見本なき道|川越東|いざ、花園へ 2023

12月27日に開幕する、第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会。

埼玉県代表として3年ぶり2度目の出場を決めた川越東高等学校は、手探りの毎日を送っていた。

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僕たちに大事なのはワクワク感

現役選手たちにとっては初めての舞台、冬の花園。どうしたって、不安は募る。

埼玉県予選決勝の後「上手くいかないことが続いた」と話すのは、FL高尾将太キャプテン。

練習試合での内容然り、FWとして絶対に安定させたいセットプレー然り。

思い描く姿からは、程遠かった。

そんな折、コーチから指摘を受ける。

「チームにビジョンがない。」

重い言葉だった。

「それぞれ考えていることが違うから、やることも行動もバラバラ。まとまっていない、と言われました。(高尾キャプテン)」

だから指摘を受けたその日のうちに、リーダー陣は緊急のミーティングを開いた。

2人の共同キャプテンに、バイスキャプテン。そしてスタンドオフを含めた4人で、チームのビジョンを決定した。

「目標である年越しはブラさない。年越しするためにも、やるしかありません。」

覚悟を決めた。

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上手くいかないことがあると、落ち込むこともあった。互いに感情をぶつけることだってあった。

しかし、もう花園は目の前。憧れだった、絶対にたどり着きたかった舞台に、もうすぐ立てるのだから。

「せっかく花園に出られるんだから、もっとワクワク感を大事にしよう、と思っています。」

僕たちに大事なのはワクワク感です、と高尾キャプテンは言った。

関わりのある大学チームとも、合同練習を重ねている。

監督同士の家が近所、という縁から大東文化大学に出稽古に行った時のこと。FWコーチからは、スクラムのセットアップを見ただけで改善点をいくつも指摘してもらった。

以前から時折足を運んでいる立教大学とは、ゲーム形式の練習を重ねている。大学生のスピードにも、だんだん慣れてきた。

「確実に良い方向に働いています。」

自信を取り戻しながら、花園までの日々を過ごしている。

夢だった花園。

だが、花園に行くだけで満足する時期は過ぎた。

川越東として、埼玉県全36チームの代表として、見せなければいけない姿がある。

「今まで僕たちが培ってきた強みをしっかりと出したい。まずはディフェンス。しっかりと前に出て、ターンオーバーするディフェンスを必ずやりきります。アタックではモールで取り切りたいし、バックスでも仕留めたい。そのために僕はキャプテンとして、ディフェンスで引っ張っていきたい。ジャッカルにドミネートタックル。チームの士気が上がるようなプレーを、チームメイトに示し続けたいです。(高尾キャプテン)」

埼玉全員の想いを背負って、絶対年越ししないといけないと思っています。応援して頂けると有難いです、と締め括った。

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見本なき道

「埼玉県の中で、グラウンドに立って練習することが許されているのは自分たちだけ。責任感、重みを感じながら練習に励んでいます。」

そう切り出したのは、もう一人の共同キャプテン・PR寺山公太選手だ。

埼玉県予選決勝までの過ごし方は、昨年の先輩たちが見せてくれた景色があった。

どうしたらよかった、どうしないほうがよかった。お手本を、改善する作業でここまでたどり着いた。

だがこの先は、知らぬ景色。

「花園予選が終わってから、花園を迎えるまでの過ごし方は未知の世界。手探りの状態が多くて、何が正解で何が間違っているかも分からない状態です。でも結局は自分たちのプレーをいかに発揮できるか、だと思うので。自分たちの強みをどう出すか、を考え抜いていきたいと思います。」

