桐蔭学園
2月18日の悔しさ、が原動力だった。
関東新人大会で國學院栃木に7-10で敗れた、あの日。
たった1つのペナルティゴール差が、大きな差となった。
「コクトチさんにリベンジしたい、と、その日グラウンドに帰った練習から言ってきました。今日、勝つことができてまずはホッとしています」
申驥世キャプテンは、いつも以上に研ぎ澄まされた集中力を全身から漂わせながら、ピッチに立った。
試合前夜のこと。
20時に始まったミーティングは、夜遅くまで続いた。それでも「腹落ちしなかった」という選手たちは、翌朝も2時間ほどミーティング時間を設ける。
合計5時間にも及んだ、チームミーティング。
主導したのは、スクラムハーフの後藤快斗選手だった。
「シーズン当初は(申)キセがミーティングを進めていたのですが、意見が偏ってしまって。キセが喋っちゃうと、みんなその意見に左右されてしまう。みんなのミーティングではなく、キセのミーティングになってしまったんです。だから今は、リーダー陣(申キャプテン、古賀龍人バイスキャプテン)はあまり喋らないようにしています」
プレーメーカーとして、周りを巻き込むことを意識しながら30人の意見を吸い上げ、まとめる役を務めている。
前日に行われて昌平戦の反省点は、最悪のシチュエーションを想定していなかったことにあった。
だから、決勝戦における「最悪の想定」に対応する術と、そのためにフォーカスすべきポイントを全員が納得するまで話し合った。
「全員満足するまで準備できたこと、それを60分間やり切れたことが、今日勝てた要因の一つ」と後藤選手は振り返る。
その「最悪の想定」は、比較的早い時間帯に訪れた。
当初はキックを使って敵陣でプレーする算段。だが風下に立った前半、風にあおられキックは伸びない。
自陣から脱出できず、相手ペースで試合は進んだ。
2つ目のPGを決められた、前半18分。SH後藤選手は、スタンドオフの竹山史人選手と短く言葉を交わした。
「しんど。どうする?」
強風の中、奥を狙ってボールを蹴り込むか、はたまた自陣からでもボールを継続するか。プレーメーカーたちは、判断に迫られた。
「正直、攻め込まれた時に(PGの)3点でおさえられたことが良かったです。結構危なかった」
仲間がディフェンスを頑張ってくれたことで、最少失点でしのげている。だからここは、意を決して自陣からでもボールを継続しよう。
前が空いたら、個人が判断しピックで持っていく。ディフェンスラインを抜けたら、なるべくラックを作らずトライまで一気にもちこむ。
「自陣からのボールの動かし方は、全国選抜大会前からずっと練習してきました」
その形が表れたのは、前半24分。
ハーフウェー付近でのマイボールラインアウトからボールを繋ぐと、2番・堂薗尚悟選手が前に出る。9番・後藤選手がボールを受け取れば、7番・申驥世キャプテンへと繋ぎ、13番・徳山凌聖選手を経て最後は8番・新里堅志選手がトライ。
チャンスの瞬間にラックを作らずボールを繋ぎ切る、瞬時の判断力と意志統率で、まずは6-7と逆転に成功した。
その2分後には、早々に追加トライを決める。
14番・草薙拓海選手がエッヂで力強く前進すれば、SO竹山選手はディフェンスの裏に出る。オフロードパスで4番・西野誠一朗選手へ繋ぐと、25mのビッグゲイン。
またしてもオフロードでSH後藤選手に託せば、一気に敵陣22m内へ。最後は外側でサポートについた6番・小川健輔選手へと渡し、トライ。
リスタートキックオフからのノーホイッスルトライ。そして、ディフェンスの裏に出た瞬間の、ノーラックトライ。
「自分たちがやりたいこと、やってきたことが出せて本当に良かった(後藤選手)」
今年、桐蔭学園が狙うラグビースタイルは、大きな脅威となって表れた。
申キャプテンは言う。
「全員がスキル高く、速いラグビーを意思統一して遂行すること。今年の3年生は団結しています。59期(申キャプテンの代)として花園優勝するんだ、という気持ちが大きい。体が小さい分、スキルで上回っていきたいです」
関東新人大会での敗戦。
全国選抜大会の涙。
サニックスワールドユースで掴んだ確かな手応えと、それでもたどり着かなかった頂点。
悔しい半年を経て、まずはここ、関東大会で。
桐蔭学園は今年初めて、地元・神奈川県外の大会で、チャンピオンの座に就いた。