今季2度目の直接対決は29-11で桐蔭学園に軍配。「チームの一員になれている」桐蔭学園は新たなエースが台頭。東海大相模は「想いは誰よりも強い」兄弟花園出場を目指す|第72回関東高等学校ラグビーフットボール大会 神奈川県予選会・決勝

東海大相模

1月末には5-34。

5月末に、11-29。

差は縮まったように見えるが、数字では測れない様々な事情がその裏にはあった。

1月の新人戦では、レフリングに適応できず。

今回の関東大会予選では、主力メンバーを何人も欠いた。

「セットプレーでもうちょっと頑張ってくれるかなと思いましたが、うまくいかなかったですね」

三木雄介監督は、しかし悲観することはなかった。

チームの大黒柱・HO矢澤翼キャプテンは言う。

「桐蔭学園さんにボールを渡しちゃったら、返ってこないことはみんな分かっていました」

だからFWのセットプレーで圧倒して、自分たちのボールポゼッションを増やして勝つ。

ボールを相手に持たれているときには、しっかりとタックルで刺さる。

「1点でも勝ったら勝ち」と貪欲に勝利を目指した。

だが意気込みに反して前半、スクラムやラインアウトのセットプレーで手こずる。

「ボールが渡った時も、1人目のタックルで外されたり弾かれたり。もう一回、根幹を見直さなきゃいけないなと思いました」

自分たちも強くはなっている。

だが、相手だって強くなっていた。

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怪我人も多い。

No.8藤久保陸選手やスタンドオフ・長濱堅選手ら高校日本代表候補の選手も複数名、この日は出場ならず。試合を離れている選手は総勢5・6名にわたり、フルメンバーでチャレンジできない日々は続いている。

それでも「それは関係ない」と矢澤キャプテンは言い切る。

「出るメンバーで勝つのが相模。前日練習で、バックスリーダーの恩田暖が言ってくれたんです。『俺らが明日見せつけて、今抜けているヤツらの席をなくそう』って」

だからこそ、この負けをどう個々人が受け取って次に繋げるか。

関東大会では「新しい力に期待することと同時に、今日出たメンバーはそれを伝えること。1ヵ月はあっという間。トップチームの選手と、今試合に出られていない選手たちの差が埋まるいい機会。競争力を上げたい」と言った。

また三木監督は「今チームを離れている彼らが帰ってきた夏合宿以降、どれだけ進化できるかがターゲット」と話す一方で、「上級生が下級生を導いて、当たり前のレベルをどう教えてあげられるか、が関東大会では大事になる。勝って反省できないと意味がない」と底上げを狙う。

神奈川県では、高校1年生の公式戦出場が関東大会から許可される。

「新しい力を見つけたい」と、関東大会では新戦力を試す意向を明かした。

東海大相模として、これから大事にしていきたいもう一つの軸がある。

『質』だ。

毎年、秋口になると三木監督は「どれだけ精度を高められるか」と再三口にする。

コンタクト強度の精度。キツい時にどれだけ強いコンタクトができるか。

「ラグビーを突き詰めたら、めちゃくちゃ難しいサインプレーなんかではなく、結局コンタクトだと思っています。そこをどれだけ強化できるか」

稀代のキャプテンシーを有する主将。どうチームを導くか。

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グラウンドに響いた「フォワード、エナジー!」の掛け声。

口火を切るは、佐野零樹選手だ。

高校入学時は108kg。

2年生では一度体を絞り、前半はNo.8、後半にタイトヘッドプロップと1試合でダブルポジションを務めた。

3年生になった今年は、将来を見据え1番に転向。体重も112kgまで戻している。

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U17関東ブロック代表の実力を有しながら、今季はリザーブから出場することも多い。

「後半は、相手もキツい時間帯。後半からギアを上げるための戦術だということを三木先生から伺っています」

自らの役割を理解しているから、「リザーブか」と落ち込むことは決してない。

自分が後半からチームを上げるその役割を、愚直に遂行する。

この日も、前半は苦しんだスクラムで、佐野選手が出場した後半に巻き返した。

成長途中のスクラムで好感触を得られたからこそ、新人戦の頃と比べ「差は縮まった」ことを実感した。

モットーは、誰よりも声を出すこと。

チームの士気を上げるため、スクラム前には「フォワード、エナジー!」と大きな声を出す。

「ピンチの時でもチャンスの時でも、FWから体を当てないとラグビーは勝てない。だから自分が率先してFWの士気を高めて、プレー一つひとつに集中していきたい、という思いがあります」

常にFWで2トライ以上を目指すが、この日はチャンスで取り切れなかった。

敵陣5mからラインアウトモールでトライを狙うも、割れた所を抱え上げられパイルアップ。

「甘さを乗り越えたい」と佐野選手は言う。

矢澤翼、恩田暖、長濱堅。

現在、東海大相模の核となる選手たちと、小さい頃から同じラグビースクールでプレーしてきた絆がある。

迎えたラストイヤー。

「2年前、僕の兄(佐野睦海選手)がNo.8として花園に出場しました。今日も試合を見に来てくれています。僕が花園に出るのは、兄の夢でもあるんです」

ずっと『おまえが花園に出る所を見たい』と言ってくれる、兄のために。

そして今年、東海大相模に入学した2つ下の弟へは、花園へ導く後ろ姿を見せたい。

「想いは、誰よりも強いと思います」

強い想いは、強いプレーへと昇華する。

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