シャイニングアークス東京ベイ浦安
大学選手権の決勝で敗れても、流さなかった涙。
あの日からたった139日。
NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安のスクラムハーフとして先発出場した飯沼蓮選手は、ノーサイドを告げる笛が鳴ると、暫くベンチから動くことが出来なかった。
「ブレイクダウンでプレッシャーを受け、そこでテンポを出せなかった。特にゴール前では、相手の方が勝っていました。」
スタンドオフのオテレ・ブラック選手とともに、勝負の一戦でゲームメイクを託された22歳。
手首に巻かれたテーピングには、この試合で意識すべき言葉が所狭しと書かれていた。
もちろん『テンポ』もその中の一つ。
気を付けなければならないと分かっていた。
それでも、三菱重工相模原ダイナボアーズのディフェンスに後塵を拝した。
スポンサーリンク
試合後、詰めかけたファンへ挨拶に出向くと、込み上げるものがある。
四方全てのお辞儀で、誰よりも長く頭を下げ続けた。
そしてベンチ前に戻ると、溢れる涙は止まらない。
優しく手を広げたのは、ロブ・ペニー監督。そして、同ポジションの大先輩、グレイグ・レイドロー選手。
じっと胸を借りた。
「今はまだ、頭が真っ白っていう状態。早くにデビューが出来て、良い感じに思い描いていた人生を歩めていたんですけど。やっぱり世の中そんなに甘くないんだな、と感じました。
これもきっと、何かの試練。来年昇格して、その次の年にはディビジョン1で優勝している姿を、自分の中で思い描いていきたいと思います。」
記者会見が終わると、ペニー監督はグラウンドと同じく、飯沼選手の背中に手を置き、ともに退室した。
加入僅か57日での大役は、思い描いていた未来へ辿り着く道のりを、少しばかり変えた。