60分の物語
東福岡
昨季、花園で全国を制覇。
主力だった3年生が卒業し、また一からチームを作り上げる日々が続くのが、東福岡だ。
「こういう良い準備をしたら、こういう良い結果が生まれる。それを体験させてあげたかった」と話すは藤田雄一郎監督。
準決勝の前日に3時間ほどミーティングを行ったのも、そのための一部である。
東福岡が東福岡であり続けるために、しなければならないことがある。
「激しさ。それが出来れなければ、ラグビーはできない。」
今日はそれが出た試合だった、と藤田監督は総括した。
決勝戦の相手は、関東王者・桐蔭学園に決まった。
「相手の方が3枚ぐらい上手。今大会まずは桐蔭までたどり着きたい、とやってきました。どれだけ引き離されないか、ですね。あとは実際に体を当てて、フィジカルがどうか。」
せっかく自分たちが作った決勝の舞台。
頂点までたどり着いてほしい、たどり着かせてあげたい。
そう、最後に藤田監督は話した。
***
準決勝が選抜大会初めての先発となったのは、SH利守晴選手。落ち着いた立ち振る舞いと、視野の広いコミュニケーションが印象的なスクラムハーフだ。
コンディション都合のため大会自体の出場も危ぶまれたが、自ら「出たいです」と直談判しジャージを掴み取った。
「東福岡のスクラムハーフであるからには、声を出し続けて、周りを動かすことが大事。体も大きくないし、足も大して速くない。当たりも強くない僕がグラウンドに出て東福岡を強くし続けるためには、僕の声で仲間を前に出し続けることを徹底したいと思っています。」
今日は久しぶりの先発。緊張もしたが、声を出すのはどんな状況でもできること。準備の段階で、どういう声掛けをしようか予め決めておき、それを試合中に遂行したのだという。
利守選手がラグビーを始めたのは、小学1年生の時。時折スタンドオフも担うが、基本は小学4年生からスクラムハーフ職一筋である。
東福岡での公式戦初出場は、昨年のサニックスワールドラグビーユース交流大会だった。当時の主力メンバーにコンディション不良者が相次ぎ、チャンスが与えられる。
そしてその機会を、ものにする。初めてのファーストジャージで、スクラムからショートサイドに持ち出し初トライをあげたのだ。
「中学生の頃は、『自分が自分が』という選手でした。自らトライすることも多かったのですが、東福岡に来てからは捌くことを意識し、自らチャレンジすることはあまりなかった。でもあの時は、あそこが空いた!と思って自分で行きました。」
目標は、幼稚園からの幼馴染でもある東福岡高校2代上の楢本幹志朗選手(現・筑波大学)。自らをラグビーの道に誘ってくれた恩人だ。
楢本兄弟とともに、近くの公園で毎日一緒にラグビーをしてきた幼少期。そして今、その楢本”先輩”が達成した選抜大会優勝を、今度は自分自身で叶える番がやってきた。
「決勝戦では、強いヒガシを見せたいと思います。」
東福岡の伝統の9番を背負い、チームを優勝に導く。
昨夏から冬にかけ、東福岡の10番を担った神拓実選手は今大会12番で出場。ダブルスタンドオフのようにボールを持ち、ゲームをコントロールするシーンも目立った。
「ずっと10番をやっていたので、10番の方がやり易さはあります。でも試合に出られるなら、10番でも12番でもどちらでもいい。」
10番を支える12番。様々なことに目を配らないといけない10番の大変さを、昨年痛感した。
だからこそ「いかに10番を動き易くさせられることができるか、が僕の役割」だと認識する。
この日は40点差以上をつけての勝利ではあったが、「ディフェンスで0点に抑えようと話をしていた。その中で17点も取られてしまったことは大きい」と反省を口にする。
東福岡が東福岡であるためにも、体を当てつづるけること。それが、今年も東福岡の礎なのだ。
最上級生として迎える全国の決勝戦。「やることは変わらずに、接点の部分で勝ちたい。」
まずは今期、一つ目の王座にたどり着く準備を整えた。
常翔学園
類いまれなキャプテンシーを有するNo.8岩本有伸選手。
そんな岩本キャプテンをFWリーダーとして支えるのが佐藤漣選手だ。
高いワークレートと、少しでも前に出る接点。力強いロック像を体現する佐藤選手は、昨年No.8を主戦場としていた。しかし花園では3番に。
だがその花園で、スクラムという欠点が出た。だから「僕より良い3番がいるので、フィールドを徹底するために(4番や8番など)後ろに下がった」のだそう。今大会は4番を背負っている。
個人のパフォーマンスの出来を問うと、チームとしての自らの立ち位置を踏まえて言葉を紡いだ。
「ただただ自分が前に出るだけではだめ。自分が活躍するだけではなく、どうやったら周りの選手たちを活躍させられるか。1人で8トライぐらいできればいいですけど、それはできない。だからこそみんなが活躍をして、みんながトライを取らないと勝てません。」
フィールド上の15人、25人の登録メンバー、常翔学園に所属している仲間みんなで60分間を戦うチームスポーツが、佐藤選手が夢中になるラグビーなのだ。
「みんなが活躍して優勝することが、僕たちのラグビー。そこを考えていかないといけないと思います。」
東福岡に敗れはした。だが、得るものも大きかった。
「今日は東福岡さんのFWを止めきれなかった。走り込みも足りないと思いました。ウエイトの強化、体重を増やすこと、フィットネスを上げること。一つずつやっていかないといけません。」
昨年、ニュージーランドで武者修行を経験した佐藤選手。今夏も同国で3か月間、過ごす予定だ。
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