川越、16年ぶりのベスト8。「見るもの全てが夢見ていた景色。この場所に立てたことが人生の誇り」|第104回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選

川越 3-43 川越東(A2)

川越

16年ぶりのベスト8。

もちろん、現役部員にとっては初めての熊谷ラグビー場Aグラウンド。

そんな選手たちを応援しようと、大応援団が駆け付けた。

この日は午前中に授業があったため、公共交通機関ではキックオフに間に合わないという判断から、OBらがお金を出し現役生用の応援バスをチャーターした。

OBたちも日本全国から駆け付ける。

中には、1週間前に赴任先のアメリカ・ニューヨーク州から帰ってきたばかりだというOBの姿もあった。

40期主将を務める、No.8高野隼多選手は言った。

「夢のような舞台でした。たくさんの方が応援に来てくださって感謝しかないです。毎秒毎秒、後押ししてもらいました。ミスした時にも、観客席からの声援で『もう1回がんばろう』という気になりました。有難かったです」

随一の応援を背にプレーした12番・熊谷陸選手もまた、目を輝かせる。

「夢のような時間でした。見る景色全てが、本当に夢に見ていた景色で、最後の最後まで本当に終わって欲しくないって。この1秒が終わって欲しくないって、そう毎秒思っていました」

怪我のため3回戦に出場することができなかった金子陽紀選手は、この日23番の背番号をつけ後半16分にピッチに立てば、感謝の気持ちをプレーで示した。

「本当は自分がみんなをここに連れてきたかった。でもみんながここに連れてきてくれたこと、感謝しかないです」

もう一度、みんなと同じジャージーを着ることができた。その1ヵ月を用意してくれたチームメイトへ、ありがとう。

「Aグラウンドは、この世のものとは思えない、神懸かっていた場所でした。ここに立てたことが、人生の誇りです。この部活に入って、この舞台に立てたことを本当に嬉しく思います」

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今年の3年生たちは、決して最初から強かったわけではなかった。

いや、むしろ真逆だ。1年生大会では、柳澤裕司監督の前任校・所沢北高校に「ボコボコにやられた」というほど、弱かった。

ほとんどが高校からラグビーを始めた、初心者たち。

「みんなが成長したから、ここまで来れた。ここまで来させてくれてありがとう」と高野キャプテンはいう。

そんな高野キャプテンに、試合後、柳澤監督が伝えた言葉もまた「本当にありがとう」だった。

「『こういう試合を見せてくれてありがとう』と言ってもらいました。有難かったです」

声を震わせた。

***

ノーサイド目前。

柳澤監督は、隣に立つ2年・LO谷本幹太選手の背をギュッと掴んだ。

「2年生たちはすごく3年生のことが好きなんです。一生懸命応援している姿を見たら、冷静でいられなくなりました」

1年前。

熊谷ラグビー場Aグラウンドで戦うことを目標にしていた川越。

しかし昨年はベスト16。夢の景色を見ることはできなかった。

昨季、敗れたその瞬間から「1日たりとも無駄な練習はなかった」と自信を語る柳澤監督。

それほど濃密な時間を生徒たちと過ごし、掴んだAグラウンドの景色だった。

試合終了間際には、雨とも、涙ともとれる雫が柳澤監督の頬を伝う。

「幸せな気持ちでしかなかったです。相手も望月(雅之監督)。良い1日をプレゼントしてもらったな、って」

愛嬌溢れる3年生たちへ、贈るラストメッセージ。

「明日から一緒に練習できないことが信じられないし辛いです。ありきたりかもしれないけど、まだ一緒にラグビーしたかった。本当に心から思います。3年間楽しませてくれて、本当にありがとう」

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川越東

まさにアウェー。

「選手たちは食らったんじゃないかな」と望月雅之監督が話すとおり、グラウンド上で選手たちがコミュニケーションを取る声は、ことごとく大応援団の声にかき消された。

レフリー陣も「インカムが聞こえなくなったのは初めて」と、その圧力に驚きの声を上げるほどだった。

前半は接点で負け、タックルで前に出られずじりじりと自陣での戦いを強いられた川越東。

途中、裏へのキックを蹴るようになってから流れを掴めるようになったが、ゲインラインを切っても中盤でボールを回しミスが出る戦い方に課題を見出した。

そんな中でも、この日2トライを決めきったのは、3年生のWTB田中悠貴選手。

ボールタッチの回数も2回。なんと2分の2でトライを決めきったエースだが、だからこそ「プレーに関わる機会が少なかったことが課題」と話す。

「チャンスの時にしかボールに絡めなかった。準決勝ではもっと積極的にプレーしたい」と抱負を語った。

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共同キャプテンのうちの1人、鈴木一ノ心キャプテンは夏合宿で怪我をし、この日が復帰戦。

「ジャッカルも決めてくれたし、十分次はやれるんじゃないかな」と体で示す選手が戻ってきたことを喜ぶ一方で、チームの課題はやはりメンタル。

準決勝も地元・熊谷工業が相手ということもあり、アウェーな状況は変わらないからこそ「平常心でどこまでやれるか」と指揮官は口にした。

またこの日は3人の1年生が先発を務め、後半から出場したスタンドオフも1年生。彼ら1年生が場慣れをした収穫は大きい。

「1年生たちが良いプレーをしました。熊谷工業とは今年、嵐の中7-0で逃げ切った新人戦でしか対戦していません。ここまできましたが、勝てるターゲットはできています」(望月監督)

川越には、西部地区選抜でともに戦った選手もいる。

試合前には、顔見知りの選手たちから「頑張ろう」と声を掛けてもらったと喜んだ13番・水島晟仁キャプテン。

「川越さんの応援やアタックに圧倒されて、自分たちのディフェンスが全然に前に出られませんでした。本当に良い経験をさせてもらいました。次の熊谷工業戦に向けて、1週間頑張っていきます」

目指すは一つ、埼玉連覇。

川越ダービーを糧に、準決勝へと挑む。

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