60分の物語
國學院栃木
後半序盤にくらった、桐蔭学園怒涛の3連続トライ。「すごかったです。でも、自分たちは花園の優勝が目標。絶対に花園までに修正していきます。(SO神尾樹凜選手)」
越えるべき壁を、再び痛感した一戦となった。
およそ1か月前に行われた関東新人大会では、47-0で桐蔭学園に敗れていた國學院栃木。
「関東大会のリベンジをしようと挑みましたが、結局またボロ負けしてしまって本当に悔しいです。」
SH小倉光希矢キャプテンは、うつむきながら答えた。
一人ひとりが判断をしきれなかった。自分たちのタックルミスも重なり負けてしまった、と振り返る。
「桐蔭さんが強くて、1人目で倒せなかった。そこで負けてしまいました。」
一方で、2月には取れなかったトライを最後に一つ、決めることができたことは収穫材料だ。
「この前取れなかった1トライができたこと、それについては少しは成長したのかなと思います。」
未来への布石を示した。
熊谷ラグビー場Aグラウンドで、國學院栃木の10番を身につけ戦ったのは、1年生の神尾樹凜選手。
深谷市出身。初めての凱旋プレーは「悔しさしか残らない」と苦い思いを口にする。
「1回戦の尾道戦では自分が足を引っ張ってしまい、1・2回戦は自分のせいで負けそうになった。味方に辛い思いをさせて、キツい場面でキツい勝負をして、キツい体で出場させてしまった。もっと仲間に貢献をしたい。」
チームプレーであるからこそ、1人の責任の重さを知った。
それでも関東新人大会の頃に比べ、前半、特に最初の15分間は大きく進歩した。「自分でも感じました」と神尾選手は手応えを口にする。
この15分が30分となり、年の瀬を迎えるころには60分間を通しての進化となるはずだ。
「(前キャプテン・伊藤)龍之介さんの後を継げるように。夏、菅平で成長したいと思います。」
次に踏み出す一歩を見つけた大会となった。
桐蔭学園
桐蔭学園が今大会のために用意してきた刀は2本。
FWの直球と、少しずらしてから内足を出し、足を掻いて半歩出すこと。
城央祐キャプテンは「そこしかやってきていない」を繰り返すが、それが強い。
3番・前田麟太朗選手からボールを受けた15番・吉田晃己選手が相手に掴まれながらも前に出ると、相手ディフェンスの向こう側でオフロード。6番・牧錬太郎選手へとつながった5トライ目。
1番・井吹勇吾選手、3番・前田選手の2人で大きくゲインしたのは6トライ目だった。
ラインアウトモールで進めなければ、モールサイドをすぐにFWが突破した7トライ目。
前に出て、繋ぐ。繋ぐために、立っている。そのためには、自分が強い姿勢を作る。
なぜ、このプレーをするのか。なぜ、この半歩が大事なのか。それを理解しているから、徹底することができる。
二の矢、三の矢が強い桐蔭学園らしいトライが、準決勝でも繰り広げられた。
昨年は全国の強豪校と戦う機会も限られた。
だからこの選抜大会では「一つでも多く、強いチームとやろう」と熊谷へやってくる。
準々決勝では大阪桐蔭に先制トライを許したが、それさえも「じゃあどうしよう、と考えることができた」と前向きに捉える。
藤原秀之監督は言った。「試合ができることが楽しい。」
いよいよ迎える、決勝の舞台。
昨季桐蔭学園の10番を背負い、高校日本代表にも選ばれた矢崎由高選手(今春卒業、4月からは早稲田大学へ進学)は、決勝へ進んだ後輩たちに向けエールを送った。
「去年は関係ない。今勝っているのは自分たちの力であって、11月20日に花園予選で負けてからの成長があってこそ。積み重ねたことを信じてやってほしい、応援しています。」
代表活動前には母校で後輩たちの練習に混ざり、ともに汗を流していたという。
今期、桐蔭学園の10番を担うのは萩井耀司選手。奇しくも同じ吹田ラグビースクールの後輩でもある。
「桐蔭の10番として、チームの中心となって的確なサインを出したい。そしてパスだけでなく自信のあるランも活かすために、しっかりと前のスペースを見て、自分で行くところと周りに託す所の判断をしていきたいと思います。(SO萩井選手)」
城キャプテンは言う。
「相手が強くても、僕たちのやることは変わらない。大会を通して、自分たちのテーマである『徹』、自分たちのスタイルを徹底して貫ければなと思います。」
桐蔭学園のラグビーを徹した先に、優勝は見えてくる。
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