5位決定戦
熊谷 19-24 慶應志木
勝利を収めたチームが、関東大会への出場残り1枠を勝ち取る60分間。
先制したのは慶應志木だった。
敵陣でプレーを続けると、前半9分、右サイドで14番・東條莞典選手が取り切る。
対する熊谷は、その後いくつかの反則を獲得したが、ペナルティゴールを狙うことなくトライを目指した。
実を結んだのは前半20分。ゴール前ペナルティでスクラムを選択すると、右サイドに開き15番・山口成選手がゴール前へと運んだ。
7番・丸山天雅選手がサポートにつけば、そのまま押し込む。
7-5と、熊谷が逆転に成功した。
しかし前半終了間際、慶應志木がトライを取り切る。
ゴール前左サイドでのラックからリモールを狙うかと思いきや、ショートサイドでFWを当てた。
「変化をつけながらプレーしよう」というチームの戦術だった、とスタンドオフ・浅野優心選手は話す。
前半を7-12と慶應志木の5点リードで折り返すと、ビハインドの熊谷は後半、ボールを外に動かし勝負を挑もうとピッチに入った。
だが内側でプレッシャーを受けると、プランどおりには進まなくなる。立て続けに2トライを許した。
「ボールを持たせてくれなかった所が、慶應志木の良かった所」と熊谷・横田典之監督は相手チームを讃えた。
一時は17点のリードを慶應志木に許したが、後半終盤、FWが決めた2連続トライで巻き返した熊谷。
しかし追い越すことはできず、最終スコア19-24で慶應志木が2年連続の関東大会出場を決めた。
慶應志木
強くて大きいFWが戻ってきた。
新人戦では負傷者が相次ぎ、およそ現メンバーの半分が出場ならず。
今大会は何度もリモールを組み、FWを当て、スクラムでも押し勝ち4トライを奪った。
ひと際目を引いたのは、スクラムハーフの荒木大志選手、2年生。
慶應義塾中等部出身だが、ラグビー経験はない。
前年度キャプテンの佐藤龍吾選手(現・慶應義塾大1年)が懸命に勧誘し、根負けして訪れた体験入部で「めっちゃ楽しかった」と、楕円球の道に進んだ。
父は竹井章部長の教え子で、同校のスクラムハーフを務めていた
ラグビー歴わずか1年ながら、球捌きにセンスは溢れる。
左サイドでのラックからの球出しを、ショートサイドに2度振った荒木選手の判断から生まれた2トライ目。
リモールではなく、あえてショートサイドに相手ディフェンスを寄せスペースを作れば、逆サイドに大きくキックパスを飛ばす場面もあった。
チーム3トライ目は、ゴール前ラックでボールを捌くと思いきや、SH荒木自身もブレイクダウンに参加。その姿を見た2番・安藤佑真選手がボールを拾い上げれば、ラックサイドに飛び込みトライを奪った。
慶應志木はFWのチーム。
チームの長所を理解し、冷静に且つ適切なタイミングで、FWを動かすことができるスクラムハーフ。
同級生のスタンドオフ・浅野優心選手も、その成長に頷く。
「高校からラグビーを始めて、本格的にAチームの試合に出場するようになったのは新人戦から。吸収も早く、自分の判断で動けるからやり易い」と手応えを語る。
「今はまだ、ゲームメイクを浅野に任せきり。自分もハーフ団の一員として試合を作れるようになりたい(荒木選手)」
一方SO浅野選手は、入学後1年間で12㎏増量。178㎝88kgとFWさながらの体格で、ディフェンスにも力強く顔を出した。
後半10分のトライは、浅野選手の体躯が活かされた力強い押し込み。
新たな武器を身に着けた。
◆
これで2年連続の関東大会出場を決めた慶應志木。
「慶應志木のモールがどこまで通用するか見てみたい」とSH荒木選手が言えば、SO浅野選手も「FW勝負はもちろん、埼玉県の花園予選を勝ち上がっていくためにはバックスでも回していけるようにならなきゃいけない。そのオプションを、関東大会で強いチームと当たりながら増やしていきたい」と志を高くした。
熊谷
チームで唯一、スターティングメンバーを務めた1年生は12番・田留源太郎選手。
ラグビーがしたい、と小学生の時に千葉県から埼玉県熊谷市に引っ越してきた。
高校では「横田先生のもとで学びたい」と埼玉県選抜の仲間たちと勉強に励み、この年代ではあわせて5名が合格通知を手にした。
中学ラグビーと比べてグラウンドに立つ人数が3人増えるため、高校ラグビーではディフェンスシステムが変わる。
立ち位置や守備範囲、キックに対応するポジショニングなどを丁寧に横田監督から学んでいる真っ最中だという。
公式戦デビューは、1回戦の所沢北高校戦。
以降、これが3試合目。フィジカルやスピードの向上に必要性を感じ、まずは体づくりが目下の課題。
現在176cm、78kg。高校入学後からはウエイトトレーニングもはじめ、はやくも体重は3kg増加したという。
横田典之監督は言う。
「体は大きいけど、力任せではなくスキルが全般的に高い。パスのタイミングやキックのタイミングも良いし、ラグビーを良く知っている」と期待を込める。
19番・若林夢翔選手も1年生。身長を活かしラインアウトのジャンパー役も務めた
高校生ラガーマンとして、初めて立った熊谷ラグビー場Aグラウンド。
「勝てる点差だったのに、後半途中から焦ってしまった。自分自身もミスがあって、迷惑をかけてしまった」と振り返るが、1年生を責める先輩たちは誰もいない。
熊谷高校の黒いジャージーを、さらに輝かせるために。
「絶対、花園行きたいです」
絶対花園、に向けた3年間がスタートした。