ラストラン
この春、ラグビージャージーを脱いだ人がいる。
慶應義塾體育會蹴球部第125代主将、中山大暉さん。
大学卒業と同時に、第一線を退いた。
ラストゲームは、第61回全国大学ラグビーフットボール選手権大会・準々決勝になった。
のちに大学選手権を制覇した帝京大学との80分間。24-73で敗れた。
ラストプレーは、コンバージョンゴールへのキックチャージ。時計の針は80分を過ぎていたが、数十メートルを全力で駆け上がった。
「自分たちは『80分間、愚直なプレーをし続けよう。どんなことがあっても、諦めずに慶應のラグビーを体現し続けよう』と言ってきたので。主将に選んで頂いたからこそ、自分が一番、そこは諦めずに。自分たちが決めたことを遂行しました」
伝統の黒黄ジャージーに袖を通す者として、そして主将として。当たり前、を最後まで貫いた。
「すでにホーンが鳴った後だったので、もうこの後のプレーがないことは分かっていました。でも、もしかしたらまだプレーが終わらないかもしれない。だから『もしかしたら』に備えて、リスタートキックオフ後のプランも話していた」のだという。
そして時間にして数秒の全力疾走を終えると、顔に浮かべたのは、そう。
笑みだった。
ラグビー人生、悔いなし。
そんなことは言えぬと、分かっている。
それでも終わりは訪れ、次へのステップを踏みださねばならない日はやってくる。
「やっぱり国立でプレーしたかった。負けて悔しいです。でも自分が今日できるプレーは、100%やり切った気持ちがあります」
笑顔と、涙と。
どの表情も、どの感情も。
楕円球を握り、芝の上を駆け抜けた日々を、宝箱にしまって。
この日手首にしたためた『愚直』『魂のラグビー』『ポジティブ』とともに、生きていく。
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