3大会ぶりのベスト4・國學院栃木が見せる進化。ディフェンスのDNAと縦の意識。根底に流れるは『紺の血』|第104回全国高等学校ラグビーフットボール大会

苦しかった夏

今季の國學院栃木を形作る上で、言及せざるを得ない時期がある。

夏。

國學院栃木には、苦しい夏があった。

関東大会を最後に、スタンドオフの神尾選手が肩の手術を受けた。

復帰したのは秋の終わり。

夏はぽっかりと、司令塔を欠いた。

そんな中でも、夏の菅平合宿ではテーマを『アタック』に定め、矛を磨くべくプランニングした國學院栃木。

しかし山登り後僅か数日で、2年生エースのCTB福田恒秀道(つねひでみち)選手が負傷。

「『戦術・ツネ』みたいなことをずっとやっていたのに、ツネがいなくなっちゃって。どうしたもんかな、って思っていました。何をテーマにするのか、もう一回ディフェンスに注力した方がいいのかな、とか。本質的に身に着けたいものが身に着けられなかった」と、吉岡航太郎コーチは振り返る。

下山後も、8月末に行われた国スポ関東ブロック大会でオール東京に敗れるなど苦境は続く。

チームの停滞は、夏の終わりまで続いた。

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2月の関東新人大会までは、基礎的なスキル習得に注力していた國學院栃木。その後戦略面に力を注いだが、国スポ関東ブロックで敗戦したことを受け、基礎力の未熟さを痛感した。

そしてもう一度、基礎スキルへと立ち返った練習を繰り返す。

LO笹本直希キャプテンは言う。

「ヘッドコーチの(吉岡)航太郎さんが、スタメン1人ひとりと個人面談をしてくれました。試合でトライを取られた時、マイナスの方向に行ってしまうという自覚が自分たちにはあって。それを直していきたい、とみんな思っていたんです。みんなで意志疎通することができたこと、気持ちを下げない言葉を使ってチームを盛り上げる方法を学びました」

吉岡コーチ自身も、自らの研鑽に励んだ。

「いろんな本を読みました。故・大西鐵之祐先生(元ラグビー日本代表監督、元早稲田大学ラグビー部監督)の本や、土井(崇司)先生(元東海大仰星高校ラグビー部監督、現・東海大相模高校・中等部校長)の本を読んで、ラグビーをどう捉えるか学び直して。そして昨年、花園3回戦で敗れた中部大春日丘戦を見返した時に、やっぱりボールを横に動かしているだけだと気付いたんです。タッチライン際で2対1の局面が起きるようにアタックを組み立てるものだと思っていたのですが、それだと横にボールを動かすだけになってしまう。でも目的は前進すること。各ブレイクダウンで縦の意識が備わっていないと、相手ディフェンスは減っていかない」

かくして、國學院栃木はアタックの原理原則へと立ち返ることにした。

「東海大大阪仰星の湯浅(大智)先生もインタビューでおっしゃっていました。継続と前進とサポート。桐蔭学園さんのアタックだって、それを極めたラグビーになるのだろうなと思っています。そしてその源流にいるのは、大西鐵之祐先生なのかな、って」

原理原則に則った戦術を組み立てること。その重要性に、改めて気が付いた。


写真中央右が吉岡航太郎コーチ。その左隣は父である吉岡肇監督

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以降は國學院栃木のラグビーも変わった。

一人ひとりの役割を明確にすること。

ボールを持ったプレイヤーはタックルをされてもすぐに倒れることなく、一歩でも前進を試みること。

2人目のプレイヤーは、セカンドタックラーをしっかりと排除すること。

「縦の意識を持ち続けないと、ラック周辺に人は寄ってこないしタッチライン際で数的有利は生まれない」(吉岡コーチ)

(國學院栃木がアタック力を有するために必要だったのは『縦の意識』だった。

バイスキャプテンの牧田玲大選手(1番)は言う。

「国スポ予選でオール東京に負けた後、練習がキツくなりました。だけどチームでもっとまとまろう、という意識が生まれて、練習の雰囲気は良くなりました」

だんだんと選手たちに縦の意識が身についた頃合いで、キーマンたちは帰ってくる。

神尾選手に福田選手。國學院栃木に、良い歯車が回り始めた。

「コクトチのコーチに就任してからディフェンスにこだわってきたのですが、やっぱり0-0じゃ勝てない。良いディフェンスしても勝てないじゃん、ということに、東海大大阪仰星さんに2回負けて行きついたんです。10-7の試合ではなくて、34-24ぐらいの試合をしなきゃダメなんだな、と思いました。0に抑える力よりも、30点を取る力をつけないと拮抗した実力では上がっていけない」(吉岡コーチ)

いかにトライを取るか。そのための起点は、やはりセットプレーだ。

バックス出身の吉岡コーチは、これまでは全く触れてこなかった領域に手をつけることにした。

「ラインアウトもスクラムも、やったことがないから教えられなかったんです。でもデザインしたアタックをするためには、そもそもセットプレーからボールがデリバリーされなければアタックができない。昨年も一昨年も、大事な場面でラインアウトが取れなかったんですよね。得点力を上げるには、ラインアウトを確保することとマイボールスクラムがマイボールになることが大前提だなと。そのために、ラインアウトの獲得率を上げるために工夫をしています。そしてラインアウトの成功率がそのまま、今の得点力に繋がっている」のだと話す。

誰にラインアウトを教えてもらったわけではない。

自ら世界各国のテストマッチシリーズ、オータム・ネーションズを繰り返し見ては、策を見出した。

「なんとかするしかない」が原動力だった。

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一方、アタックに注力する中でも「今年の選手たちはキャラクターが真面目」と吉岡コーチが話すとおり、ディフェンスに体を張れる選手が揃った。

「コクトチのDNAと言いますか。能力以上の、精神的なものが備わっている選手が多いんです。そういう面を反映しながら、新しいラグビーのエッセンスを注入しています」

苦しかった夏を経て出来上がったのは、そう。

堅守速攻のシン・コクトチラグビーだ。

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