60mins ~昌平~
7点差に迫られた、後半25分過ぎ。
自陣22m付近でのノックオンにより、相手ボールスクラムが組まれた。
浦和のスクラムハーフがボールを投入した瞬間、昌平の8人は足を揃え思いっきり前進する。
するとレフリーの手は昌平側に高く上がり、浦和のコラプシングを告げる笛が鳴った。
雄叫びを上げたのは、1番・橋口博夢選手。
今季昌平のキャプテンを務める小さなハードワーカーは、1度ならず2度、吠えた。
「浦和高校の福田キャプテンは、僕がラグビーを始めた浦和ラグビースクールでバイスキャプテンでした。だから絶対に負けたくなかった。」
気持ちがプレーへと繋がれば、負けない接点。
四つに組むラグビーを得意とする昌平において、ディフェンスで勝負を仕掛ける浦和のラグビーは好材料だった。
盾同士の戦いは、やはりロースコアに。
だからこそ、一つひとつのプレーに重みが増す。
勝負と睨んだラインアウト前には円陣を組み、呼吸を合わせた昌平の選手たち。
ひとつ笑顔を見せた後、大きな声で気合いを入れた。
円陣も、気合いを入れる掛け声も、そのどれもがこれまでの昌平には見られなかった光景。
勝ちたい。
勝つ。
最後はFWが体を当て、15番・濱田匠選手がボールを蹴り出した。
試合後、涙でスタンドに挨拶をする浦和高校の選手たちの後ろでは、試合を終えたばかりの昌平の選手たちが会場の後片付けに力を貸した。
ジャージを着たまま、クールダウンもせず、当たり前のように。
引き継いできた伝統と、手にした新たな風を胸に、残すはいよいよ決勝戦。
「僕たちは新人戦で負けてしまった。もう二度と、負けたくない。(橋口キャプテン)」
11月19日、川越東との花園決定戦に挑む。
最後のノーサイド ~浦和~
会場中の雰囲気をものにした、浦和高校の大応援団。
長ランをまとった応援団がリードし、メガホンを叩く音が響く。
「試合前から『応援に行くよ』とたくさん声を掛けてもらっていました。その時点で既に嬉しかったのですが、いざ試合会場に入ると、みんなの声援が本当に力になりました。
これまでの2年間、なかったこと。すごく嬉しかったです。」
高校3年間をコロナとともに過ごした、今年の3年生たち。
山﨑成海ゲームキャプテンは、仲間の応援に感謝した。
浦和のディフェンスは、準々決勝で深谷を圧倒した。
準決勝の舞台でも、低く刺さるタックルは変わらない。
15番・阪野孝輔バイスキャプテンのロングキックも当たり、50:22に60m越えのタッチキックとエリアマネジメントで優位に立った。
しかし、要の接点とスクラムで上回ったのは昌平。
ほんのわずかな食い込みの差が、7点の違いをもたらした。
3位表彰が終わると、駆け付けた観客へ挨拶に向かった浦和の選手たち。
山﨑ゲームキャプテンは、涙を流しながらスタンドに向かって両手を合わせた。
「負けて悔し泣きする姿を見せたくなかった。感謝の気持ちと、申し訳ないという気持ちと。」
その隣で抱擁を交わしたのは、チームキャプテンの福田悠翔選手。
小学校時代は浦和ラグビースクールでバイスキャプテンを務め、浦和高校ラグビー部でも主将を担った。
怪我が相次ぎ、ラグビーから離れることもあったこの1年。
それでもここまで辿り着くことができたのは「みんながいたから」と笑顔を見せる。
だから、この一戦に込めた想いは『愛着心』。
真っ新な20番は、信頼の証だった。
3年ぶりの花園出場を目指した、福田学年のチャレンジはベスト4で終わりを迎えた。
↓試合後のインタビュー動画はこちらから↓
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