ハーフタイム、アイルランドは一度ロッカールームに戻ったが、日本陣営はそのままグラウンドに残り、ベンチコートを着ながら体を動かす。
最後は14番・青栁潤之介選手のエナジーコールで全員の気持ちをもう一度一つにし、勝負の35分間へと向かった。
だが後半最初の得点はアイルランド。
後半1分、相手13番Charlie Sheridan選手が大きくゲインすると、パスを受け取った9番Jake O’Riordan選手にボールを運ばれてしまう。
ノーホイッスルトライで12-14。再びアイルランドの2点リードへと変わった。
逆転を許そうとも、日本陣は落ち着いていた。
風上に立った後半はキックを使いながら敵陣へと入る戦術へ。ディフェンス勝負でボールを奪い返したい所だったが、ブレイクダウンでペナルティがかさみ陣地を押し下げられる時間が続いた。
敵陣5mに入った所でのマイボールラインアウトでも、2本続けて相手にボールを渡してしまう。
それでも4番・石橋選手、6番・松沼選手らの恐怖心をものともしないキックチャージで気持ちを見せ続ければ、三度チャンスは訪れる。
右サイドでのマイボールスクラムから綺麗にボールを供給すると、10番・伊藤選手から12番・西選手へと飛ばしパスを放る。ワンタッチで15番・矢崎由高選手へと繋ぐと、左の狭いスペースをおよそ30m走り切った。
後半12分、左隅へのトライ。強い風が吹く中、9番・髙木選手は10番・伊藤選手のボール補助を受けながらしっかりとコンバージョンゴールを沈めた。
19-14、日本が再びスコアリーダーとなる。
その後も敵陣で時間を使うと、またもやチャンスを得たのは日本。後半18分、アイルランドのオフサイドを誘った。
スコアボードのない会場。
髙橋智也監督が「いま、19-14で勝ってる!」とベンチから現在のスコアを伝えると、選択したのはペナルティゴールだった。
右足を振り抜いた9番・髙木選手は一瞬苦い顔を見せたが、ボールはしっかりとポールに吸い込まれる。
22-14。1トライ1ゴールでは追いつけない、8点差。
キックティーを届けに来た霜村コーチは、髙木選手の頭を優しく撫でた。
もちろん、それで終わるはずがない。一筋縄ではいかないのがテストマッチである。
後半24分には自分たちのペナルティからアイルランド陣営にクイックスタートを許すと、21番Tadhg Brophy選手のラインブレイクから22番Sean Naughton選手が大きく前進。最後は右端で23番Ben McFarlane選手がトライを決めた。
ゴールキックは外れ、22-19。
残り11分、日本のリードは3点へと縮まった。
最後の10分間、ベンチからは、しきりに声が飛ぶ。
「バクハツ!」「エリア!」
タイムマネジメントを求める声もあった。
これまで日本で戦ってきた30分ハーフのゲームとは違い、35分ハーフで行われた試合。これまで経験することのなかったラスト5分間は、自陣にくぎ付けとなった。後半から出場した選手含め全員が体を張り、必死に22mラインを死守する。
そうして迎えた、ノーサイドの瞬間。
ボールを蹴り出し、長い笛が吹かれると、選手たちは両手を挙げ喜びをバクハツさせた。
スタッフ陣も一様に握手を交わし、喜びを噛み締める。
試合前、髙橋監督は言った。
「高校日本代表として1,456日ぶりのテストマッチ。止まっていた針を、彼らが今日、動かしてくれることが楽しみです。」
4年ぶり、ではない。
1,456日の時を越えて繋がった思いは、アイルランド・ダブリンで大きく花開いた。