高校日本代表、勝利の理由。2日前に語った本音と、迎えるHONKI|2022年度 第48期高校日本代表アイルランド遠征

U19アイルランド代表との第1戦に勝利した高校日本代表。

我慢強く戦い抜いた70分間の最後に、歓喜は訪れた。

4年ぶりの高校日本代表活動ながら、なぜテストマッチで勝利を手にすることができたのか。

その理由を探ると、試合の2日前にあるターニングポイントを迎えていた。

露呈したすれ違い

「実は、あんまり良い雰囲気でアイルランドに来れていなかったんです。」

そう打ち明けたのは、高校日本代表のバイスキャプテンを務める伊藤龍之介選手。

今一つ、まとまりきれていないチーム状態を感じ取っていた選手のうちの1人である。

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「アイルランドに到着して1日練習をし、すぐにトリニティカレッジとの練習試合がありました。そこで普通に勝ってしまった。勝ってしまったからこそ、ふんわりした雰囲気が生まれてしまったんですよね。その次の練習が良い雰囲気で出来なかったんです。」

バラバラさは、選手間だけのことではなかった。

コーチ陣と選手たちの間にも、すれ違いは生じていたのだ。

そのバラつきが、ディフェンス面で露呈。試合には勝ったが、上手くいかないことも多かった。

試合2日前の転機

トリニティカレッジと試合を行った翌々日、つまりはU19アイルランド代表戦を2日後に控えた3月20日の夜。髙橋智也監督は、リーダーグループの5人を一室に集めた。

「本音で話そう。」

それぞれが思っていることをぶつけ合った。

コーチ陣が提案する内容を、選手たちはやりづらいと感じていること。

コーチ陣から要求されていた4点のフォーカスポイントをすべて網羅することよりも、2つに絞ってそれを完璧にした方が賢明だと選手たちは考えていること。

「ディフェンスのバクハツと、早いセット。それだけにしたい、と伝えました。」

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自分たちの強みを、ディフェンス一本に絞ろう。

だからキャプテンズランの練習も、ほとんどディフェンスの練習だけにしよう。伊藤バイスキャプテンは、大川キャプテンと2人腹を括った。

「自分たちでもう少し練習を動かしたい、とコーチ陣にお願いしました。」

1日のスケジュールは、分刻み、いや秒単位で決められている。

そこでキャプテンズランの時間を少しだけ増やしてもらい、自分たちでコントロールする時間を増やした。

そのキャプテンズランでは良い練習ができました、と笑顔を見せる。

The First Move

そうして迎えた、3月22日。U19アイルランド代表との第1戦目。

試合前にはロッカールームで円陣を作り、君が代を歌った。

「国歌を歌うと言われた時には、ちょっと恥ずかしさも感じていました。だけど実際に肩を組んでみんなで歌ってみると、鳥肌が立って。(SH髙木)城治も感じていたみたいです。『びっくりした、意外と鳥肌立つんだね』と言っていましたね。(伊藤選手)」

FB矢崎由高選手も、日本代表としての心構えを試合当日のロッカールームで作ることができたという。

「ロッカールームにはジャージが背番号順に並んでいて、その上には顔写真のプリントが全員分飾られていたんです。それを見た時に初めて『ジャパンのジャージを着るんだな』と思いました。」

もしそれがなく、ただジャージを渡されただけだったら。単に新しいメンバーと試合をしに行く感覚、だったかもしれない。

「スタッフさんたちの『少しでも日本代表を感じてほしい』という心遣いに、僕は影響を受けました。」

実はこのロッカーの設えには、裏話がある。

試合前夜遅くに開かれたスタッフミーティング。そこで突如生まれた、フラッシュアイディアだったのだという。

「これいいじゃん、これやろう!」

そこから全員分の顔写真を印刷し、ラミネート加工を加えた。

少しでもベターを、少しでもベストに。

細部に宿る想いやりは、選手たちにも届いた。

「フル代表のアイルランドは、世界ランク1位。勝って前半を折り返せればいいけど、たとえ負けているとしてもロースコアで折り返そう。」

最後尾に構える矢崎選手は、そう仲間に声を掛け円陣を解いた。

キックオフの笛が鳴ると、試合序盤は落ち着かない展開が続く。両者ともにハンドリングエラーが目立った。

そんな状況下でも「確実に取り切れる所で取り切ったのが日本」だと先発の司令塔を務めた伊藤龍之介バイスキャプテンは話す。

アイルランドはあまり長いフェーズを重ねられなかった一方、日本は相手ディフェンスよりもアタックの陣形を素早く整えることができていた。

一方で、アイルランドは一人でこじ開ける個の力、前に出た時に繋がるアタック力が強い。

だから「相手にアタックをさせたらダメだ、という話が試合中に出ました。そのために自分たちがこれまでやってきた『The First Move』で『バクハツ』して、相手にアタックをさせる前に止めよう、と。」

