「明治タイム」を上回った「帝京タイム」帝京が4年ぶり10度目の頂に|第58回全国大学ラグビーフットボール選手権大会 決勝|帝京 × 明治

帝京大学

静まり返った国立に響いた、帝京フィフティーンの掛け声。

帝京陣の『気』は、会場の空気を圧倒した。

最初に試合のペースを掴んだのは帝京。

試合開始5分、ラインアウトがオーバーした所に12番・押川敦治バイスキャプテンが飛び込みトライを奪うと、その8分後にも大外を抜けた14番・白國亮大選手がトライ。

4年生の2人がフィニッシャーとなり、前半13分で10点を突き放す。

帝京のディフェンスも光る。

「ラグビーはコンタクトスポーツ。よくタックルをしてくれた」と岩出監督が言うように、次々とタックルが決まった。

キープレーヤーの1人である明治11番・石田選手を押し返すタックルを決めたのは、2番・江良颯選手。

「仲間とコミュニケーションを取っていたからこそしっかりと決められた。80分間、試合に出られない仲間のためにも体を当て続けようと思った」と話す。

スクラムでも、帝京は前半から気を吐く。

前半30分を少し過ぎた頃、スクラム前に発せられた言葉は「帝京タイム!」

明治大学が今季、相手チームにプレッシャーを与えてきた「明治タイム」を、帝京タイムで塗り替えた。

そしてそのスクラムでペナルティを奪えば、ラインアウトからボールを繋ぎ、逆サイドまで運んだ先で一人余らせ14番・白國選手がトライ。

その5分後、前半終了のホーンとともにインターセプトを決め自陣から50m超を走り切ったのは、三度の白國選手だった。

まさに、帝京タイム。

白國選手のハットトリックを含む計4トライで、前半を20-0のリードで折り返した。

この試合、プレイスキックが不調だったSO高本幹也選手。

前半4つのコンバージョンゴールを全て外すと、苦笑いを浮かべながらロッカールームに戻った。

そんな高本選手に寄り添ったのは、大阪桐蔭高校の後輩、HO江良選手。

細木キャプテンも高本選手と手をあわせると、そのまま明治陣に歩を進めた。その先には、明治2番・田森選手が。

「先週の試合で、ハーフタイムに田森選手がレフリーと会話しているシーンを見た。スクラムが鍵になってくる所で明治大学さんだけが一方的にレフリーに伝えてしまうと、(特に)僕たちがコントロールできないことを話されてしまうと、僕自身も分からなくなってしまってチームとしても困るので、そこをしっかり聞きに行きました。」

レフリーと何を話して、明治がレフリーに何を求めているのか。聞くことは大事だと思った。

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後半も、帝京の勢いは衰えない。

「帝京DF!」胸を叩きながら叫んだ江良選手。

「帝京ここやぞここ!」

「帝京大事に!」

しかし、後半最初のスコアは明治に入る。

すると帝京陣は、TMOの最中からずっと、固く円陣を組んだ。

「キャプテンが掛けてくれた一言でスイッチが入った」という奥井選手。

ただ何を言っていたかは、興奮していて覚えていない、と笑う。

例えトライを決められても、帝京にはスクラムという立ち返る場所がある。

SO高本選手に13番・志和池豊馬選手はフォワード一人ひとりの肩を叩いてまわり、12番・押川選手はみなとグータッチを交わす。

FWは小さく円陣を組み、雄叫びを上げた。

 

後半、威力の増す帝京スクラム。

組み勝つ度に雄叫びを上げたのは、細木キャプテンだった。

「明治大学さんがメンバー交代してフロントローがフレッシュな状態だった。レフリーのコールでかなりプレッシャーを受け、僕としてはメンタル的に『食らった』と思っていた所、後ろの押しをもらいながら前に進めたことが嬉しかった。

感情的にまずいな、と思った所から押し込めたことで、あのような雄叫びになった」と話す。

両手を天に掲げ、叫び倒した。

後半21分から登場した明治の左プロップは、桐蔭高校時代の同級生・山本選手。

スクラムが組み直しになると、穏やかな表情で細木キャプテンと言葉を交わす姿も見受けられた。

「高校の同期であり仲の良い友人。対抗戦でも試合をしたが、もう一回戦えることが嬉しくて笑顔になった。」

そして「頑張ろうか」と声を掛ける。

だが、勝負は勝負。

ペナルティを奪えば、喜びを体全体で表した。

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攻め攻められの攻防が続く中、後半26分にはNo.8奥井選手が20mの力強いボールキャリーからトライを奪う。

「この1年やってきたことが出せた」と奥井自身は喜ぶが、一方でチームはこの時少し浮ついていた、と江良は話した。

そこでチーム引き締めたのも、またキャプテン。

「ここから相手の首を絞めに行こう。」

気を緩めず、仕留めるぞ。仲間のギアを、ひとつ上げた。

後半36分、敵陣22mでのマイボールスクラムでは一転、ペナルティを獲得しても吠えず相手選手を抱き、落ち着き払った表情で空を見上げながら息を吐き出した細木キャプテン。

その数分後、リザーブ陣に後を託し、一足先にグラウンドを後にした。

「時計を見たら79分40秒くらい。その時に勝てる、と思いました。」

ノーサイドを迎えた瞬間、ベンチの前で両膝をつき、倒れ込んだ細木キャプテン。

顔をぐしゃぐしゃにし、涙した。

「涙は自然に出てきた。嬉しかったのと、今までの色んなことを思ったら涙が出てきた。」

ここまで一緒に戦ってきた仲間がいた。

「プライドを持っているスクラムで試合通して圧倒出来たのは、僕の人生、そしてチームの未来にも大きく繋がると思います。」

優勝キャプテンインタビューを終えた細木キャプテンを迎え入れたのは、2人の副将だった。

上山黎哉選手に、押川敦治選手。

3人で、強く抱き合った。

「優勝できなかった間の多くの選手、スタッフ、多くの方の思いをしっかり力を出し切ってくれた。」

岩出監督は、優勝監督インタビューで噛みしめながら言葉を発した。

「やっぱりラグビーはタックルだ。」

そして、細木キャプテンがしっかり成長してくれた、と紡ぐと、涙を堪えた。

「優勝して喜ぶ以上の、素直に感情を表している彼の姿に感じるものがあった。キャプテンの感情表現の素直さに同席しているような感覚になった。僕自身の気持ちの中に、彼の魅力が入ってきた。」

試合後、岩出雅之監督は今季限りでの退任を表明した。

「今日の試合が、監督として最後になります。勝っても負けても、今日で終わりにしようと思っていました。

26年間監督させてもらいましたが、この試合をもって引退させてもらう予定です。」

ラグビー強化の前に、心身の充実、健全な学生生活をと取り組んできた。

ラグビープレーヤーたちの青年期の成長を、26年間見守り続けてきた。

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細木キャプテンにだけは、胸の内を2・3日前に伝えていた岩出監督。

試合後、岩出監督のもとに寄った細木キャプテンは、深々と頭を下げた。

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