Most Impressive Moments
埼玉ワイルドナイツ
前半終了のホーンが鳴り、ペナルティの笛が吹かれると、誰もがタッチに蹴り出すものだと思った。
しかし一人だけ、見ている景色が違った選手がいる。
山沢拓也選手、27歳。
ロビー・ディーンズ監督に言わせれば「He’s a natural.」
生まれ持った才の持ち主、ということだ。
フルバックとして先発出場したこの日、あらゆる局面で体をぶつけた。
前半終了間際もそう。
東京サンゴリアスが最後にトライを狙い攻め立てる中、チームのDFシステムを忠実に実行し、広いスペースを冷静な判断で守り切った。
前半39分からの一連のプレーは、まさにスペシャルだった。
そして前半終了のホーンが鳴りペナルティを得ると、更に観客を驚かせる。
最初はジャッカルを決めたベン・ガンター選手を讃えに駆け寄ったのかと思った。
しかし、よく見ると形相が異なる。
倒れている選手たちを素早く起き上がらせながら、相手選手たちの動きをジッと捉えていた。
そして次の瞬間、自陣22mラインからタップキックをすると、ボールを持って走り出した。
相手選手たちはもちろん、チームメイトでさえも驚きをもって後を続く。
「僕も含め、みんながタッチに出すだろうと思っていた。そこを『自分で持っていける』という判断をしてくれるのがヤマの強み。(松田力也選手)」
試合後、あの時どのような絵姿を思い描いていたのか山沢選手に問うた。
すると、朗らかに「理想はトライまでいこうと思っていました」と切り出す。
「自分たちも疲れていましたが、相手の方が特に疲れていた。流れ的に『これで前半終わらせるだろう』みたいな雰囲気があった中で、裏に戻っている東京サンゴリアスの選手もいないし、10mバックしている選手もいなかった。なのでそこを狙っていきました。自陣だったけど、トライまで持っていければ一番良かったな、と思います。」
描く景色が異なる。
見えている景色も、わずか数秒後に作り上げたい景色も、たった一人異なっていた。
ポジション、山沢拓也。これこそが山沢拓也選手たる所以。
山沢選手の本質が、たったひとつのプレーに凝縮されていた。
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