試合展開 ~深谷高校~
何度、両手を天に突き上げただろう。
ブレイクダウンでペナルティを奪う度、全員が全身で喜びを表した深谷高校。
試合終了の笛が吹かれると、宮下拓也キャプテン(2番)は涙を流した。
新人戦は、同点引き分け。関東大会予選は、敗戦。
今年は一度も、熊谷工業高校に勝つことが出来なかった。
だから、キャプテンも監督も「僕たちはチャレンジャー」という言葉を何度も口にする。
120%の力を出せたのは、チャレンジャーが故かもしれない。
緊張も相まってか、前半はボールがどちらかのチームに長く留まり続けることはなかった。
強いプレッシャーにノックオンを誘われれば、今度はブレイクダウンで取り返す。
観客席に座った保護者たちからも思わず声が漏れてしまう程、熱量の高い時間が続いた。
前半はなんと、互いにノースコア。
張り詰めた空気のまま、折り返しを迎える。
祈るように手を合わせた13番・野口彰太選手
試合が動いたのは、後半開始早々。
前半15分頃から徐々にラインブレイクの回数が増えた深谷は、勝負所でエースにボールを供給した。
右サイドに構えていた11番の齊藤雅也選手は、ボールを受け取ると一気にスピードを上げる。
途中で拳を上げれば、およそ50mを走り切ってトライを奪った。
難しい位置からのコンバージョンキックも決まり、前半2分でようやくの7点がスコアボードに表示された
「めちゃくちゃ緊張していました」と話したのは、宮下キャプテン。
「スローが全然上手くいかなくて」と試合後は苦笑いを見せたが、インゴールまで残り10m程の所で得たマイボールラインアウトでは、ノットストレートを取られた。
それでもモールパイルアップを2度、そしてインゴール目前でのFW戦で組み勝った深谷。
相手に決定打を与えないゲーム展開を繰り広げながら、試合終了間際にダメ押しのトライを重ねれば勝負あり。
2年連続、決勝の舞台に駒を進めた。
試合終了後、熊谷工業の今井キャプテンは深谷高校に熱いエールを送った。
「(決勝戦での)負けは許されないと思って欲しい。」
中学生の頃からずっと一緒に戦ってきたから、言える言葉。
県北のプライドは、深谷に託された。
最後のノーサイド ~熊谷工業高校~
橋本ゲームキャプテンが繰り出すフラットパスが、通らない。
少しずつ、攻め込まれる。
勝手知ったる対戦相手のプレッシャーを感じた、60分間だった。
たとえノックオンをしようとも「工業敵陣だよ敵陣!」と前向きな言葉を発したのは、フォワードの面々。
ターンオーバーの連続にも「落ち着いて」の声とともに「フォワード踏ん張ろうぜ」と自らを鼓舞する声を言葉にし続ける。
「負けんじゃねーよ、工業!」
スクラムの直前に聞こえた声の主は、準々決勝ではリザーブ登録だった2番・金井選手。頼りになる、そして熱い選手がグラウンドにいるだけで、チームにまとまりが生まれる。
この日は照りつける日差しに気温も上がり、度々ウォーターブレイクが挟まれた。
前半の休憩中、橋本大介監督が選手たちに掛けた言葉は『グラウンドゼロ』。
グラウンドに寝ている選手が一人もいない、全ての選手が立ってプレー出来る状態にあることを表している。
「今のは倒れ込みだよ、冷静に」
「2人目、自立しよう」
自分たちがやらなければいけないラグビーは、明確だった。
スクラムの時には、橋本監督自ら「(齊藤)雅也だよ雅也」と注意すべき深谷の選手名を発する。
逆に工業の選手が深谷サイドで傷むと、レフリーよりも早く深谷の山田監督から負傷した選手名が伝えられた。
互いに切磋琢磨してきた間柄だからこその関係性は、随所に色濃く表れた。
後半30分まで、わずか7点差。1トライ1ゴールで、追いつく点差だった。
「お前ら、気持ち出せ!」「1つ取れば追いつくんだから!」
「仲間のために、勝つんだ!!」
ベンチからも、グラウンドからも、熱い言葉だけが届けられる。
しかし、後半31分。トライを奪ったのは深谷高校。
新人戦で優勝し、冬は絶対花園に、と挑んだ今井組は、少し早い終わりを迎えた。
試合後、感情を失くしたような表情でインタビューエリアに現れた今井蓮キャプテン。
お願いします、と声を掛けると、自らの両頬を叩き気合いを入れ「お願いします!」の声とともにいつもの表情でマイクの前に立った。
しかし。
「勝てた試合だった」と発した瞬間、涙はこぼれ落ちる。
稀代の情熱を持った、ラグビー部らしいキャプテン像に寸分違わない、今井キャプテン。
「お母さん、ありがとう」
多くの部員たちの前で、必死に涙を堪えながら母への感謝の気持ちを伝えられる、優しさも併せ持つ。
熊谷工業が今年果たせなかった花園出場は、しかと後輩に受け継がれた。
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