試合概要
第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選 準々決勝
【対戦カード】
川越東高校×熊谷工業高校
【日時】
2023年11月4日(土)10:05キックオフ
【場所】
熊谷ラグビー場Aグラウンド
試合内容
川越東高校 22 – 0 熊谷工業高校
第1シードの川越東は、試合序盤からディフェンスでプレッシャーを掛ける。
熊谷工業のボールを乱れさせた所、すかさず拾い上げたのは、大けがから復帰した3年生フルバック・小野寺将大選手。
前半2分、20m超を走り抜きトライを決めた。
幸先良く7点を先制した川越東だったが、その後なかなか流れを掌握できない。ゴール前まで迫るものの、ミスとペナルティで取り切れない展開が続く。
対する熊谷工業は、ゴールラインを背負ったディフェンスで粘り、前半24分まで7点差を維持。しかし前半終了間際に川越東にモールから2トライ目を許し、14-0で前半を折り返した。
後半もコンタクトエリアで優位に立つは川越東。しかし変わらずトライが遠い。
後半14分、敵陣中央22m付近でペナルティを得ると、まずはPGで3点を追加。17-0とすると、後半19分には右サイドで12番・五十嵐舜悟バイスキャプテンが一つ体を当てた後、内に切り返し押し込んだ。
自身が蹴ったコンバージョンゴールは外れ、22-0。
そのままスコア動くことなくノーサイド。川越東は完封勝利だったものの、課題多き準々決勝となった。
最後のノーサイド ~熊谷工業
キックオフのおよそ20分前。ウォーミングアップを終え、スタジアムに戻る途中でのこと。
熊谷工業6番・佐藤陽翔キャプテンは、見送る保護者から声を掛けられた。
「ずいぶん気合い入れたね!」
髪の毛の両サイドを、短く刈り上げていたのだ。
佐藤キャプテンは、笑顔で返す。
「あったりめーじゃん!これじゃなきゃ、工業じゃねーじゃん!」
試合前日、橋本大介監督は選手たちに問うた。
「みんなが考える、熊谷工業らしさとはなんだ?」
橋本監督は言う。「熊谷工業は、下馬評を覆して強いものに勝ってきた歴史がある。それが熊谷工業だ。」
第8シードの熊谷工業が、第1シードと対戦するのだから、相手は間違いなく格上。
いまこそ、熊谷工業らしさを見せる時だ。
気持ちは入った。
佐藤キャプテンの力強いボールキャリーは、この試合でも数えきれないほどに見られた。
困った時に前に出てくれる、心強いキャプテン。そして他の3年生たちももれなく、工業らしく、しがみついては離さないタックルを見舞う。
機動力のある川越東フィフティーンに何度もビッグゲインを許しそうになったが、その度に必ずや誰かが食らいついた。
だが、ディフェンスで体力を奪われてしまい、接点で勝ち切れない。
1トライが遠かった。
試合後、3年生たちへの言葉を求められた橋本監督は、優しい表情で言った。
「まずは陽翔が今日の舞台に立てたこと。それが心から良かった。」
大会直前に怪我をし、一時は出場も危ぶまれた大黒柱。しっかりと60分間、熊谷工業の主将として戦い抜けたことに、安堵した。
そして、最後の瞬間まで3年生たちがグラウンド上で成長し続けた姿にも、目を細める。
大学でラグビーを続ける者は、佐藤キャプテン1名のみ。
他の3年生たちは、工業高校らしく多くが就職する。
ゲームメイクを担った佐藤翔太バイスキャプテンも、この試合で第一線を退くことになった。
「これからも、暇があったらみんなと一緒にラグビーをしたいなと思います。(佐藤バイスキャプテン)」
大学でラグビーを続けることだけがラグビーではない。
生涯にわたって、高校3年間をともに泣き笑い過ごした友と、ラグビーを通して交流を続けること。
それが、熊谷工業でラグビーに興じる、ということなのだ。
SIDE STORY ~試合を終えて