会場には「ありがとう」の横断幕も。「ラグビーやってて良かった」|太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2021 第3戦熊谷大会

中村 知春(チャレンジチーム)

女子セブンズ界のレジェンド、と言っても過言ではない。

中村知春、33歳。

質問者の方を真っすぐ見つめ、自分の気持ちを正直に誠実に言葉にすることが出来る、稀有なプレーヤーだ。


写真中央

ラグビーを始めたのは、社会人になってから。それまではバスケットボールをしていた。

一般企業に勤め始めた頃、新しいスポーツにチャレンジしようと自らラグビーチームに電話をし、ラグビーを始めた。

2019年7月までアルカス熊谷に所属した後、現在はナナイロプリズム福岡でゼネラルマネージャー兼選手として東京オリンピック出場を目指す。

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実質的な日本代表である今大会のチャレンジチーム。ながとブルーエンジェルスとの決勝戦は、前半をリードされ折り返す苦しい展開となった。

「ながとさんには、良い意味で苦しませてもらった。ここでこういうゲーム展開を乗り越えることが出来たことは、(オリンピックでメダル獲得を目指す)メンバーにとって良い経験になったと思います。」

試合終了のホーンが鳴ると、まず真っ先に駆け寄ったのは、グラウンドに座り込んだ相手選手の元だった。そして手を差し伸べ、温かいハグをかわす。

表彰式の後、今度は2日間場内アナウンスを担当したアナウンサーに挨拶し、大会関係者に頭を下げる。

一ラグビープレーヤーとしてはもちろん、一社会人として。なにより一人間として、中村知春という人間の偉大さを改めて認識した瞬間だった。


試合中にも選手とのコミュニケーションを欠かさない

彼女を慕う後輩選手も多い。

今大会あわせて13トライを奪ったトライゲッターの原わか花選手は、中村知春選手が憧れと公言する。

「真摯にラグビーに向き合う、どんな時でも前を向き続ける姿勢に刺激を受けています。知春さんのプレーを見る度に『私ももう一回動かなきゃ』と思わされますね。人間性も本当に素晴らしいので、知春さんのような30歳になれたらいいな、と思っています。(原選手)」

囲み取材に向かう直前、原選手は中村選手の前に立ち「可愛くなーれ」と髪型を整えた。

干支一回り差の、憧れの人。だがそこには、姉妹のような2人の姿があった。

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東京オリンピックまで50日を切ったこの日。選手選考も佳境に入る。

「ここから必要なのは、照準をしっかりと合わせること。国際経験がこの1年積めなかったことは仕方のないことですが、普段の練習を世界クオリティで出来ているか、ということはテーマにしないといけないと思います。自分たちで『よくできたね』とならないように、厳しさとプライドのバランスを保っていかないとな、と。」

東京オリンピックで女子ラグビーの価値を上げるためにも、残り50日、チームの中心に立って戦い抜く。

大会を終えて

中村知春選手は大会後、しみじみと語った。

「やっぱり嬉しいですね。表彰式が終わって挨拶に向かった時に、お客さんの顔が見れる。ラグビーやってて良かったな、と思う瞬間の一つです。」

観客がスタンドにいることが、選手たちの力になる。改めて、難しい状況の中、大会運営にあたられた方々の労苦を労いたいと思った。


観客席には「ウィメンズセブンズありがとう!」の横断幕が掲げられた

大会運営スタッフの中には、ボールパーソンと呼ばれる「試合中にボールを拾い、届ける人たち」がいる。

例えば例年のトップリーグであれば、高校生などがピッチサイドに控えていた。だが今年のトップリーグはコロナ禍ということもあり、高校生の姿は見られず。大人が対応する試合が殆どだった。

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今大会のボールパーソンは、熊谷に拠点を構えるアルカス熊谷のアカデミーチーム、アルカスアカデミーの面々が担った。体のまだ小さい小学生たちが、四方八方に走り回る姿を見た方も多いのではないだろうか。

キックオフ時にはボールをセンターラインまで届け、ゴールキックの度に自分たちの待機場所があるセンターライン付近から、それはそれは全速力でゴール裏に駆け込んできた。

彼女たちの足音が聞けることが、なぜか誇らしかった。

例えばワールドシリーズでも、また1か月半後に控えし東京オリンピックでも、キックオフ時には機械がボールをセンターラインまで運ぶ。

だが思う。

頭が足につくほど腰を曲げてお辞儀をする彼女たちが、この大会に温かみを加えてくれたのではないか、と。

この週末、小さなボールパーソンたちがラグビー場を駆け抜けた記憶は、ずっと私たちの、そして彼女たちの記憶に残り続ける。

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