試合概要
第104回全国高等学校ラグビーフットボール大会 準々決勝
【対戦カード】
大阪桐蔭高等学校 14-26 桐蔭学園高等学校
【日時】
2025年1月3日(金)13:20キックオフ
【場所】
花園ラグビー場 第1グラウンド
試合結果
春、全国選抜大会での対戦時は13-7。
サニックスワールドユース交流大会では、17-15。
いずれも大阪桐蔭が接戦をものにしてきた今季3度目の『桐蔭対決』は、3度目にして最大の点差がついた。
試合序盤は、ホームの声援を受けた大阪桐蔭が勢いを掴む。
キックチャージからのトライと、裏へ蹴り込んだキックに反応したトライ。
前半3分、14-0と流れを呼び寄せた。
しかし前半16分、桐蔭学園がゴール前でのフェーズアタックから1トライを返すと、後半4分にはボールを繋ぎ2トライ目。14-14と同点に追いついた。
その3分後にはキックパスから右外でトライを決めれば逆転に成功し、後半16分にもSO丹羽雄丸選手のキックパスから22番・坪井悠選手がトライを決めれば勝負あり。
2トライを先制された後に4トライを奪い返した桐蔭学園が、今季初めて大阪桐蔭から勝利。
見事Aシード対決を制し、準決勝へと駒を進めた。
桐蔭学園
腹を決める。
そう、まさしく腹の決まったラグビーを披露した桐蔭学園フィフティーンだった。
昨季、全国優勝を果たした第58期桐蔭学園のラグビーは、ボールを持ち続けることが『腹を決めたラグビー』だった。
だが今年は異なる種類の『腹の決め方』に挑戦する。
「藤原先生(秀之監督)、布施(努)先生と話をした時に『腹を決める中にも、柔軟性が必要なんじゃないか。ただボールを持つだけじゃなくて、キックも与えてみて、その上での判断力が今年の強みなのではないか』と言われたんです。いろんな戦い方を考えて、それぞれに応じて、だけど軸だけはブラさずにいろんな戦い方をする。新たなチャレンジでした」(申驥世キャプテン)
ボールを受け取ってから放すまでの滞在時間が、この日は圧倒的に少なかった。
「接点で圧力をかけられると分かっていた」からこそ、2年間を費やして球離れを磨いてきた桐蔭学園。
そのために繰り返した、短い距離でのパス練習に、中距離でのパス練習。
大会前の練習でもみっちりと、ボールを受け取り放す基礎練習を繰り返した。
「1年間かけて積み上げてきた、プレーに見えない判断力が今日は出た」と申キャプテンは胸を張る。
また接点でプレッシャーを受けるからこそ、ラック形成時の姿勢にもこだわった。
少しでも相手から遠い位置にボールを放し、プレッシャーを受けづらい距離までボールを離そうとロングリリースを徹底する。
試合前のウォーミングアップでも、福本剛コーチ指導のもと、姿勢の再確認を行ったことを申キャプテンは明かした。
そうしてスクラムハーフ・後藤快斗選手が素早く球際へ到達すれば、ハイテンポでボールを供給する。
受け取った10番・丹羽雄丸選手もまたスペースへとボールを放れば、14番・草薙拓海選手の力強い走りでモメンタムは生まれる。
「ショートキックとパス、ラン。この3つをバランスよく使えた」と藤原秀之監督はハーフ団のゲームマネジメントを讃えた。
もしこれが、昨季と同じ腹の括り方だったら。
もしかしたら、違う結果が訪れていたかもしれない。
複数の武器を用意し、刃を磨き、出すタイミングとその鋭さで勝負に挑んだ桐蔭学園。
「大きくはないけど、機動力はある」と藤原監督が表現した今年の戦闘船・桐蔭学園59期号。
試合後には「身軽な船だから、旋回していった。荒波を切って進んでいった」と藤原監督は笑顔を見せた。
身軽だからこそ、身軽さに則した戦い方を。
果たして次戦は、どんな戦い方を見せてくれるのだろうか。
1つのプレーに要したミーティング時間は1時間
0-14と引き離された前半16分。
反撃の狼煙をあげるトライを決めたのは、1番・石原遼選手だった。
ゴール前でのFW戦で粘り強く何度も体を当て、反則せずにゴール中央付近で機会を伺う。
仕留めたのは14フェーズ目。アドバンテージが出た瞬間、その左サイドへと潜り込んだ。
