風上に立った後半。「走り勝とう」の声とともに、気合いの30分間は始まる。
まずはどう敵陣に入っていくか。
ベンチから「エッジ」と声が掛かれば、ボールを大外に運ぶ。外で勝負しよう、という意志だった。
するとウイングがボールを蹴り込み、エリアを進める。
チャンスを得たのは後半12分。敵陣ゴール前でペナルティを得ると、スクラムを選択した。
ボールを投入したのは、6番・高比良キャプテン。そのままスクラムサイドを駆け上がり、最後は16番・沢田海盛選手が押し込んだ。
コンバージョンゴールも成功し、15点目。21-15、東福岡が6点差まで迫る。
1トライ1ゴールで逆転可能な、6点差。
しかしボールを持たせたら、ハミルトンはどこからでも攻め入るスキルを持っている。だからこそ東福岡は、まずは自分たちのディフェンスを信じた。
14番・松尾佳大選手は右端でハミルトンのフルバック、ルンジェヴィッチ選手へタックルに入る。15番・隅田選手がボールに絡むと、13番・村上有志選手、神選手らセンター陣が一気に加わり、ラックを思いっきりめくった。
ターンオーバー。盛り上がる、会場。
しかしレフリーの手はハミルトン側に上がった。驚きの声も聞こえたが、小競り合いが起きると、東福岡側に手が上げ直される。
そこで得たペナルティで、またしても東福岡はスクラムを選択する。
16番・沢田海盛選手は笑顔で手を叩き、勝負を挑んだ。スタンドの部員も、大きな声で『鬼のスクラム』コールを繰り返す。後半は一層、スタンドの仲間から届く声が大きく聞こえた。
「力強いし心強い。僕たちは15人で戦うスポーツですが、15人以上のパワーがあったと思います。」
高比良キャプテンは目を細め、そして感謝を伝えた。
その高比良キャプテンがスクラムにボールを投入すると、キャプテン自身が持ち出した。ポイントを作れば、ゴール前でFW戦へ。
粘り強く当たる。バックスからも大きなコミュニケーションの声が届いてはいたが、最後は17番・髙矢晨之介選手が一瞬のチャンスで押し込んだ。
後半21分。「ゾーンに入ってましたね」とは、東福岡・藤田雄一郎監督。
ついに、21-22と逆転に成功する。
藤田監督は今大会最も成長した選手に、髙矢選手の名を挙げた。「後半ラスト15分で与えてくれるセカンドインパクト。疲れている選手たちに元気を与えてくれる存在です。」
残り9分を守り切れば、東福岡が初めてチャンピオンカップを手にする。
だがもちろん、簡単にはいかない。
グラウンド中央でボールを持ったのは、今大会落ち着いたゲームメイクと自らでの勝負力が目立ったハミルトンのスタンドオフ、ウィンダム・パトゥアワ (Wyndham Patuawa)選手。
目の前に立つは、東福岡のフロントロー。ミスマッチを突かれた。
そのままビッグゲインを許すと、最後は11番デュプレ・マーシャル(Dupre Marshall)選手が逆転のトライ。
28-22。ポイントリーダーは後半27分、再びハミルトンへと渡った。
残り時間僅か。
東福岡はラストチャンスを信じて、再び勝負のエッジに託した。11番・西浦岳優選手がボールを持って駆け上がる。
このまま抜ければ、というシーンまではたどり着いたが、裏を狙って蹴り上げたボールは惜しくもデッドボールラインを割る。
そうして吹かれた長い笛は、ノーサイドを伝えた。
ハミルトンが東福岡を6点上回り、9年ぶり4度目の優勝を手にした。
その場にしゃがみ込んだのは、9番・利守晴選手。
世界一になる景色を、これからのヒガシを目指す子どもたちに届けたい、と走り抜いた60分間。
僅かに届かなかった差に、表情を崩した。
2番・田中京也選手も、はばかることなく涙を流す。熊本県出身。親元を離れ寮生活を送るが、応援に駆けつけてくれた家族の姿が目に入ったのだという。
「よく頑張った、と声を掛けてもらったら、涙が出てきました。」
全国選抜で芽が出た今年のチーム。
ここワールドユースでは「根が張りました」と、藤田監督は選手たちの成長を見つめた。
「根が広がったので、フィジカルをつけ、ゲーム理解度を高めたら、太い幹が生えてくると思う。いろんなエッセンスを取り入れる準備ができました。」
まだまだ伸びしろしかない、と目を細めたが、しかしどこか悔しさも滲ませる。
準備してきたことを出せれば、勝てる。戦える。そう選手の誰もが感じた60分間だった。
「だからあとは精度を高め、いかに理想形に近づけるか。ペナルティをせず、ミスもせず。(高比良キャプテン)」
これまでは大会が続き、一貫した強化ができなかった。
だからこれから先しばらくは、腰を据え、栄養分を吸収する日々が続いていく。
優勝トロフィーを前に、準優勝の賞状を受け取る高比良キャプテン
ハミルトン オリー・マティス キャプテン
東福岡のみなさんと試合をすることになれば、タフなゲームになると思っていました。想像通りタフな時間でしたが、優勝できたことを嬉しく思います。
特に最終盤、逆転されてからも我慢強く、最後の最後に取り切ってくれました。チームのみんなを誇りに思いますし、これから迎えるシーズンへ良い弾みがついたと思います。
僕自身は近い将来スーパーラグビーでプレーして、いつか国を代表する選手になりたいと考えています。
東福岡 隅田誠太郎 バイスキャプテン
目的・目標は世界一。昨日の分析からずっと勝つことだけを考えてきたので、最後6点差という結果がとても悔しいです。僕のミスでトライを取られてしまった時もあったので、本当に申し訳ない気持ちでいます。
ですがこの経験は、僕たちしかできていません。必ず冬につなげて、花園では絶対に優勝カップを持ちたいと思います。
試合終了後、必ずベンチに控えるメンバーを迎え入れてから整列する隅田バイスキャプテン