東洋大学
「前日の準備、そして試合前のウォーミングアップ。選手たちの顔を見ていたら『今日は大丈夫だ』という雰囲気を感じていました。そして個人的な話になるのですが、今年の8月、私が4年次だった時の部長と同級生を相次いで亡くしていて。今日は、その同級生のご両親が試合前に挨拶をしに来てくださったんです。背中を押された気持ちを感じていました。」
劇的な勝利を手にした直後、福永昇三監督は「学生たちを誇りに思う」という言葉とともに、めぐり合わせに思いを馳せた。
32対26。6点のビハインドで巡ってきた、敵陣深くでのマイボールラインアウト。
時計の針は、後半40分を過ぎていた。
ラストワンプレー。
東洋のFW陣は小さく円陣を組むと、熱い言葉が飛び交った。
「ここでトライを取るために、俺たちは普段練習をしているんだろう?」
声の主は、この日フル出場でプレイヤー・オブ・ザ・マッチを獲得した3番・山口泰雅選手。
FWリーダーの想いは、仲間にも伝播した。
ラインアウトから投げ入れられたボールを捕ったのは、キャプテンの齋藤良明慈縁選手。
そのままモールを形成すると、ゴールラインに迫った。
時を見て抜け出したのは、先に熱い言葉を発した山口選手。そのままモールサイドを突き、1点差に迫るトライを決める。
「エネルギーを出して、全員で取ったトライです。」キャプテンはチームメイトを称えた。
32対31。
このまま日大の勝利か。はたまた、コンバージョンゴールを決めて東洋の勝利か。
勝負は、キッカーである11番・杉本海斗選手の右足に託された。
運命のコンバージョンキック。
蹴り上げると、日大は猛チャージに走り出した。
軌道は外れた、という判定でゴール成功ならず。しかしレフリーはノーサイドの笛を吹くことなく、両チームのキャプテンを呼び寄せた。
「日大の選手たちがコンバージョンキック中に声を出した、ということでやり直しになりました。」
東洋サイドにも、日大選手の声は聞こえていた。
2本目のコンバージョンキックを蹴る直前、残りの14人は自陣で横並びとなり、一列に肩を組んだ。
「組むか?って聞いたら、組もう、って言ったんで。自然と気持ちは一つになっていました。(齋藤キャプテン)」
全員で祈った。ベンチも、肩を組んでいた。
「一度外してしまったので、開き直って。レフリーから(日大へ伝えた)ノープレシャーという声も聞こえたので、リラックスして自分のペースで蹴ることができました」とはキッカーの杉本選手。
再び蹴り上げられたボールは、クロスバーの上を通過する。
「巡ってくるもんだな、と思いました。」
周りの選手たちが飛び上がって駆け出す中、齋藤キャプテンはその場でその瞬間を噛みしめ、めぐり合わせに思いを寄せた。
「簡単に勝てる相手ではなかった。前節・大東文化大学戦での敗戦があったからこそ、ギリギリの勝負に勝てたのだと強く思います。みんながたくさん動いてくれて、エネルギーを出してくれて。チーム一丸で取れた勝利です。」
29年ぶりのリーグ戦1部。
パラダイス旋風は、3勝1敗で後半戦へと続いていく。