「日本一になりたかった」大阪桐蔭・名取主将、気合いの坊主で優勝。石見智翠館は「やり返すビジョンが見えている。待っといてください」|第25回全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会 決勝

石見智翠館

ウォーミングアップも、試合前の雰囲気も良かった。

だが「それ以上に大阪桐蔭さんの集中力、接点で圧倒されて。最後、(集中力が)切れてしまいました」と言うは、出村知也監督。

冬に向けて、課題を得た60分間となった。

試合後ロッカールームに戻ると、出村監督は選手たちに声を掛けた。

「この負けは、全て僕の責任。みんなに負わせるものは、何もない。」

だが『Play to Inspire』を部訓に掲げる以上、「この試合で誰が感動するのか」とも伝えた。

ここが現在地。

仕切り直しの9か月間が、始まる。

スポンサーリンク

やり返すビジョンは見えている

楽しい決勝の60分間だった。

顔見知りの選手も多く「みんな気合いが入っていた」とNo.8祝原久温キャプテンは言う。

だが「完敗。悔しい、という言葉も出ないです。」

ノートライに、悔しい以上の言葉を探した。

『Play to Inspire』。

見ている人に感動を与えるラグビーをしたい。

だが、大差がついてしまった決勝戦。

「見ている方も、自分自身も、最後の方は勝てると思えなかった」と祝原キャプテンは言った。

でも、いやだからこそ、トライを取られた後の円陣で仲間に伝えた。

「ここで走り続けなきゃ、俺らじゃないねんな。」

その意図について、こう説明する。

「ここで僕らが諦めている姿を見せるのか、それともどれだけ点差をつけられようとも、僕らが必死に前に出て止めようとする姿を見せるのか。どちらが感動を与えられるか、ということをみんなに伝えたかった。」

ここで負けて良かった、と今は思えない。

「負けを美化したくありません。」

だから、誓う。

「やり返すビジョンは見えています。待っといてください。スコアが逆になるぐらい、絶対花園の決勝でやり返します。滾(たぎ)ってます。」

冬の石見智翠館を、楽しみに待つ1年間が始まった。

スポンサーリンク

唯一の1年生

今大会唯一、メンバー登録された1年生は久住洸誓選手。

決勝戦の後半14分、ピッチに立った。

「楽しかったです。でも、負けて悔しいという感情が勝っています。もう少し、何かできたんじゃないかな、って。」

2年生部員は44名の大所帯。

その全員が今大会に帯同しており、1年生部員は久住選手1人だけだった。

初めて2年生たちに交じって過ごした10日間。

「友だちみたいな感じで過ごせた」と先輩たちに感謝する。

そして、決心した。

「僕が唯一出場した1年生。同級生を引っ張っていけるような存在に」と覚悟を見せた。

スポンサーリンク

チームマンたちの分析

1年生の夏合宿で膝の大けがを負い、手術とリハビリの日々を乗り越えたのは、2年生の笠原颯選手。

中学時代は福岡県選抜にも選ばれた逸材。

祝原キャプテンと同じ、玄海ジュニアラグビークラブでプレーした。

「僕はキレイなラグビーが苦手で、泥臭いプレーが得意」と、ディフェンスのチームである石見智翠館を選んだ理由を語る。

以前はウイングやフルバックを務めたスピードスター。だが怪我のため思うようにスピードが戻らず、FWに転向した。

今大会はメンバー入り叶わず、サポートメンバー役へと回る。

登録30名に入れなかった2年生は、15名。うち1名は怪我の治療のため今大会に同行しておらず、残る14名でチームサポート役を担った。

「僕たちにできることは」と考え、対戦相手の分析を一手に引き受ける。

出村監督はいう。

「僕は彼らのことを『チームマン』と呼んでいます。」


チームマンたち

1つの対戦相手の、1つのプレーに対し費やす分析時間は3時間。

ラインアウト、スクラムなどのセットプレーはもちろん、バックスのサインプレーも分析する。

「もちろん、試合メンバーから外れたので悔しい気持ちがないわけではありません。でも心の底から、このチームで勝ちたい。」

日付けが変わっても、映像を見続ける日々が続いた。


1回戦で大けがを負い、戦線離脱したWTB吉岡聖太選手(写真中央)も分析に加わった

そうして迎えた、決勝戦。

今大会5試合目の分析結果も、グラウンドに立つ選手たちの力となった。

祝原キャプテンは言う。

「ラインアウトでは少なからずプレッシャーを掛けられました。本当に感謝しています。」

スポンサーリンク

日本一のマネージャーに

石見智翠館でたった1人のマネージャーは、大向梨愛さん。

父はかつて石見智翠館でコーチを務めており、幼き頃から石見智翠館のグラウンドは我が家のようだった。

中学3年生の時に父が中部大春日丘に転勤したことを受け、一度は自身も愛知県へ引っ越した。

だが、将来トレーナー職に就きたいという夢のため、ラグビー部のマネージャーとして携わることを決心する。

「それなら、めちゃくちゃ大好きな石見智翠館に、って自分で決めました。」

小さい頃から試合を見ていた、石見智翠館のラグビー。愛知に引っ越しても見続けるほど「ラブだった」という。

現在は島根県にある祖父母の家から学校に通っている。

スポンサーリンク

準々決勝では、中部大春日丘との『父娘対決』が実現した。

試合当日の朝、父からは「お父さん、負けへんで」と声を掛けられる。

大向さん自身はピッチに立てるわけではない。ラグビーが出来るわけでもない。

だから選手たちが、代わりに誓ってくれた。

「絶対、俺ら勝ってくるから。」

嬉しかった。

「頑張って、お願いね」と託した。

激闘を制したのは、石見智翠館。

「人生でお父さんに勝てることなんて、ほとんどないじゃないですか」と笑顔を見せる。「娘に負けたわ~」と言う父と、ハイタッチを交わした。


準々決勝で中部大春日丘に勝利し、ガッツポーズを見せたフィフティーン

とびきり仲の良い、今年の最上級生44人。

「日本一のマネージャーにするから」と、入学当初から部員たちは言い続ける。

今年の春は届かなかった、日本一。

「悔しいです。でもこれを経験として、花園で優勝してもらいたい。日本一のマネージャーは、冬にとっておきます!(大向さん)」

この代で良かった、という仲間とまだ見ぬ景色を、一緒に。

スポンサーリンク