「多くの出られない選手の分まで」帝京v早稲田【第57回全国大学ラグビーフットボール選手権大会準決勝】

80分の物語

帝京大:赤ジャージ、早稲田大:赤黒ジャージ

早稲田サイド

「早稲田、絶対勝つぞ!」の掛け声とともに始まった、第57回大学選手権準決勝。

事前に間引き販売されていたおよそ11,000枚のチケットは、昨今の情勢を鑑みて来場を見合わせた方もいらっしゃったのだろう。公式入場者数は8300人弱。秩父宮ラグビーは、静かな熱気に包まれていた。

この試合のハイライトは、なんといっても早稲田が圧倒したモール。前半2本、立て続けにラインアウトからモールを組めば、しっかりと押し込んで2番・宮武海人選手がトライ。一つ、強みのスタイルを確立した。

5番・下川甲嗣選手は言う。「モールを押し込む時、密着することを意識した。モールの中で話すこと。今日はそれがゴールラインを割る所まで良くできていた。先頭にいる選手が、押す方向を指示する。シーズンを通してやってきたが、早明戦を経て『細かい所まで精度を高めよう』と意識できるようになった」という。

ペナルティを得れば、ロングタッチで敵陣深い位置でのラインアウトを獲得する。そこからしっかりとラインアウトモールを組んでインゴールまで押し込む『プラン』を感じる。

アタックだけではない。早稲田のモールは、ディフェンスでも効力を発揮した。

帝京が早稲田陣5mの位置でラインアウトのチャンスを得ると、お返しとばかりにモールの体制に入った。が、しかし。全く進まない。本当に一歩も、進まない。会場が、どよめきに包まれた。

丸尾キャプテンは言った。「Bチームが帝京さんのモールを再現してくれたので、良い対策が出来た。最近はAチームの練習に全4年生が参加している。多くの試合に出られない人の分まで、という気持ちを持っている。」チームで準備した、チームの勝利だ。

前半24分、早稲田がラインアウトモールを押し込んだ2番・宮武選手のトライシーン

強みのバックスでも3本のトライ。15番の河瀬諒介選手が2本と、11番の古賀由教選手が1本。全て、外のスペースで勝負した結果だ。「早稲田のバックスリーとして、ボールをもったらトライを取りに行く意識を持っている」と語ったのは河瀬選手。狭いスペースを見つけ、そして取り切る。


河瀬選手のトライに飛びつく9番・小西選手

丸尾選手をはじめとするバックロー(6~8番)の選手たちはこの試合、攻守に大活躍。特に後半15分過ぎのスクラム時には、帝京陣の四方八方から絶え間なく「丸尾丸尾」「丸尾エイタン」「エイト」と声が飛んだ。ものすごい帝京のプレッシャーに、さすがにここで丸尾選手を使わないだろうと思っていると、遠慮なくスクラムからボールを持ちだした主の背番号は8番だった。「何人が僕をマークしようと、行くときは行こうと覚悟を持ってチャレンジした。」真正面から勝負を受けて立ったキャプテンの背中は、幾ばくか2020年よりも大きく見えた。


モールを中からコントロールする8番・丸尾キャプテン(写真中央)

後半に入ると、方々で足を攣る選手が続出。プレイスキッカーで10番の吉村紘選手に15番の河瀬選手、丸尾キャプテンだってまともに歩ける状態ではなかった。この試合の激しさを、感じる瞬間だった。

試合後、相良監督は振り返る。「拮抗した試合なので、23人で戦う必要があった。キーマンを最後まで戦わせたい気持ちもあったが、元気な選手を入れた。」まさしく総力戦。終わってみれば交代枠8人、全て使い切っていた。


12番・伊藤選手(写真左下)のゲインから、11番・古賀選手(写真右)のトライが生まれる

「BattleだBattle」自陣5mでの帝京ボールラインアウトに対して、早稲田陣から飛んできた言葉。声の主は、おそらく交代で入った23番の南徹哉選手だったろう。

『Battle』とは、丸尾組のスローガン。4年生の気持ちが、あと数mを断ち切った。そしてあと10日、このチームを繋げた。

早稲田大学は、連覇を目指せる唯一のチームとして。1月11日(月・祝)、国立競技場で天理大に挑む。

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