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今年、折に触れ口にした言葉がある。

「応援されるチームになろう。」

会場内外での言動に気を付けること。マナーを守ること。しっかりと学校生活を送ること。脱いだ靴を揃えること。

チームとして、応援される存在になろうと努力してきた。

全国優勝するチームの記事を読み「小さなことを徹底している」と学びを得れば、「形式的でもいいから、まずは取り組んでみよう」と心を決める。

その結果、今年の花園予選決勝後には、見知らぬ下級生からも「試合見ました、花園頑張ってください」と学校内で声を掛けられたという。

嬉しかったです、と微笑んだ。


靴を揃え始めたのは寺山キャプテン。いまは2年生部員が自然と引き継ぐようになった

互いを『兄貴のような存在』と認め合う共同キャプテンの高尾選手と寺山選手。

だが来年からは、対抗戦Aグループに属する別大学へと進学する。

同じジャージーを着てラグビーをするのも、あと僅か。

「どのチームも本気で花園を目指していた。そうした思いは、対戦した高校は特に、直に肌で感じました。自分たちの結果次第で、みんなの想いを無駄にすることも、叶えることもできると思っています。埼玉県内での勝利には驕らず、川越東は前回出場した時(第100回大会)から変わって、花園で勝てるチームになったんだとしっかりと証明できるように。残り短い期間も真剣に練習に取り組んで、必ず花園で年越し出来るよう頑張ります。(寺山キャプテン)」

道は、自分たちで作り上げる。

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初めてのラグビーボールは川越東マーク付き

望月雅之監督が「今年最も成長した」選手に名前を挙げたのは、松本青大選手。ロックやフランカーを主戦場とする3年生だ。

幼い頃はレスリングに興じる。3歳から小学6年生まで、近くの道場に通った。

転機が訪れたのは中学入学後。友人がラグビー部の体験入部へ行くというと、付き添った。

「楽しかったです。」

楕円球の魅力にハマった。かくしてボールを持つ、団体競技へと転向した。

「入部当初、家で練習するためにそれぞれが一つボールを持って帰ったんです。当時は気にしていなかったのですが、よく見たら『川越東』と書いてありました。」

紐解けば、通っていた中学校にラグビー部ができた時、近くに住むラグビー関係者がボール等を寄付したらしい。

その関係者の1人が、現在川越東で監督を務める望月雅之氏だった。

ラグビーを始めた時から、川越東でプレーする運命であったのだ。

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中学ではセンター。高校からはFWのポジションが増えることにともない、自らFWでのプレーを希望した。

先発を務めるようになったのは、最上級生になってから。

初めての公式戦は、今年の新人戦。そこで、2トライのビハインドで前半を折り返した後半、逆転のきっかけとなる最初のトライを決めた。

「今年いけそうだな、って思いました。」

練習試合よりも緊張感ある公式戦の方が、性に合っていた。「少しの緊張はあります。でも、やれるな、とも思えます。」

この強気が、花園では何があっても動じない強さとなるはずだ。

「応援してくれた人たちに『頑張ったよ』と言える花園にしたい。」

6年間の物語、結末やいかに。

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1年生。良い影響を与えたい

埼玉県予選決勝で、1年生として唯一出場したのがスクラムハーフの岡部史寛選手。

後半から途中出場すると、試合を締めた。

埼玉県川越市出身の地元選手。5歳でラグビーを始めた。

中学2年次から埼玉県選抜に選ばれ、中学3年生の時にはキャプテンを務めた。

下級生の時はスクラムハーフを、最上級生ではスタンドオフをこれまで担う。

川越東に入学した理由は「勉強もラグビーもどちらも頑張りたかったから。両方で高みを目指せる川越東に」と門を叩いた。

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だが、高校入学直前に肩を手術。長いリハビリ期間を経て、ようやくの復帰は11月上旬だった。

その復帰戦で結果を残し、一躍Aチームへと抜擢される。

「ラグビーセンスはある方だと思う。スペースにボールを運ぶことが得意」と自身の強みを理解する。「監督が求めるラグビーに、僕のプレーがマッチしたんだと思います。」

1年生。だが小学生の時には、キャプテンとして全国大会を経験した身でもある。

花園では、チームを下から突き上げたい。

「まずはスクラムハーフとして、絶対にズレのないパスをすること。試合に出たからには、学年関係なくチーム全体に良い影響を与えられるよう、自信を持って頑張りたいです。」

憧れはオールブラックスのアーロン・スミス。正確なパス捌きで、チームを軌道に乗せる。

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