早稲田大学
80分間のゲームを終えた吉村紘ゲームキャプテンは、開口一番、1週間抱き続けた感情を言葉にした。
「今週の試合を迎えるにあたり、正直、相当、怖かったです。それは東洋大学さんをリスペクトしているからこそですし、早稲田がここで負けてはいけないというプレッシャーの下、相当緊張感を持って1週間過ごしてきました。」
先制トライこそ決めたものの、一時は12点のリードを奪われる展開に。
「正直、選手も焦っていた」と吉村ゲームキャプテンは言う。
だから、ハドルを組んで、話をして。
「試合が終了する80分後のことは考えず、目の前の1つ1つに集中していこう」と声を掛けた。
自身も、ひたすらに目の前のプレーに集中する。だから80分間通した試合の組み立ては、あえて意識しなかった。
だがそれは、1週間かけて「まずは目の前」への準備を積み重ねたからこそ。練習の時から同じ言葉を掛け続けることにより、いざ試合でその局面が訪れた時、全員が同じ角度から意味を理解をすることができたのだ。
「焦りはあったけど、チームとして乱れなかったことが勝てた要因です。(吉村ゲームキャプテン)」
後半早々、早稲田は3枚の交代カードを切る。
HO佐藤健次選手、LO前田知暉選手を後半のスタートから。怪我からの復帰戦となった伊藤大祐選手を後半10分に、それぞれ投入した。
すると、「後半のどこかでギアが上がると思っていた」と吉村ゲームキャプテンが話す通り、ピッチ上の空気は変わった。
15人中3分の1以上が高校時代、花園でのキャプテン経験者。
自身も京都成章高校でキャプテンを務めたSH宮尾選手は言う。
「リーダー経験者が多く、僕たちの学年(2年生)にもチームを鼓舞できるような選手がいる。特に(佐藤)健次は同世代で、桐蔭学園のキャプテン。アイツが居るのは、僕からしたら有難いです。」
トライが決まるといち早く自陣に戻り、サムアップして仲間を笑顔で迎え入れた佐藤健次選手
落ち着きを増し、明るさも加わり、大学選手権という舞台に適応した早稲田フィフティーン。
しかし「誤解されたくないのは」と前置きの上で吉村ゲームキャプテンが語ったのは、23人の役割だった。
「前半のメンバーがベストなパフォーマンスをしてくれたから12-7で折り返せた」と、感謝する。
反撃の狼煙をあげたトライは後半6分。
1度スクラムが崩れ、組み直した2度目のスクラム。相手DFのギャップを突き、SH宮尾選手から12番・吉村ゲームキャプテンへのフラットパスで鮮やかにラインブレイクした。
このトライには、裏話がある。
1度スクラムが崩れた時、SH宮尾選手は途中まで同じ動きをしていた。そこで相手DFの動きを観察し「大体こうなるな、という予想をしていた」という。
「誰かを基準にして、誰かがこういう動きをしてきたらこうしよう、というイメージをするんです。」
そして2度目のスクラムでも同じ状況が起こったら、また同じ動きをしよう。そう腹に決め、組み直したスクラムだったのだ。
「そのまま(DFが変わることなく)来てくれたので、有難かったです」と、宮尾選手は素直にはにかむ。
加えて、吉村ゲームキャプテンへのパスは特段サインプレーだったわけではない。もちろん、事前に打ち合わせをしたわけでもない。
「ほぼ宮尾の判断で僕にボールをくれた(吉村副将)」パスだったのだ。
「いつでも準備しといてな」と普段の練習から要求を伝えていたからこそ、2人の間で描かれたセイムページ。
美しいトライが生まれた。
その後2つのトライと2つのコンバージョンゴール、2つのペナルティゴールを成功させた早稲田は、逆転に成功。
「この一週間、相当プレッシャーがあった。勝ち切れたことにほっとしました。」
吉村ゲームキャプテンは、そっと肩の荷を下ろした。
相良キャプテン曰く「最近は情熱的に味方を鼓舞するようになった」という吉村副将
吉村ゲームキャプテンが言及した「怖さ」。
この日、ベンチから見守った相良昌彦キャプテンはこう分析する。
「純粋に、負けることが怖かった。この試合で終わってしまうことが怖かったです。
しかも試合の入りが良くないゲームが続いていた。この一週間、試合の入りを良くしようとずっと言ってはいましたが、それができるかどうかに結果は大きく左右されると思っていて。そこが本当にできるかどうか、が怖かったのだと思います。」
プレッシャーを跳ね除けた今、迎えるは明治大学との準々決勝。
宮尾選手は「楽しみです」と言い切った。
「早明戦で負けて、明治さんより1試合多く試合をしていることは僕らの強みになる。自分たちの弱みを克服して、25日に今年2度目の早明戦を、昨年は敗れている選手権の舞台でリベンジできるように。
2週間しっかりと準備していきたいと思います。」
3年ぶりの荒ぶるに向け、大きな一歩を踏み出した。