キックオフの笛が鳴ると、最初にスコアボードを動かしたのは東福岡。
前半5分、敵陣ゴール正面でのブレイクダウンでペナルティを得ると、10番・井上晴生選手がPGを蹴り上げまずは3点を先制する。
しかし、そこから巧さを見せたのはハミルトンだった。
風上を活かしたエリア取りとポゼッションで圧倒的に上回り、怒涛の3連続トライ。
1本目は前半11分。ゴール前でのペナルティで2度スクラムを選択すると、FWが体を当てながら押し込む。
1番ラハルヒ・パーマー(Raharuhi Palmer)選手がトライを決めた。
2トライ目もFW。ゴール前に攻め込まれても粘る東福岡だったが、タッチに出たボールをクイックで投入するはハミルトン。そのまま逆サイドを駆け上がった。
最後はFWがポイントを作りながら前進し、またしても1番・パーマー選手がインゴールへ。
圧巻は前半27分。
リスタートキックオフで蹴り込まれたボールを50:22で蹴り返したのは、ハミルトンの15番ランギワイ・ルンジェヴィッチ(Rangiwai Lunjevich)選手。
ハミルトンベンチ前でのラインアウトからモールを作ると、一度は逆サイドに振り切るが、すぐさま左サイドへボールを戻す。手にしたのは6番リアム・ストーム(Liam Sturm)選手。縦に走り抜き、トライを決めた。
21-3、ハミルトンが畳み掛ける。
このまま前半が終了するか、と思われた。
しかし、ここは福岡。スタンドには、登録メンバーに入っていない仲間が揃って応援に駆けつけていた。
戦っているのは、ピッチにいる15人だけではない。ともに戦い、背中を押す。
披露したのは、伝統の応援歌『博多の男なら』。コロナ禍で長らく封印されていた応援が、会場中にこだました。
現在の高校生にとっては、15人制で初めての声出し応援。ハーフタイムには東福岡で受け継がれる『エビバディダンス』を披露し、会場の盛り上げにも一役買った
すると早速、東福岡は敵陣22m付近でマイボールラインアウトを獲得する。
なかなか敵陣深くへ入り込めなかった前半、ようやくチャンスを得た。
ラインアウトを確実に確保すると、モールは組まずすぐさま中央付近にボールを運ぶ。そこで出来たファーストラックで逆目に戻すと、縦に抜けたのは12番・神拓実選手。
「ハミルトンのディフェンスは順目に回るので、エッジが空くという分析結果が出ていました。だから前日のミーティングでは、みんなでそこを狙おうと確認していて。そしたらちょうど自分の前が空いていたので、そのまま持ち込んだらトライに繋げることができました。(神選手)」
この試合、チーム初トライを決める。
予選トーナメントではパスミスやシンビンなどが重なり、自身では納得のいくプレーができていなかった神選手。「どこか心の中に不安があったように思います」と正直に話す。
昨年夏から、長いことグリーンの10番を背負ったエース。勢いをもたらしたこのトライで「チームに貢献できたかな」と安堵の表情を見せた。
東福岡が5点を追加し、21-8で前半を折り返す。
トライ後にめずらしく雄叫びをあげた神選手
ハーフタイム。
東福岡陣営では、風上に立つ後半をどう戦おうかと話を進めていた。
圧倒的に押されて終わった前半。だけど敵陣に入ったら、自分たちでもトライが取れる。だから、どうやってそこまでたどり着こうか。
いつも通りフォワードとバックスに分かれ話をし、全体で話をし。
そして最後、選手たちは誰からともなく、肩を組み合った。
ベンチメンバーにウォーター。みんなが一つとなった大きな円陣を作り、最後は6番・高比良恭介キャプテンの掛け声に合わせ、大きな声を揃って出した。
これまでの東福岡では、見たことがない光景。高比良キャプテンも「初めてでした」という。
その時の状況を詳しく説明したのは、バイスキャプテン・隅田誠太郎選手。
「ラグビーは紳士のスポーツ。だから僕たちも紳士であろう、といつもはしているのですが、もう今日は気合いを入れないと勝てない相手だった。だから気合いを入れ直そう、と自然発生的にみんなが肩を組み始めました。僕たちなりの気持ちの表し方だったかな、と思います。」
全員で、気持ちを作った。