50分の物語
東海ブロックを勝ち上がり、悲願の初出場を果たした四日市工業高校。対するは長野の雄・岡谷工業高校。この一戦は、四日市工業が初めての花園とは思えない程、のびのびと躍動した姿を見せることとなる。
四日市の攻めはテンポがいい。あっという間に、ボールをインゴールまで運んでいく。
岡崎翼キャプテンは言う。「テンポよくボールを運んだら、トライに結び付けられることが前半の早い段階で分かった。だからテンポを意識した。」
ベンチからも同様の声が飛び続けた。少し攻めあぐねると、コーチが音頭を取りながらベンチメンバー全員で「テンポー!」という声が響く。15人だけでなく、ベンチメンバー・コーチ陣全員で共通認識が図れている証拠だ。
後半2分、四日市工業がテンポ良く繋ぎ13番・和田琉生選手がトライ
特に印象的だったのは、四日市工業9番の秦諒磨選手。
ハーフタイム時「ユニットごとにトークしよう」とリードすれば、キックオフをダイレクトタッチだと判断した6・8番の選手たちに「ナイス!」と声を掛けながらハイタッチ。バイスキャプテンとして、試合中に声掛けする姿が幾度も見られた。
「キャプテンの岡崎は、グラウンド外ですごくリーダーシップを発揮してくれる。ただラグビー経験は僕の方が長いので、試合中は率先してリードすることを心掛けています。」適格なボール捌きだけでなく、自分がオプションとなれる強さを兼ね備えたスクラムハーフは、次戦での更なる飛躍を誓う。
目標は、フランス代表のSHデュポン。自分もATのオプションになれて、DFも強いところに憧れている。見ていて面白い、楽しいハーフになりたい。春には東海大学に進学予定だ(秦諒磨選手、写真右)
秦選手とハーフ団を組むのは、宮崎悠馬選手。「今日はラックの所で相手からプレッシャーが来ていた。球出しを安定させることに注力した」と話す。次戦は、強敵の石見智翠館が相手。「状況に応じて周りを巧く使い、強敵に勝ちたい。」
試合終わってみれば、花園初出場で初勝利どころか初完封。四日市工業が、幸先の良い出だしを切った。
***
取り切れない、攻め切れない。そんな時間が50分間続いてしまった岡谷工業高校。
敵陣に行っても、1人・2人どころか3人がかりで四日市が止めにくる。早く強いプレッシャーに、どうしてもいいゲインが切れない。
だけど最後まで、ベンチからは叫び声が響いていた。最後まで、全力でキックチャージに行っていた。「あと10分、出し切ろうよ!」「相手サイドに行こう!」
隙あらばジャッカルを狙う2番グルング カルロス選手。どうしても体力が気持ちに追いつかず、ラインオフサイドを注意される1番・羽毛田剛志選手に5番・栁舘優有輝キャプテン。
なんとか1トライ取って帰ろうとラストワンプレーで敵陣深くまで攻め込むも、残念ながらその1トライが遠かった。わずか5人の3年生が率いた、岡谷工業の冬が終わった。
前半、力強いボールキャリーで30mゲインした3番・塚田健太選手(写真手前、タックル側)