試合展開
前半風上に立った石見智翠館。
キックでエリアを稼ぎ、FWで奮闘する。
前半20分まで、0-0。一進一退の攻防が続く。
均衡を破ったのは、石見智翠館。
ラインアウトからモールを形成し、そのまま押し込んでトライ。強みのフォワードで、7点を先制した。
一方の東福岡、魅力は何と言っても攻守の切り替えの速さ。高校ラグビー界では群を抜くトランジションでの優位性が、この試合も光った。
前半25分、石見智翠館のミスからボールが東福岡に渡ると、右の大外をウイングが駆け抜けてトライ。難しい位置のコンバージョンゴールも決まり、試合を振り出しに戻す。
前半終了間際にも左サイドで細かくボールを繋ぎながら、少ないチャンスを一瞬で取り切った。
「ボールを奪ったら何をするか、チームでの決まり事がある。同じ絵を全員が描けていることが強みです」と、ゲームメーカーのスタンドオフ・楢本幹志朗選手は自信を見せる。
14-7と東福岡の7点リードで前半を折り返した。
後半の出だしも、前半同様スコアが奪えない両チーム。
石見智翠館は敵陣深くまで攻め込むと、スクラムを組んでは何度もフォワードを当て、インゴールライン間際で数分間チャレンジした。
しかし、一瞬のチャンスをも逃さないのが東福岡。
たった1度ブレイクダウンの隙を見つければ、ここぞとばかりに大先輩・布巻峻介選手のようなジャッカルを18番が決める。
ピンチの芽を摘んだ東福岡、得意のトランジションで一気に攻め立てれば、50:22で陣地を進めた。
敵陣5mでのマイボールラインアウトからモールを形成すると、最後は2番がボールをグラウンディング。後半最初のスコアを奪った。
驚きは、その次の得点シーン。
敵陣22m中央でペナルティを奪った東福岡が選択したのは、ペナルティショット。
「石見さんにリスペクトがあるからこそ、1点差でもいいから勝ちたい。そのためのPG選択です。(楢本選手)」
ペナルティゴールが決まって、24-7。リードを広げる。
17点差を追いかける石見智翠館は、すぐさま訪れた敵陣左サイドでのスクラムのチャンスに、スクラムハーフが敢えて狭いサイドを走り抜けトライを奪う。
「僕たちはスクラム・モールに力を入れてきた。自信を持っているからこそ出来たプレー」と話すのは、石見智翠館のキャプテン・池田柾士選手。フランカーだが、背番号制のためこの日は3番をつけてプレーした。
しかし次のキックオフでも、東福岡はわずか数十秒でトライを決めてしまう。
あっという間の攻撃。
得点を奪われた直後の東福岡の集中力には、舌を巻く。
試合終了直前に得たペナルティの場面で、東福岡は再びPGを選択した。
藤田雄一郎監督は言う。「うちは部内マッチでもPGを狙います。」
これは練習試合ではない。試合の練習、である。
いや、それも違う。あくまでも『試合』なのだ。
東福岡高校が何年にも渡って強く在り続ける所以を、垣間見た。
20点差での敗戦となった石見智翠館。
しかしセットピースは安定し、スクラムは何度も組み勝つなど、完成度の高さをうかがわせた。
「これまでの試合に比べ、ディフェンスは修正が出来たと思う。課題は、取り切る所。攻め手がなかった。いつもインゴール目前まで行くが、そこで取らせないのがヒガシであり、その後に一発で取ってくるのもまたヒガシ。後半一発目のトライで流れが大きく変わりましたね。(安藤哲治監督)」
次に顔をあわせるのは、それぞれの地区予選を勝ち進んだ後。勝負の花園だ。
「決勝で当たりたいです。」
池田キャプテンは、そう朗らかに答えた。
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