石見智翠館
「新チームになってからずっとやってきた『ぶつかって、立ち上がって、走って』を体現してくれた60分間でした。國學院栃木さんもプレーに隙がなく、素晴らしいチームで。僕は試合中、勝ち負け関係なしに『素晴らしいな』と60分間見入っていました。」
そう話したのは、出村知也監督。
石見智翠館で指導を始め8年。監督になって丸1年。
12年ぶりに決勝まで導いた60分間を、感慨深く見守った。
同点に追いつかれた試合最終盤の選手たちの走力も、賞賛に値した。
「苦しい時間帯に走れるチームになった。今まで僕が石見智翠館を見てきた中では、なかったので。僕たちも新たな気付きをもらいましたし、彼らの底力を見た気がします。」
一つ壁を乗り越えた準決勝だった。
毎夏、菅平で練習試合を行う両校。
だがここ3年間は、ずっと國學院栃木が勝利を収めてきた。
現役選手たちにとっては、一度も勝ったことのない相手から収めた勝利。
意味ある一勝を手にした。
ノーコールのキックパス
2トライ目をキックパスでお膳立てしたのは、15番・新井竜之介選手。
ディフェンスが強みの國學院栃木に対し、正面勝負ではなく、ハイボールやキックを交えながらトライを狙う心構えを準備していた。
あの瞬間、外側の選手からキックコールがかかったわけではない。
新井選手自身も、蹴ると合図をしたわけでもない。
練習から同じようなシチュエーションで訓練を積んできたからこそ、言葉なくともチーム全員が同じ絵姿を描いたトライだった。
期待以上の男
大きな体で、大きなプレーをして、大きな声でチームのど真ん中に立ち、先陣を切るNo.8祝原久温キャプテン。
だが本人曰く「小心者」。試合前は緊張していたという。
そんな祝原キャプテンに向かって、出村監督が伝えたことがある。
「おまえは期待以上の男になる人間だ。思い切ってやれ。ボールを持ったら前に出る、相手が来たらボールを取りに行く。それだけやればいい。おまえが先陣切ってゲインを切って、前に出るんだ。」
背中を押された祝原キャプテンは、先制トライに決勝トライ。
「持ってますね」と出村監督は笑った。
「1年生の頃から、そういう所があった。勝負所でトライを取るのが(祝原)久温。でも彼がトライを取ってくれるから、他の選手たちが別の所で体を張ってくれるし、ボールを前に運んでくれる。良い雰囲気がグラウンドに表れていたので、嬉しかったです。」
祝原キャプテンは言う。
接戦になることは分かっていた。だが、今のチームでは負ける気がしなかった。
「慢心、ということではありません。3戦を勝ち抜く中で怪我人も出ましたが、今一緒にプレーしているメンバーはみんな、凄い。絶対勝てる、と思っていました。」
互いへの信頼が、石見智翠館を強くした。
初優勝へ
あと一つ。
ここまできたらやるしかない、が本音だ。
「全力をぶつけて、どこまでやれるか。(祝原キャプテン)」
いつも通り、感動を与えるラグビーをどれだけできるか。
出村監督は「大阪桐蔭さんはこの場(決勝戦)を知り尽くしているチーム。僕らに失うものはありません。思い切って前に出て、今日のようにバチバチ体を当てて、1人でも多くの方に石見智翠館のラグビーで感動してもらえたら」と笑顔を見せた。