第4試合:川越×川越東
川越 5 – 63 川越東
川越
誰かがノックオンをしたら「ドンマイ!」
誰かがポイントを作ったら「オーバー!」
ベンチに座る仲間が16人目の選手となって、まさに『全員ラグビー』で戦った60分間だった。
柳澤裕司監督は言う。「僕たちは素人集団です。」
1年生に1人だけ、小学校時代にラグビースクールに通っていた選手はいる。だが怪我のためメンバー入りしておらず、この試合に出場した100%が高校からラグビーを始めた選手たちで戦った。
だからこそフォーカスしたのは、これまで自分たちがやってきたこと。
相手は川越東。もちろん、強いことは重々承知の上。「自分たちが積み重ねてきたやり方で戦おう。」チームを率いる後藤晃太キャプテン(12番)は、そう仲間に声を掛け挑んだ。
セットプレーから用意してきたオプションがいくつもあった。
スクラムの起点は、バイスキャプテンであるNo.8・小久保星斗選手の持ち出し。
ラインアウトでも、いくつものムーブを用意していた。
だが、14本のマイボールラインアウトのうち、獲得できたのは僅か3本。
準備してきたプランを出しきれなかった。
ラインアウトで役目を担う5番・中根心の助選手は、後半途中で退くと、ピッチサイドで人知れず涙を流した。
「練習してきたことが何にも出せなかった。悔しさが込み上げて、気付いたら涙が出ていました。」
そんな中根選手に気付き、そっと手を差し伸べたのは柳澤監督。「そんなことない。よく頑張っていたぞ」と声を掛ける。余計、涙は溢れた。
選手が交代し退く時には、柳澤監督が握手で迎え入れ、ベンチメンバーが「お疲れ!」と声を揃える。
逆にリザーブからピッチに立つ選手たちへは「行ってこい、頑張れ!」と声が飛んだ。
誰一人として疎外することなく、チームとしてのまとまりがある川越高校ラグビー部。
最大の見せ場は、後半の最終盤に訪れた。
マイボールスクラムからNo.8小久保バイスキャプテンが持ち出すと、ワンパスから15番・川妻廉太朗選手が何人ものディフェンスの選手たちを押しのけ走り切った。
毎試合トライを取っているというスーパーエース。
笑顔が咲いた。
中学時代、後藤キャプテンは野球部でキャッチャー。小久保バイスキャプテンは陸上部で砲丸投げの選手。この日トライを奪った15番・川妻選手はソフトテニス部だった。
これまでにどんなスポーツをしていてもしていなくても、このラグビーという競技では主役になることができる。
そう教えてくれるのが、川越高校ラグビー部である。
「僕たちが入学した時、先輩たちの雰囲気が本当に良くて。この部活に入りたいな、って心から思いました。(後藤キャプテン)」
その雰囲気を継承し、さらには強くし続けている選手たち。
オフは週に2回。勉強にも真面目に取り組み、学校内でも部活と勉強を両立していると評判のラグビー部だ。
その証に、2年生部員は15人、1年生は21人。辞めることなく、多くの選手たちがラグビーを続けている。
「先輩たちは優しく教えます。1年生は神様です!ぜひ、入部して欲しいです!」
新人戦でベスト8。更に強くなるために、川越高校ラグビー部でチャレンジしたい未経験者、求ム。
川越東
昨季の花園予選決勝。
昌平に7点差で敗れ、花園の切符を掴み取ることができなかった。
その試合が終わった直後、残る1・2年生たちに望月雅之監督が話した言葉がある。
「来年は全部のタイトルを獲って、ぶっちぎって優勝するぞ。」
2度目の花園行きを掴み取るにも、埼玉で不動の1位になる。その覚悟を持って、新チームはスタートした。
しかし新人戦県大会1回戦で、よもや敗戦という所まで追い込まれる。
強敵・熊谷高校を相手に前半0-12。後半19点を取り返し、この準々決勝へと駒を進めていたのだ。
だから、今回はもっとアグレッシブに戦おう。
そう挑んだこの試合、言葉通り試合序盤から得点を重ねる。
昨季も試合に出ていた10番・田中大耀選手、12番・五十嵐舜悟選手らが強い核となり、トライを量産した。
「最後までファイトし続けられたのではないか」と望月監督も讃える。
そんな監督が「2人に任せる」と新チームを託したのが、6番・高尾将太選手と3番・寺山公太選手だった。
「2人で支え合うことで、強固な繋がりにしたい」と共同主将に任命した。
川越東史上初めての共同キャプテン。
「僕たちすごく仲が良くて。いつも支え合って、メニューを2人で決めています。(高尾キャプテン)」
常に相談できる相手がいること。だからやり易い部分の方が大きい、と話す。
3番・寺山キャプテン
「去年の目標は、花園で正月を越すことでした。だけど結果として、花園にも出場できなかった。だから今年は、まずは花園に行こう、と。花園に行くことを目標にしています。(寺山キャプテン)」
そのためにも大事になるのが、昨年も出場した全国選抜大会への出場権を獲得すること。
「選抜に行きたい。新人戦は絶対に優勝します。(高尾キャプテン)」
6番・高尾キャプテン
今のチームにとって、課題は基礎の部分にある。一つのヒット、一つのハンドリング。ベーシックなスキルが疎かになると、突かれるポイントだと認識する。
次戦、準決勝は深谷高校との対戦。間違いなく大一番だ。
「馬場健太や飯塚祐真は中学の頃から知り合い。怖い選手なので、自分たちも更に強みを活かさないと勝ち切れません。1週間磨き上げたいと思います。(寺山キャプテン)」
「一つひとつの試合を大事に、毎週課題を克服して、絶対に優勝します。(高尾キャプテン)」
花園を掴み取るための1年間が、スタートした。