東洋大学
キックオフ45分前。
グラウンドでは選手たちが列になり、順に監督・スタッフ陣と握手を交わす。
そして輪になると、一人の少年が加わった。
彼の名は小川和真くん。
認定NPO法人Being ALIVE Japanを通して入団した、チームメイトだ。
ラッキーセブンの背番号をまとったジャージ姿で円陣に加われば、選手たちとともに笑顔でバーピージャンプを行った。
齋藤良明慈縁キャプテンは言う。
「和真くんが『(11番・杉本)海斗さんが緊張しているからバーピー3回いきましょう!』って声を掛けてきて。それでみんなでバーピーしました。」
バーピーとは、床に手を付き足を延ばし、立ち上がる、を繰り返す運動動作。
監督も一緒に、スーツ姿のまま3回繰り返した。
みなの顔に、笑みが浮かぶ。
その後、円陣の中心部に立ち「ワンツースリー」「パラダイス」の掛け声をリードした和真くん。
勝負の一戦。
勝つか引き分ければ、大学選手権出場。
敗れれば、ここでシーズンは終了。
その大事な一戦を前に、かの杉本選手はやはり「試合前はみんな緊張していたと思う」と話す。
「でもそれ以上に、このチームでずっとラグビーをしてきた信頼関係がある。個人は緊張していても、チームで戦っているので。」
良い表情で、試合に入った。
和真くんは東海大学戦も含め、数試合を現地観戦。まさしく勝利のキーマンである
この日の対戦相手・立正大学は、今シーズンともに2部から昇格してきたチーム。
ともに大学選手権初出場を懸け、激しく体を当てる。
まず最初にチャンスをものにしたのは立正。
前半10分にスクラムからトライを決められると、7点を許した。
しかし、慌てることなく落ちついていた東洋陣。
続くキックオフリスタートから敵陣深くでペナルティを獲得すると、5mラインアウトからモールを組み、9番・神田悠作選手がモールサイドを走り抜いてトライまで結びつける。
立正のファーストトライから、僅か3分後のことだった。
勢いに乗った東洋は、前半ラスト15分間に3トライ。
早々に主導権を握った。
しかし後半は一転、立正の猛攻にあう。
50:22も決められ、セットプレーからトライを2本許した。
それでも幾度となく蹴り上げられたボールに迷わず怯まず全速力でチャージに走った東洋の選手たち。
大きくエリアを獲得したタッチキックには「ありがとう」の声が飛び、自陣を背負ったディフェンスでは「パッション!」の声が響いた。
後半ロスタイムまで続いた、立正のパワフルな攻撃。
しかし、最後は13点のリードを守り切ってノーサイド。
悲願の全国大学ラグビーフットボール選手権大会初出場を決めた。
試合終了を告げる長い笛が鳴ると、喜ぶでもなく、抱き合うでもなく、じっと前を向き息をついたキャプテン。
「率直に嬉しいです。でも、喜びすぎるのはまだ早いので。」
簡単にやっている方が格好良いかな、と思って。僕はいつもこんな感じです、と付け加える。
29年ぶりの1部昇格を決めた1部・2部の入替戦は、昨年12月11日。
あれからちょうど1年後となる今年の12月11日には、大学選手権3回戦の舞台が待っている。
2022年シーズンのスローガンはParadise(パラダイス)。
これから続く大学選手権は「もっとパラダイス。もっと力をつけて、選手権に挑んでいきます。(齋藤キャプテン)」
パラダイス旋風は、まだまだ続く。