60分の物語
「花園独特の雰囲気に少し緊張して、ハンドリングミスも目立った。1試合を通して直らなかったことが反省です。」
6大会ぶりの優勝を目指す東福岡高校ラグビー部・大川虎拓郎キャプテンは、反省の言葉から試合の振り返りをスタートした。
良かったことは、今年の東福岡が目指してきた『キックを使って相手陣に入り、ディフェンスからターンオーバーに繋げ奪ったトライ』があったこと。それは今日の成果だと話す。
「今年はどんどんキックを蹴って相手にボールを渡し、ディフェンスしていくスタイル。前半はそれができていました。」
だが、後半にメンバーが変わると「タックルミスが目立った。誰が出場しても変わらない状態を作っていきたいので、明日しっかりと修正して、次戦は自分たちが納得するゲームをしていきます」と引き締まった表情を見せる。
ディフェンスに絶対的な自信があるからこそ、作り上げることができた今年のラグビースタイル。
「ボールを持っていない時がHappyなチーム」として、新チームになった当初からこのスタイルを貫いてきた。
そのために磨いた、組織ディフェンスと個々人のタックル。
花園初戦でも、随所で光った。
No.8藤井達哉選手の連続タックルに、岡田薫瑠選手、舛尾緑選手の両ロックによるダブルタックル。
例えどこかで抜かれたとしても、タックルで仕留める60分間を見せた。
そして何より培った組織としてのディフェンス力。
蹴り上げたハイボールを相手がノックオンしたと分かっていても、レフリーの笛が鳴るまでワンラインで駆け上がった。
「初戦の硬さもあったけど、ボールを持たない時に良い統一感があった」と話すは藤田雄一郎監督。
これが、今年の東福岡なのだ。
戦術も明確だった。
日本一を掴むためには、短期間で5試合を勝ち切らなければならない。
だから少しでもインプレー時間を減らすため、キッカーが交代した後半はPGも積極的に選択した。
「馬田琳平がキックを全て成功させていたので、どこからでも狙っていけるな、と思った。彼を信頼してPGを選択しました」と振り返る。
だが、仲間への信頼と自らの役割は異なる。
PGを蹴り込む度、大川キャプテンは自身の役責として、ポストに吸い込まれるまでボールを追いかけた。
ディフェンス、そしてアタックの精度を高め迎えた集大成の花園。
しかし初戦を終えた仕上がり具合は「まだまだ」と大川キャプテンは強調する。
「今年こだわってきたダウンボールに対してのセービングが全然できていなかった。ビッグゲインも何回も切られた。全っ然、まだまだです。」
全然、に語気を強めた。
だが藤田監督は言う。
「それはここが目標の舞台だからこそ。3年生は3年間、ここ(花園優勝)を目標にやってきたので、硬さがあって当然じゃないですか。」
監督自身は昨年よりもいくぶん穏やかな表情で、初戦を終えた。
「観客の人もたくさん入って嬉しかったです。だけど歓声によって、コミュニケーションの声がかき消されたこともあった。初戦にこういう状態を経験できて、本当に良かったです。(大川キャプテン)」
選抜大会の決勝戦が中止、という衝撃的なスタートで始まった今年のTEAM虎拓郎。
春のサニックスワールドユースを途中棄権し、夏の菅平でも当初予定していた試合スケジュールは行えなかった。
その度に繰り返し口にしてきた、試合が出来ることへの感謝の気持ち。
ここ花園でも「試合ができることによって様々な経験ができる。今日もいろんな気付きが得られた。本当に感謝しています」と、キャプテンは改めての謝意を述べた。
藤田監督は言う。
「一戦決勝」。
一つひとつが、東福岡として乗り越える試合となっていく。
「相手ではない。自分たちのラグビーをしっかりと遂行できれば、自ずと結果はついてくると思っています。しっかりとビデオを見返します。」
大川キャプテンもまた、引き締まった表情で6大会ぶりの優勝を見据えた。
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後半12分。
13番・永井大成選手に代わって、22番の背番号をつけた高本とわ選手がピッチに登場すると、客席から拍手が鳴り響いた。
7月の全国セブンズで膝に大怪我を負い、15人制の試合は実に6月以来のことだった。
久しぶりのグリーン(東福岡のファーストジャージのこと)に、「リハビリ期間も良いトレーニングをすることができた。周りの仲間や先生方が良い環境を作ってくれたおかげです」と感謝する。
藤田監督も「一生懸命リハビリしてきた彼が勝ち取ったジャージ。ご褒美でメンバーは選ばないので、彼が頑張って、戦力としてみんなから認められた」と起用理由を語る。
花園を目指し、懸命に重ねたリハビリの日々。復活を祝う観客の拍手は、優しかった。
「次戦以降も、出場機会があれば持ち味のゲームメイクで貢献したい。ランやパスで切り裂くプレーを頑張っていきたい。」
部員143人の代表として、活躍を誓う。
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