試合展開
秋晴れの中、キックオフの笛が鳴った熊谷ラグビー場Aグラウンド。第1試合は、新人戦覇者・川越東と、10年ぶりにAグラウンドの土を踏む伊奈学園の戦いだ。
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前半開始10分で、伊奈学園は3本トライを許した。
Aグラウンドに緊張しているのか?いや違う、太陽が目に入ってしまい、なかなか対応することが出来なかったのだ。「思わぬアクシデントに、自分たちのプレーが出来なかった。でもそこを逃さない川越東さん、さすがです」と、伊奈学園の中村監督はうなる。
冒頭2本のトライは、川越東が右サイドの大外までボールを回し、14番・土居泰介選手がトライ。スタンドで見守るノンメンバーからも、「タイスケ、呼べ!」「タイスケ、行け!」と笑顔で声援が飛ぶ。ムードメーカーなのだろうか、と思いメンバー表に目を落とすと、なんと1年生。残り14人は全員3年生だ。
春に優勝したチームで、1年生がスターティングメンバ―に名を連ねる。そして大事な試合序盤に、トライを取り切る。末恐ろしい1年生だ。
前半だけで、川越東は7トライの猛攻。コンバージョンキックも全て成功させ、49-0と大量リードで折り返す。
後半は一転して、スコアボードが動かない時間帯が20分続く。
しかしそれも、川越東の作戦通り。「大半の選手を交代した後は、チームとして上手く機能しないことは承知の上だった。だから個人のタックルやキャリーの質を意識しようと声を掛けていた。」と話すのは、川越東の江田キャプテン。交代で入ったスロワーの選手との練習が充分に出来ておらず、セットプレーが取れないことを理解していた。だからこそ「その他の部分を100%でやりきろう」と声を掛け続けた。
王者・川越東に、死角はない。
まずは1トライ、が目標の伊奈学園。試合終了間際に、絶好のトライチャンスを得た。
自陣22mでのマイボールスクラムからパスを受けたのは、キャプテンの松葉選手。ボールを持つと、そのまま前だけを見て走りだした。相手ディフェンスの位置を確認すれば、繰り出したのはショートパント。自らチェイスし、辿り着いた先でのキャッチ・グラウンディングを狙う。
が、そこでも立ちはだかったのは川越東の厚き壁・江田キャプテン。インゴールまで競ったものの、キャプテン同士の戦いは川越東に軍配が上がった。「あいつは強いです(笑)」と、試合後話してくれた伊奈学園・松葉キャプテン。相手をリスペクトしている証拠だ。
残念ながら伊奈学園スコアレスのまま、ノーサイドの笛が吹かれた。川越東、63-0と完封だ。
その立役者ともいえる程、見事なタックルを連発したのは12番の柴田選手。ボールを持った時には縦に強いアタックをみせたが、本人曰く「今日は全然ボールキャリーができなかった」という。「自分のプレーでいかにチームを花園に導くか、ということを意識して1週間練習します。」
誰が出場してもゼロで抑えろ、と言っていた川越東・望月監督。
決勝戦に向けた不安材料はないという。「攻撃重視で練習してきた中で、ここにきてディフェンス力もぐんと上がった。昨年よりもいい仕上がりになっている。」
秘密兵器も、いまだ温存中。川越東、悲願の初優勝・花園出場まで、あと1勝だ。
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試合中、グラウンドからは伊奈学園の声が常に聞こえてきた。「ドンマイ落ち着こう!」「敵陣だよ、ラインアウト取っちゃおう!」「まだ残り10分あるよ!」
どんなに疲れていても笑顔で最後まで走り続けるその姿は、テレビの前で見ているであろう中学生たちに「ぼくも伊奈学園でラグビーしたい」と思わせるに充分だったはずだ。
伊奈学園には2年生が17人いる。来年は、最上級生だけで1チーム作れる試算だ。
「今日の悔しさを絶対に忘れずにいてほしい。ラグビーで一番大事なのはコミュニケーション。縦の繋がりと横の繋がりの絆を大切にしてください。」と語ったのは、松葉キャプテンと西村バイスキャプテン。
最後は、これまで支えてくれた保護者への感謝の言葉で締め括った。「3年間ラグビーを続けてこられたのは、お父さん・お母さんのおかげ。コロナ禍でも支えてもらった。ありがとうございます。」