「全国選抜大会には怪我で出場できず、仲間が大阪桐蔭さんにやられているのをベンチで見ることしかできませんでした。だから今回、準々決勝で大阪桐蔭さんと当たることに対してマイナスな気持ちは全くなくて。みんながみんな『怪我が少ない状態で戦えるなんて、最高じゃん!』というモチベーションでした。ミーティングでも勝利のことを考えて、1つ1つ詰めてきた。1つのプレーに対して1時間ぐらいかけて準備をしてきたので、その結果が出てよかったです」
悔しさを跳ね返した、値千金のトライだった。
また大阪桐蔭の強みであるスクラムに立ち向かうのもFW第1列の役目。
「とにかくフロントローはスクラム。大阪桐蔭さんのスクラムをいかに止めるかを試行錯誤してきた」と口にするとおり、ペナルティを取られるシーンもあったが、真っ向から対峙した。
「フロントローで3年生は自分だけ。2年生の2人はプレッシャーもあったと思うが、頑張ってくれた」と後輩たちにねぎらいの言葉を送った。
喜びを全員で分かち合う
試合中、事あるごとに仲間と手を合わせ、ハイタッチをしたのはNo.8新里堅志選手。
理由を説明する。
「自分たちがやりたい速いラグビーは、ミスも伴う。1つのプレーで試合が変わってしまうこともある中で、今回もチャレンジしたミスが多くあった。自分たちはチャレンジャー。失うものはないからこそ、自分たちがミスした時にどうまとまることができるのか。次のプレーで、どういう軸を持ってプレーができるのか。そういうことを話し合いながら、喜びを全員で分かち合い気持ちを高め合っていきたかったんです」
次のプレーまでに、自分たちのメンタルを落ち着かせること。
自分たちの軸を大切にプレーすること。
そして速いラグビーをするからこそ、丁寧なプレーを心掛けなければいけないこと。
話し、手を合わせ、チームが団結しまとまる潤滑油としてグラウンドに立った。
申驥世キャプテン コメント
大阪桐蔭に勝つため、この1年間ずっとやってきた。その成果が出せたのかと。FWの接点のところや、BKの展開力、裏へのキックもだが、プレーに見えない判断力、切り替える力。1年間積み上げてきたプレーに見えないことが、今日は発揮できた。大阪桐蔭さんにどう勝つかは分かっていたが、それを実行するのが難しい相手だと思っていたので、徹底しようと話をしていた。
14−0になった時、普通だったら焦ると思うが、全員下を向いていなかった。その場面で切り替えができたのが、本当によかったと思う。
ーーボールを持つ時間が短かった
(大阪桐蔭が)接点にかけてくると分かっていた。最初、ボールを持って腹を決めようと考えていたが、藤原先生と布施先生と話た時に「腹を決める中にも柔軟性が必要なのでは」とアドバイスを受けた。ただボールを持つだけではなく、キックを与えてみて、その上での判断力が今年の強みではないかとの話を受けて、今までの桐蔭だったらただ腹を決めてボールを持っていくだけだったが、いろいろな局面、戦い方を考え、それぞれに応じた戦い方をできるようになった。
ただ軸だけはブレずに、そこは腹を決めて。新たなチャレンジをしたが、うまくいったのかと思います。
ーーラックの作り方が丁寧だと感じた
今日の練習もダウンボールの練習。相手にジャッカルを取られない練習をした。それが活きたのかと思う。
藤原秀之監督 コメント
ゲームプラン通り。後藤(快斗選手)と丹羽(雄丸選手)の良い所も悪い所も出た。
ーー悪い所とは
試合開始数秒でキックチャージされましたよね(笑)
ーーその後は目覚ましい活躍だった
ドロップゴールを決めようとしてノックオンしていた所もありましたが、ゲームコントロールは落ち着いていた様に感じる。さっき確認したら、キックチャージされたことで緊張が解けたと言っていました。
0-14になった所からよく4トライを取ったなと。ラッキートライではなく、しっかりと取ったトライ。FWがトライをできたのは相当な自信になったと思う。
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