試合概要
第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選 準々決勝
【対戦カード】
熊谷高校×深谷高校
【日時】
2023年11月4日(土)11:30キックオフ
【場所】
熊谷ラグビー場Aグラウンド
試合内容
熊谷高校 34 – 36 深谷高校
逆転劇を制したのは深谷だった。
前半2分、まずは深谷がPGで3点を先制する。
対する熊谷は、その6分後に3番・榊原洋太郎選手が押し込みファーストトライ。5点を返した。
その後テンポよく2トライを奪ったのは深谷。
ラインアウトモールから抜け出し2番・新井靖憲選手がグラウンディングすると、続けざまに深谷らしいスペースにボールを運ぶアタックで最後は10番・大屋玲穏選手が飛び込んだ。
5-17と、深谷が12点のリードを手にする。
しかし熊谷も負けじと前半終了間際に2連続トライを決める。
No.8ルナ仁鼓バイスキャプテンが縦へと抜けたトライに、またしてもルナ副将を起点に12番・松本賢志郎キャプテンを経由して、最後は右の大外で10番・富樫鉄生選手が決めたトライ。
戦前の予想通り、激戦。17-17の同点で前半を折り返した。
後半最初のトライを奪ったのは深谷。復帰戦となった14番・角田正道選手が右隅に飛び込むと、17-22。
このまま深谷がトライを重ねるかと思われたが、しかし持ち前のゲームメイク力で一気に主導権を握ったのは熊谷だった。
12番・松本賢志郎キャプテンのインターセプトに、8番・ルナ仁鼓バイスキャプテンの縦突破からのトライ。
9番・中野力選手が繰り出した、右足アウトサイドでの裏へのグラバーキックもチャンスを呼び寄せた。
一時は31-22と熊谷が9点のリードを得る。
だが、本当のドラマはここからだった。
後半24分、深谷は5番・馬場健太キャプテンのトライで希望の糸を手繰り寄せると、31-29。2点差へと迫った。
時計の針が30分に差し掛かる頃、ボールを持っていたのは熊谷。場所は深谷陣30m付近。レフリーが笛を吹けば、手は熊谷サイドに高く上がった。
ブレイクダウンでペナルティを獲得した熊谷。
選手たちに、後半のロスタイムは2分であることが伝えられた。
残り2分で、敵陣。2点のリード。ペナルティでの判断に、熊谷陣は少し時間をとって話し合った。
レフリーも、時計の針を止める。
そして下された、ショットコール。90秒を使って蹴り込んでも、まだ時間は残っていることを理解した中での判断だった。
その理由について熊谷・松本キャプテンはこう説明する。
「トライのリスクもある。まずはPGで5点差にして、自信のあるディフェンスで守り切れると考えました。」
15番・𠮷越快選手がペナルティゴールを成功させると、34-29。熊谷5点のリードに変わった。
後がなくなった深谷。トライを取るしか、勝利はない。
だが、深谷・馬場健太キャプテンは「誰も焦っていなかった」と振り返る。
最後のキックオフを左サイド22m内に蹴り込むと、どんな運命の悪戯か、熊谷の選手たちが交錯。キックオフボールをノックオンしてしまった。
深谷にとっては千載一遇のチャンスが巡ってくる。
マイボールスクラムからしっかりとボールを供給すれば、これまで磨いてきた深谷らしいスピードのあるアタックをやり切った。勇気をもって左右にボールを振り、最後は12番・飯塚祐真バイスキャプテンが右手一本でボールを掴むと、ディフェンスを引き寄せながら外にいた味方にボールを回す。
11番・原田壮真選手が左サイドを走り込んだ。
34-34、同点のトライが決まった。
同トライ数、同コンバージョンゴール数、同PG数と、これが決まらなければ抽選となる運命のコンバージョンゴールを託されたのは、深谷のバイスキャプテン・飯塚選手だった。
遡ること2年前。1年生の時に出場した決勝戦では、ことごとくプレイスキックが外れた。
悔し涙をのんだ2年前。あれから月日は流れ、その分だけ積み重ねた練習があった。表情には、自信が溢れていた。
ボールを持つ飯塚選手に近寄って行ったのは、3年生の15番・須永天万選手。
「お前なら絶対に決められる」と、大粒の涙を流しながら信頼を伝えた。
他の14人の選手たちも、ベンチにいるメンバーも、みなが肩を組み、静かに祈った。
いつも通り、しっかりと振り抜いた右足。
ボールは、Hポールの真ん中を通った。
34-36。
ラスト2分での逆転劇を制した深谷が、準決勝進出を果たした。
最後のノーサイド ~熊谷
熊谷高校ラグビー部主将、松本賢志郎。
誰よりも勝ちたいキャプテンだった。
これまでキャプテン経験はなかったが、横田典之監督のもとでラグビーがしたい、と熊谷高校ラグビー部にやってきた。
その熱量こそが、熊谷高校ラグビー部が必要とするピースだった。
ふだんはめっぽう優しい。そして愚直なほどに一直線。
だが、夏合宿中の怪我をきっかけに、チームを俯瞰して見られる視座を持った。
「冷静になったと思います。チームを外から見て、少し冷静になりました。」
グラウンドの中に居続けたのでは知り得なかった景色を目にした。
深谷市立岡部中学校出身。
深谷高校には、同じ中学校出身の選手が数多くいる。
試合後の挨拶を終えると、そのまま旧友とかたく抱き合った。
そしてインタビューゾーンに戻ると、同じく岡部中出身の深谷・馬場キャプテンの胸で、声をあげ泣いた。敗れた松本キャプテンだけでなく、勝ち進んだ深谷の馬場キャプテンも飯塚バイスキャプテンも、一緒に大粒の涙を流した。
ライバル。だけど、仲間。
「めちゃくちゃ良いやつら。自分たちに勝ったんだったら、深谷には一番上まで上がって欲しい。心の底から応援しています。」
心の底から応援しています。
噓偽りのないエールが、涙とともに送られた。
SIDE STORY ~試合を終えて