12月27日に開幕する、第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会。
神奈川県代表として2年ぶり21度目の出場を決めた桐蔭学園高等学校は、12月上旬、時折笑顔を見せながらも密度の濃い練習を行っていた。
この日の練習終わり、選手たちを集めた藤原秀之監督は、とある飲食店に行った時のエピソードを生徒たちに話し始める。
どうやら、地元のラーメン屋に桐蔭学園ラグビー部の選手が訪れた、という情報が監督の耳に入ったそう。
選手たちに、満面の笑みが広がった。
第58期のキャプテンを務める城央祐選手は「スタッフが楽しい雰囲気を作ってくれている」と感謝する。
「スタッフの皆様が、新チームを作る時に『楽しいラグビーをしよう』と言ってくれた。そのためにはきついこともするし、理不尽なことを言うかもしれない。だけどそれでも日本一になりたい覚悟があるのなら、一緒にやろう、と。」
楽しいラグビーで、日本一を。
楽しいの裏側にある、きついこと、厳しいことを全てやってきたからこそ、楽しいラグビーができると知っている。
いま、自信を持って4度目の花園制覇へと向かう。
注目選手
キャプテン・城央祐(No.8)
桐蔭学園を目指した理由はシンプル。
「一番強かったから。やっぱりスポーツは勝たなきゃ楽しくないんで、一番強い所に行って、勝って楽しくラグビーしたいな、と思って選びました。」
振り返れば、早かった3年間だった。
1年生の頃は「しんどくて長く感じた」こともあったというが、以降はあっという間。気が付けば高校生として試合ができるのも、残り最大でも5試合となった。
「自分ができる最後の高校生としての試合。1試合を大事に、楽しみたいです。」
桐蔭学園での3年間は、寮生活。毎週のように食事を冷凍し送ってくれる家族がいたからこそ成り立った3年間でもある。
「こうやって僕が良いグラウンドで練習できているのも、親、保護者の方々のお陰。まずは結果で、そして自分の姿で返したい」と力強く誓った。
2年生の新里堅志選手曰く「ひとつ次元が違う。コンタクトレベルもジャッジも慣れていて、前に出てきた時の強さと信頼がある。僕が練習していると、ちゃんと見ていてアドバイスもくれます。師匠です」
井吹勇吾(プロップ)
今年は一貫して、FWの安定がチームを支えている。
不動の1番を務めるは、井吹勇吾選手だ。
「去年負けた時は、セットプレーが一番の弱点でした。相手に詰められて、そこから負けにつながってしまった。今年は重点的に練習してきました。」
昨年の悔しさをバネに、今年はセットプレーを強み変えることに成功する。
最前列で戦う者として。
「点を取ることも、相手のボールを取り返すこともできている」と自信を持つ自分たちの武器で、チームを花園の頂点へと導く。
廣瀬宇一朗(プロップ)
スター集まる桐蔭学園において、高校からラグビーをはじめた異色な経歴の持ち主。体を当てることが楽しい、とサッカーからラグビーに転向した。
ファーストキャップは2年の春。関東大会の初戦、川越東戦だった。
「先輩が引退して初めての部内マッチで、ハイボールキャッチがうまくいった。当時はロックだったんですけど、中森(真翔、ロック)相手にも競り勝てたんです。そこで一気に、DチームからBチームに上がることができました。」
だか肝心のデビュー戦には苦い思い出が。
「後半開始40秒ぐらいで脳震盪になってしまって。泊まりのはずの関東大会が、僕だけ日帰りになってしまいました。」
帰国子女。高校入学から数ヶ月間は、父との二人暮らしが続いた。
その間、ハードに体を動かしたこともあり、体重が一気に8kg程減る。「父も頑張って自炊してくれていたのですが、茶色いご飯が多くて(笑)母が帰ってきて、彩り豊かになったら体重も増えました。今では109kgです。」
数々のユーモア溢れる言葉遣いからうかがえる賢さ。
ラグビー歴3年は、決してハンディキャップではない。
中森真翔(ロック)
3年生になってから、体重はおよそ6kg増加した。
だが俊足は変わらず。むしろ様々なトレーニングを重ねることで、選抜大会の頃よりもスピードにキレがついた、と自信を持つ。
夏の全国セブンズでは、自身初めてのキャプテンを経験した。
「あの時に初めて、自分が引っ張らないといけないという意識が生まれた。大会が終わってからも、練習や試合で自分が声出さなければ、という意識がだんだんついてきて。キャプテンができた、という経験を花園に繋げたい」と意気込む。
