流経大柏の部員席スタンドから響いた『桐蔭のこころ』。桐蔭学園も『流経のこころ』で返し、関東対決に幕|第104回全国高等学校ラグビーフットボール大会

流経大柏

相亮太監督は言った。

「全力で桐蔭を分析した結果がこれだった。初めて桐蔭を分析して、改めて強さを理解したし戦ってみて実感もした。僕たちはラグビーに対して間違いはない。でも要所要所を知っているかどうかの違い」

そして「ここがダメならここ、という桐蔭の引き出しの、懐の深さとはこういうこと」とライバルを讃えた。

もっと言おう。

「(相手は)何をやってくるか、と出させた上での桐蔭だった」というのだ。

「お互い知り合っていて、分析をかけた流経が何をしてくるのかと(桐蔭学園が様子を)見た前半。全部出させた上での後半。もう横綱相撲ですよね。ちょっと僕は、桐蔭の懐の深さに恐怖感を感じました」

監督の言葉に呼応するかのように、ピッチに立った選手も同様に舌を巻く。

「インプレーが続いてしまうと、桐蔭さんのラグビーになってしまう。どれだけプレーを切れるか、ということを意識しました。前半はそれが上手くいったシーンもありましたが、後半さらにそこを上回ってきたのが桐蔭さん」(10番・大門歩瑠選手)

仲間であり、ライバルが。

すべてを教えてくれた人であり、超えなければならない存在が。

花園ラグビー場で、新たな扉を開いてくれたことに感謝して。

「(流経大柏は)まだ強くなれると思います」(相監督)

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このジャージーを着るために

「自分たちの代が始まってから、東海大相模に負けてしまって。そこからきついことをやってきたんですけど。やっぱり桐蔭というデカい壁に最後の最後、やってきたことは間違ってなかったと思うんですけど。本当に圧倒されてしまったなと。それしかないです」

野口健キャプテンは手で目元を覆いながら、途切れ途切れに言葉を紡いだ。

スローガンに『道』を掲げ、歩んだ1年だった。

歩み進めた道に間違いはなかったし、きついことだって数知れずやってきた。

ただ最後は「1人ひとりの力の差で負けたな、とすごく感じます」(野口キャプテン)

涙は止まらなかった。

「この3年間、このジャージーを着るために、流経のジャージーの価値を一つでも上げるために自分たちは頑張ってきました。最後の最後、こうやって桐蔭さんにこのような内容で負けてしまってすごく後輩たちには申し訳ない気持ちでいっぱいです」

流経のジャージーとは、野口キャプテンにとって「愛」を示すもの。

試合終了時の野口キャプテンのジャージーには、幾度もグラウンドに倒れ込んでは立ち上がった証である、無数の草の跡がついていた。

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ラグビーをする上で必要な時間

関東大会Bブロック決勝戦で、逆転のドロップゴール。

コベルコカップではU17関東ブロック代表のスタンドオフとして経験値を積んだのは、流経大柏10番・大門歩瑠選手(2年生)。

だが夏は、Cチームまで落ちた。

「自分のマインド一つひとつを積み上げました。自分に何が足りないのかと、自分がラグビーをする上で必要な時間を改めて作りました」(大門選手)

そうして冬の花園では流経大柏の正スタンドオフに復帰すれば、桐蔭学園を相手に正々堂々と渡り歩く。

この日流経大柏が唯一奪ったトライは、大門選手が裏へ短く蹴り上げたキックパスから生まれたものだった。

「ゴール前でアドバンテージをもらった時には、思い切って裏のスペースを狙おうと話していた。上手くいってよかったです」

偉大なキャプテン・野口健が牽引したチームを引き継ぐ大門選手。

「どんな状況でも、常にチームに寄り添うキャプテン。プレーでも言動でも引っ張ってくれるキャプテンでした。自分がそういう存在になっていかなきゃいけないな、と思います」

プレーでも言動でも、チームを引っ張っていく存在になりたいと誓った。

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