60分の物語
昌平
スコアレスで迎えた前半25分。
昌平は、転機を迎えた。
熊本工業にキックを蹴り込まれると、自陣インゴール目前でボールを手にしたのは10番・廣内颯選手。
コンダクターは、そのボールの動かし方を一瞬迷った。
蹴り出すか、持ち込むか。
僅かなためらいの間に迫りくるプレッシャー。自陣5m内で、ペナルティを取られてしまう。
だが、そこからが強かった。
ペナルティの笛が吹かれた瞬間に、ゴールラインへ全速力で戻った昌平フィフティーン。
表情一つ変えず、前だけを見て引き締まった目でディフェンスラインを敷いた。
タップキックからFW勝負を挑まれると、勝負あり。2フェーズ目でペナルティを取り返した。
ディフェンスから流れを作る、昌平らしいラグビーで一気にエリアを回復すれば、今度は敵陣22m内でペナルティを得る。
すると選択したオプションは、この日押し勝っていたスクラム。
グラウンド左端でセットすると、ボールを投入したのは13番・平岡勝凱選手。デザインされたアタックプランを遂行すれば、最後はスクラムハーフ・長岡太陽選手が飛び込んだ。
前半30分、念願の先制トライを奪う。
緊張の解けた後半は、要所でトライを取り切る。
後半8分にはラックサイドをついた7番・堀江凛選手(2年生)が、24分には1年生で唯一先発出場している山口廉太選手が、点数を重ねた。
ドミネートタックル。
接点での圧力に、ブレイクダウンへこだわりすぎない判断力。
そして、セットプレー。
自信のある領域でしっかりと上回った昌平が、見事初戦を突破した。
花園出場を決めた日から1ヵ月半。チームとしてのまとまりは、完成形を迎えている。
スクラム前には、5番・石坂侑人選手がフロントローの背中を二度叩き、気合いを注入しながら「押せよ」と願いを込めるのが定番化。
勝負のセットプレー前には、自然発生的にFW陣が集まり、肩を組むようにもなった。
この日、前半終盤に1番・橋口博夢キャプテンが負傷交代すると、「もう一度キャプテンをピッチに立たせよう、そのためにも勝ち進もう」とチームの団結力は一層増した。
「相手に気持ちで負けず、しっかりと体を張って前に出られたことが勝因」と、代わってゲームキャプテンを担った15番・濱田匠選手は語った。
監督として花園初勝利を飾った後藤慶悟監督は言う。
「生徒たちにとっては、過去3年間の花園で初めての有観客です。緊張もしていましたが、勝ちたいという気持ちが上回って勝つことができた。まずは1勝に、ホッとしています」と胸をなで下ろした。
だが、昌平の目標はあくまでも花園での年越し。
越えなければならない壁は、Bシードの京都成章だ。
「熊本工業さんのように、FWで戦えるファイトを見せます。」
来たる2回戦、学校初のベスト16入りを懸け、チーム昌平52人全員で戦う。