。

「3年間が実った」と、仲間におんぶをしてもらいながら話すはバックスリーダーの13番・諸田章彦選手。

当初は、優勝の瞬間に叫び倒して気絶し、グラウンドに倒れ込みたいとの希望を抱いていた諸田選手。

だが無念の負傷交代。違う形でグラウンドに横になったが、グラウンドを出る際、肩を貸すべく駆け寄ってきてくれたのは、同期の福井柊哉選手に廣瀬宇一朗選手。

友の大切さを実感しながら、桐蔭学園での3年間に幕を閉じた。

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花園での成長

「1年間通してキックを強みに練習をしてきて。最後花園でも思うようなキックを蹴れて良かったです。」

ホッとした、という感情が勝り、涙は出なかったと話したのはFB吉田晃己選手。

東福岡に勝った3点は、吉田選手が成功させたペナルティゴールの差だった。

「試合を重ねるごとに桐蔭学園は成長するチーム。自分のキックもそうですが、みんな花園に慣れてきた。誰にもキックでは負けない、という気持ちで挑み、自分のプレーを出して、最後まで楽しくラグビーができました。」

目指していた花園でのトライとはならなかった。だが3年間の最後に、楽しく楕円球を持った。

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We Are TOIN

歌う者も、歌われる者も。

全部員にとって、これが初めての声出し応援だった。

かつて先輩たちが歌い繋いできた応援歌を学び、ここ花園で受け継ぐ。

だがそれだけではない。2曲の新曲を作った。

その全ては、会場を桐蔭学園のホームにするため。グラウンドで戦う仲間の背中を押すため。

前後半の開始前には、先手必勝の願いを込めた歌詞を2度。

そしてチャンスの場面では、『We Are TOIN』を何度も繰り返した。

人々は言う。

桐蔭学園とは、関東ラグビーの星、関東勢の誇りだ、と。

東の横綱、絶対王者との呼び声もあるが、もとは「最強のチャレンジャー」。

徹底した基礎練習に、体を正しく最大限に稼働させる術を身につけ、同時に各々の思考力を高め続けた結果、いまの姿がある。

桐蔭学園とは。

「一番成長させてくれる場所。一番きつくて、一番最高の学校。(6番・新里堅志選手)」

「人生。青春。(18番・廣瀬宇一朗選手)」

「最高な仲間がいる。最高なコーチ・スタッフ陣がいる、恵まれた環境。(15番・吉田晃己選手)」

「家族。大好きな存在。(2年生・中西康介選手)」

「今までで一番成長できた場所(10番・萩井耀司選手)」

「3歳から続けてきたラグビーを、一から見直すきっかけとなった場所。答えを教えてくれないので、3年間自分自身で試行錯誤しながら成長することができた。(22番・福井柊哉選手)」

桐蔭学園ラグビー部の歴史に、新たな1ページが刻まれた。

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藤原秀之監督 試合後コメント

胴上げのDNAが残っていましたね。知らないかな、と思ったけど。感慨深いものがありました。

ヒガシさんと決勝戦で相まみえるためには、我々もなかなか頑張らなきゃいけないので。ここで勝てたことは、桐蔭学園の新たな歴史の1ページを作ってくれたなと思います。

我々もこういう痺れる試合がしたかった。勝ち切れたことは嬉しいです。

今年の3年生は非常に明るくて、ギスギスしていない、そんな3年生たちでした。キャプテンの朗らかさが出たかなと思います。

素晴らしい、最高のチームです。

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受け継ぐ者

「やりましたよ!ッシャー!やった!まじで嬉しい!まじで嬉しすぎる!最高です!」

右目から血を流しながらも喜びを溢れさせたのは、2年生フランカーコンビの一翼を担う7番・申驥世選手。

準決勝でのフィジカルバトルが影響し、両足の太ももにはテーピングが。24時間不休の治療を受け、ギリギリ出場できる状態にまで戻したというが「決勝戦が始まったら全然痛くなかった」と弾ける笑顔を見せた。

「1年間、このためにやってきたんだなって。最高の景色でした。来年また厳しくなると思いますが、でもこの経験ができたので。来年は58期(今年の3年生の代)を真似するのではなく、自分たちは自分たちの代らしく、もう一度優勝できるように頑張ります。」

最後に「58期最高です!」と言い残し、満面の笑みで花園を去った。

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