立ち返る場所は、いつも自分たちの強みだった。

風上に立った後半は、キックを多用するかと思いきや、それも途中まで。相手のアタック力を踏まえ、キックよりもアタックを継続させる戦術へと自分たちで変更した。

「アイルランドにアタックさせてしまうと、体も強いしスピードもある。若干不利に感じているという情報を(8番・藤井)達哉や(12番・西)柊太郎と話して、自分たちがボールを持つ方向にシフトチェンジしました。(伊藤バイスキャプテン)」

FWリーダーを務める白丸智乃祐選手も言う。「絶対に何かが起こると思っていました。アイルランドのスイッチが入ったら、すごい圧力で来るだろうから油断しちゃいけない、って。」

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試合最終盤は、自陣に張り付いた。

だがそれをも予測し、油断せず、心構えを作っていた日本。最後まで全員が諦めず、出足早くタックルに入り、何度も移動を繰り返した。

そうして掴み取った、1PG差の勝利だったのだ。

白丸選手は、FWの収穫にモールディフェンスを挙げた。

「試合を通してアイルランドのモールを止められたこと。自分たちのペースで試合運びができたことは良かったと思います。」

だがキック時のディフェンスでは、FWがラックに寄ってしまうこともあった。そこで大きなゲインを許し、失点へとつながった。

「次の試合ではアイルランドがそこのスペースにボールを運んでくると思うので、横の人と連携を取ってディフェンスをしていきたいです。」

修正点は明確だった。

伊藤バイスキャプテンも力強く言った。

「スペースにボールを運ぶ、というアタックをずっと霜村さん(誠一BKコーチ)とやってきた。ミスさえなければ、もっとトライが生まれていた試合だと思っています。」

たくましいレビューができた。

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HONKI

第1戦目を3点差で勝利した日本は、その2日後の練習でも変わらず良い雰囲気で練習を行った。

オンの集中力と、高校生らしいオフの姿。その切り替える力は類を見ない。

第2戦目の前日に行ったキャプテンズランでは、ミスは減り、高い精度で最後の確認を行う。

1戦目の反省を踏まえ、順目に回る練習も繰り返した。

「まずはFWとして、セットプレーの安定を継続すること。自分たち高校ジャパンにとって一番要である、ディフェンスでバクハツすること。そこで70分間を通して相手に迫力を与えて、自分たちのペースで試合ができればいいなと思います。(白丸選手)」

自分だけではなく、ここにいる26人全員がどんどん吸収してどんどん強くなっていっている。それがこのチームの強みだと自信を持つ。

伊藤バイスキャプテンも、勝利におごることなく気を引き締めた。

「第2戦目の選手たちは、第1戦目よりもレベルが上がる。だけどミスさえ修正できれば、次の試合ではもっとトライが生まれる試合になる予感がしています。」

高校日本代表のバイスキャプテン。そして司令塔。重責ではあるが、それすらも楽しむ様子がここアイルランドに来てからは目に留まる。

「キャプテンの(大川)虎拓郎は、もっと自分でグイグイ引っ張っていくタイプのリーダーだと思っていたんです。だけど実際の虎拓郎は、自分のやることを真面目に、プレーで引っ張っていくタイプ。

だから言葉で伝える部分は僕が担った方がいいかもな、と思ったんです。(FB矢崎)由高や(SH髙木)城治、(BKリーダーの西)柊太郎たちも自分の想いを真っすぐ言葉にするので、それを僕は上手くまとめていきたいな、と思っています。」

周りの選手たちにも任せながら楽しく試合ができています、と優しい表情で話した。

26日に行われる第2戦目が、いよいよ高校生としてプレーする最後の試合。

そうか、もうみんなヘッドキャップをつけなくなるんだ、と伊藤バイスキャプテンはつぶやいた。

「僕の兄(伊藤耕太郎選手、現・明治大学)が高校日本代表最後の26人に入れなかった姿を見てきました。だから僕は、高校日本代表を目指すという目標を比較的身近な所に置いていたというか。高校に入った時から、高校日本代表を心のどこかで目指していたんです。

それが今実際に叶って、最後までみんなでラグビーできて、しかもバイスキャプテンまでやらせてもらっている。

3年間やってきたことの集大成を、このすごいメンバーたちと一緒に、しっかりと悔いの残らないように。勝ってみんなで喜びたいです。」

勝って喜ぶ、そのためにもすることは一つだけ。

「高校3年生でラグビーをしているのは僕たちしかいない。楽しむしかないと思う。最後、この舞台で戦えることに感謝をして、おもいっきり楽しみます。(白丸選手)」

いよいよ、70分間の集大成が幕を上げる。

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