國學院栃木
試合終了間際、6点のリードで迎えたゴール前ディフェンス。
ベンチから発する声が届かない距離にいる選手たちは、自らで「リモールをさせないタックル」を決め続けた。
「1人、2人じゃない。全員がああいうタックルができる。そこが今年の真骨頂」と、吉岡肇監督は説く。
この日は9番・下井田雄斗選手からのボックスキックも多用した。
苦しいブレイクダウンであっても素早く球を捌く能力に長けるスクラムハーフに、相棒のスタンドオフ・神尾樹凛選手は「やりやすい。今日は下井田のおかげ」と感謝した。
神尾選手自身は、落ち着いたゲーム運びと、正確なプレイスキックが持ち味。
この日の6点差は、2つのペナルティゴール差でもあった。
プレイスキックの練習を1日50本蹴り込み、成功率は平均35~40本ほど。「誰が見ても成功したことが分かるようなキックを蹴りたい。試合中、雰囲気が落ちてしまう時には自分がショットを決めきって、チームの盛り上げに一役買いたい」
この一戦には、特別な想いがあった。
埼玉県出身の神尾選手。対戦相手・御所実業にも、中学時代ともに埼玉でラグビーをしてきた仲間が多くいた。
試合後、肩を抱き合えば「俺らの分まで頑張って」と託される。
涙に暮れた旧友。「もらい泣きしそうになった。嬉しかったです」とほほ笑んだ。
これで2年連続のベスト4入りを決めた國學院栃木。
吉岡監督は「感慨一入」と言う。
関東新人大会の決勝戦で、桐蔭学園と60分間の激闘を繰り広げた末、10-7で勝利したこと。
今大会も2回戦・京都成章との一戦では、後半25分まで互いにノースコアという厳しいゲームを勝ち抜いてきたこと。
「感動しますね、今年のベスト4は。去年のベスト4とはちょっと味が違う。こっちが泣かされる、感動させられるチームです」とつぶやいた。
準決勝の相手は、夏の菅平で試合を行う石見智翠館に決まった。
石見智翠館の菅平合宿最終戦は、國學院栃木と決まっている。相手は必ずや、リスペクトをもって挑んでくる。
「めちゃくちゃ楽しみです。バックスのチームと聞いていますが、僕たちもバックスは悪くない。FWにもバチバチやってもらって、全員で勝ちを目指します」とSO神尾選手が言えば、吉岡監督も「今までどおり、全員でタックルするしかない」と気を引き締めた。
御所実業
御所の十八番、モール。
組み込んでいることが一目で分かるモール、そしてモールディフェンスは、この試合でも大きな武器となった。
最初のトライを奪ったモールは、一度も止まることなく、真っ直ぐに進んだ。
「武器であるモールトライを取れたことは良かった」と言うは、この試合でゲームキャプテンを務めた7番・辻口豪都選手だ。
今季も御所実業は、キャプテンが2つの役職に分かれる。
生活面をリードするチームリーダーと、試合をリードするゲームリーダー。
ゲームリーダーを務めるCTB大久保幸汰選手は、大会前の練習試合で負傷し出場ならず。松葉杖をつきながら、ベンチから戦況を見守った。
「僕たちは日本一になるために御所に来ました。最終目標は日本一ですが、上手くいかない状況をどう乗り越えるか、に注力しています。」
挨拶に、ごみ拾い。私生活での規律をグラウンドに繋げるべく、みなで考えながら行動している。
「今年は体も大きくて、能力の高い選手もたくさんいます。常に何が足りないか、を考えて練習しています。」
未だ届いていない、日本一の頂。
そんな御所で「日本一になりたい」と、大久保ゲームリーダーは入学した。
「武田先生が生活面から熱いご指導をしてくださいます。ラグビーだけでなく、人間的にも成長できている」と充実の日々をうかがわせる。
「僕たちは仲が良い。良すぎちゃうのがダメなところでもありますが、でも雰囲気が良い分、一つになれたら力を発揮できる。みんなが誰かのために、何かを犠牲にしてやらないといけない。それが今後の課題です。ラグビーだけではなく、私生活から見直していきたい」と誓った。
今年のスローガンは『拳拳服膺』。一つの目標を成し遂げるため、よそ見をするな、という意味だと大久保リーダーは説明する。
「秋の奈良県大会でしっかり勝ち切って、冬の花園で優勝することが僕たちの目標です。」
今季、悔しい公式戦2敗目。
「この悔しさをバネに、練習のクオリティを上げたい。ミスが続いた時の修正力を改善したい(辻口ゲームキャプテン)」とのこし、熊谷を去った。
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漆黒の15番をまとうは、新晴人選手。
埼玉県深谷市出身。中学は寄居中でラグビーをした。
昨夏の帰省以来となる、埼玉凱旋。
中学時代にも立ったという熊谷ラグビー場Aグラウンドに、懐かしさを抱いた。
「昨年は、高校日本代表候補にも選ばれた林総太くんが15番でした。僕でいいのかな、という不安もあったのですが、ジャージーを着ることができない選手の分まで僕がやらないと」と気を引き締め挑んだ今大会。
準々決勝は雨天のゲームで最後尾の役割も増した。試合最終盤のダイレクトタッチは、これからの課題だ。
「僕たちは天理に勝つためじゃなくて、日本一を目指しています。そこはブラさず、常にベクトルを日本一に向けていきたいです。」
憧れは、同じく埼玉出身のフルバック・山沢京平選手(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)。
左足のキックを武器に、今冬の頂を目指す日々へとふたたび歩き出す。
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