桐蔭学園の3大会ぶり4度目の優勝で幕を閉じた、令和5年度 第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会。
記憶に残る瞬間を、写真とともに振り返る。
同級生
桐蔭学園中
桐蔭学園1番・井吹勇吾選手、そして東福岡17番・高矢晨之介選手はともに桐蔭学園中学校出身。
東福岡17番・高矢選手がピッチに入ったのは、後半18分。
最初のプレーがスクラムだった。
相手の1番には、もちろん井吹選手が。
神奈川の地でラグビーに打ち込んだ2人が、たった一つの頂点を目指すライバルとして、花園で体をぶつけ合った。
草ヶ江ヤングラガーズ
桐蔭学園CTB高﨑大我選手に、東福岡SH利守晴選手。
福岡県内の同じ中学校出身。同じラグビースクールで汗を流した。
「中学生の頃は一緒にいる時間も長かった」という2人。
高﨑選手は中学からラグビーを始め、東福岡を倒すためと桐蔭学園を選んだ。
「バチバチやりたい(利守選手)」と相対した時間は、19分間。
試合が終わるとふたりはしばらく言葉を交わし、そしてともに涙に暮れた。
吹田ラグビースクール
福岡でも神奈川でもなく、大阪でともにラグビーをしていたのが桐蔭学園10番・萩井耀司選手と東福岡15番・隅田誠太郎選手。
試合前、顔を合わせれば笑顔を見せる。
地元を離れ、それぞれの場所でラグビーに勤しんだ3年間。
大学でもその道は交わらないが、いつの日にかまたきっと、同じジャージーを着てプレーする日もやってくるに違いない。
2人の1年生
花園決勝の舞台で、ファーストジャージーを与えられた2人の1年生がいる。
東福岡のLO古澤将太選手とCTB/WTB半田悦翔選手。
ひるまず相手に体を当てられるようになったことで、146分の25という狭きチャンスを得た。
ここから見た景色を、2年間忘れないこと。そしてこの悔しさを胸に、仲間と褪せぬ時間を過ごすこと。
これからの東福岡を、ともに繋いでいく。
キープレー
感情表現豊かなフランカー陣
東福岡6番・松﨑天晴選手(写真左)
桐蔭学園6番・新里堅志選手(写真中央)
東福岡7番・三木翼選手(写真中央、左)
桐蔭学園7番・申驥世選手(写真中央)
ハードワーカーという言葉をこの4人に使わず誰に使う。
花園で大ブレイクを果たした、東福岡6番・松﨑天晴選手。ファインダーを覗くたびにその姿が映る。また松﨑、また天晴。なんど呟いただろうか。
7番・三木翼選手は、グラウンドをひと際明るくした。春は控えに回ることも多かったが、夏以降東福岡のスタートを務めることが増える。その理由は、プレーがしかと物語った。
対する桐蔭学園の両フランカーは2年生。
昨年のこの時期にはスターティングメンバーだった7番・申驥世選手。いつ何時もどんな試合でも、95点以下のプレーを見たことがない。ボールキャリアーとしての強さはもちろん、ボールキャリアーをサポートする場面においても正確無比。
U17関東ブロック代表ではキャプテンを務め、飛び級で高校日本代表候補にも選ばれるなど実力は折り紙付きだ。決勝戦後、来年はチームを率いる立場でこの場に戻ってくるか、と問うと「そのつもりです」との決意を示した。
そして6番・新里堅志選手は今季、センターからコンバート。第3列で大きな飛躍を遂げた。
「飛び級での高校日本代表入りを狙いたい」とよどみなく口にする、熱い男。だが優しい。相手選手と交錯した場面では、必ず手を差し出す生粋のラガーマンがいた。
ラインアウト
ともに研究し尽くしたからこそ、低くなったラインアウト成功率。
高校生とは思えない攻防は、見る者を熱くさせた。
東福岡4番・倉掛太雅選手は、何度も相手ボールに手を掛ける。チーム最長身の190cm。繰り返し見返した相手の映像。そして、自分たちの映像。
求められる役割を、グラウンドで発揮し続けた。
桐蔭学園は今大会、マイボールラインアウトで相手にスティールを許すシーンも多かった。
一見パニックに陥っても仕方のない場面。そんな時、キャプテンは声を掛ける。
「自分たちの得意なことに立ち返ろう。冷静になろう。」
高さよりも、タイミングやリフトの速さ。1年間磨いた強みに立ち返り、相手をずらした。
事前の分析もあったが、一番効いたのは試合中に選手間で取り合ったコミュニケーション。競ったゲームになると理解していたので、焦らず今の自分たちにできることを確認した、とチーム最長身・191㎝の中森真翔選手は言った。
マイクロスキル
ボールを守る。
ボールを奪い返す。
瞬間を切り取ればより鮮明になる、細かなスキルの高さ。
なんのためにプレーをするのか。そのプレーの目的は何か。
この1年、両チームが見せ続けてきた一つひとつの高度且つ細やかなスキルが、集大成の60分間でより研ぎ澄まされた。
神奈川県大会決勝での1シーン
菅平合宿で両校対戦時の1シーン
主将
ナンバーエイト
桐蔭学園第58期主将、城央祐。
東福岡第67期主将、高比良恭介。
ともにNo.8。今年の1年間を牽引した2人の存在と活躍があったからこそ、史上最高峰の決勝戦は生まれた。
しかし花園期間中、その姿は対照的であった。
常に表情を緩めることのなかった、桐蔭学園・城キャプテン。グラウンドの中でも外でも、引き締まった表情を見せ続けた。
一方東福岡・高比良キャプテンは、この1年で一番和らいだ表情を何度も見せる。仲間は「恭介自身、嬉しいんだろうと思います」と目を細め、また高比良キャプテン自身も「楽しい」と口にした。
このチームでラグビーができる喜びを、違う形で表現し続けた2人。
ともに素晴らしいチームを作り上げた。