待ち受ける、最初で最後の花園。悔いなく終えるために。
「チームでは、立って前に繋ぐ所。そして自分の持ち味であるラインアウトやキックオフの空中戦、そしてスペースに仕掛けるランでチームに貢献したいです。」
1年間目指し続けた優勝に向け、自分ができることをしていきたい、と笑顔を見せた。
萩井耀司(スタンドオフ)
大阪府は吹田ラグビースクール出身。
「(同スクールでの1学年先輩・矢崎)由高くんに『一緒にやろう』と誘われて」桐蔭学園へと入学した。
誘いを受けてから、桐蔭学園の試合を全て見た。
10番が考えるラグビーをする、そのスタイルが自分に合っていると思った。
1年の冬には早速、花園の芝を踏む。
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気付けば現在の桐蔭学園において、花園経験者は萩井選手だけになった。プレッシャーでもあるが、「自分が中心となって」という気持ちも生まれた。
「日本一のスタンドオフになりたい。」
花園で、チームを勝たせるスタンドオフになる。
諸田章彦(センター)
新チームが始まる時、自分自身と交わした約束がある。
「誰よりも声を出す。」
練習でも試合でも、とにかく声を出すこと。そしてそれをやり続けること。
今では藤原監督が「桐蔭学園の元気のバロメーター」と評するまでになった。
神奈川DAGSでともにプレーしていた白井瑛人選手(バイスキャプテン、センター)が桐蔭学園への進学を決めたことがきっかけで、諸田選手自身も「高校でも桐蔭学園で一緒にプレーできたらいいな」と思うようになる。
中学では「目立つような選手ではなかった」ため、日本一を目指すような学校でやれるか不安があったというが「一度、自分を信じてみようと思った。」
日本一を目指したい、と親に覚悟を伝えた。
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残すはいよいよ5戦。日本一を目指せる位置にまでたどり着いた。
「緊張、不安、興奮。複雑に絡み合っている感情です」と現在の心境を素直に語る。
だが、夢にまでみた舞台。最後は、一滴も残らず全て出し切りたい。
「グラウンドの上で気絶するぐらい、叫びまくりたい。1月7日の決勝戦、ノーサイドの笛が鳴ると同時にグラウンドに倒れ込めたら格好良いですね。」
吉田晃己(フルバック)
藤原監督が選ぶ、1年間で最も成長した選手が吉田晃己選手。「だんだんレベルアップしてるな」と自らも実感している。
プレーの判断は良くなった。だが、判断し終えた後のプレーには満足しない。
「抜けた後の次のプレーは、まだ詰められる所がある。バリエーションを増やしたい」と残る日々の改善点を見つけた。
プレイスキッカーを務める。精度は高く、花園予選決勝では10本中9本。90%の成功率を誇った。
花園で目指すは「キック100%」。
ずっと憧れだった、桐蔭学園。
このチームだったら全国優勝できる、と思い選んだチームで、自らの右足で、頂上を掴み取りに行く。
新里堅志(2年、フランカー)
センターからフォワードに転向した今年。
藤原監督が「最も伸びた2年生」として名前を挙げたのが新里堅志選手だ。
入学時は12番。1年の夏からは13番を、選抜大会前にはNo.8へ転向した。現在はフランカーを主戦場とする。
「1個上の世代でチャレンジできること、ましてや桐蔭学園というチームでチャレンジできることは良いチャンス。『しんどい時にいつでも顔出してんな』と思ってもらって、1個上の高校ジャパンに少しでも食い込めるようにチャレンジしていきたいです。」
ハングリー精神光る。
最前線で当たる練習を「ガチガチにやってきた。だから試合はあんまり怖くありません。」
たとえ自分の所でターンオーバーできなくても、周りへの信頼がある。「自分は勇気を出して相手を止めること、を意識しています。ボールキャリーよりも、みんながしんどいディフェンスで体を当ててチームに貢献したい。」
夏のセブンズではタイトルを逃した。だが夏合宿では全国の強豪校と戦い、すべてのカテゴリーで全勝。自信にもなった。
目指すは、春の選抜、そして冬の花園のダブルチャンピオンだ。
「このチーム・城央祐で全国優勝できるように、頑張ります!」