異例尽くめのレフリー街道。「チャレンジのない成功はない」22歳の古瀬健樹がU20トロフィー2024の決勝レフリーへ

大学生で手にしたベストレフリー賞

大学4年間は、怒涛の日々だった。

平日は学生としてチーム活動を主軸とした。

日中に授業を受け、夕方は上井草へ。週に3日ないしは4日、試合形式の練習ではレフリーとして笛を吹き、ユニット練習時にはFW側でスクラムやラインアウトのコールを行った。

フィットネストレーニングは選手たちと一緒に体を動かす。ブロンコの自己ベストは4分38秒。これは、バックスリーの平均タイムに等しい。

土日は、レフリーの傍ら早稲田大学の試合にも帯同した。

レフリーの声を無線で聞きながら、今どのような注意を受けているのか、どんな反則を取られているのか、コーチ陣へ伝える役目を担った。

スポンサーリンク

一方、レフリー界ではあっという間にトップレフリーへの階段を駆け上がる。

大学1年の冬は、B級レフリーとしてトップチャレンジリーグ(当時)の試合を担当。

NTTジャパンラグビー リーグワンが開幕した大学2年次にA級レフリーの資格を取得すると、担当試合はディビジョン2からスタートした。

だが、またしても“異例”は訪れる。

シーズン途中で、ディビジョン1担当へと昇格を果たした。

初めてD1のゲームを任されたのは、2022年3月5日。

大阪・ヤンマースタジアム長居でのNTTドコモレッドハリケーンズ大阪 対 埼玉パナソニックワイルドナイツ戦のことだった。


写真提供:古瀬健樹さん

試合前には、当時RH大阪のヘッドコーチを務めていたヨハン・アッカーマン氏から「おめでとう」と言葉をかけられたことを覚えている。

試合後には、レフリー仲間からオリジナルラベルのついたシャンパンを贈呈された。


写真提供:古瀬健樹さん

大学3年の冬からは、D1にフルコミット。全13試合を担当した。

大学4年の春には、D1全12チームの監督・キャプテンの投票による投票をもとに選考されるNTTリーグワン2023-24『ベストホイッスル賞』を初受賞。

「絶対に獲りたい、と意識していたわけではないです。もちろんこの賞があることを知ってはいましたが、特別なことはしていません。ただ自分の強みを活かしながら、自分にできることを一つひとつやっていくのが自分のやり方です」

リーグワン2年目、前年度の久保修平レフリーから引き継いだ偉大な賞だった。

チャレンジのない成功はない

早くから大人の世界に身を置いてきた古瀬さん。

否が応でも振る舞いは学生の域を超え、落ち着き、芯を持つ。

だがそれは、生まれながらの才でもある。小さい頃から、実年齢よりもいくつか上に見られ続けてきた。

「周りがよく見える」「リーダーシップが取れる」

「古瀬を学級委員にすることは簡単な決断だけど、学級委員を横で支えて欲しいから敢えて学級委員にはしない」と言われたことだってある。

「学校の先生たちからしたら、プレッシャーを掛けずともきちんとやってくれる、という信頼があったのだと思います。小さい頃から、先生的な立ち位置でした」

だが、そんな役回りを苦に感じることはなかった。

強い人。自信を持っている人、に見られている自負がある。

それはグラウンド上にいても変わらない。

「グラウンドの中で存在感がある、とも思っています」とよどみなく発した。


他のスポーツも「ルールは知っている方」だという。福岡県出身らしく、小さい頃には祖父に連れられ福岡ソフトバンクホークスの応援にも赴いた

だがグラウンドを離れれば一転、上手に息抜きをする。

趣味は旅行。新幹線よりも飛行機派で、担当試合が遠方の場合には可能な限り飛行機で移動する。

「飛行機には何時間乗っていても苦ではありません。機内食も楽しみです」と、仕事の中に楽しみを見出す。

座右の銘は『チャレンジのない成功はない』。

成功するかしないかは、やらないことには始まらない。

「やってやるか精神で、いまはガムシャラにやっています」

スポンサーリンク

学業とレフリー業の両立に明け暮れた4年間。

アフリカ経済の発展に関する卒業論文を書き上げ学士号を取得すると、2024年3月、早稲田大学を卒業した。

「4年間で最も印象に残っている試合は、やっぱり最後の試合。大学選手権・準々決勝で京都産業大学に敗れた試合です。試合前は勝てると思っていたし、試合中も『何が起きているんだろう』とポカーンとした感じでした。何かが上手くいかない、でもその何かが分からない。試合が終わっても、本当に負けたのかな?って」

試合後、選手たちに会うと「ごめん」と声を掛けられた。「勝たせられなくてごめん」

古瀬さんは「ありがとう」と返した。

「僕からしたら、ありがとうしかない。チームを代表して戦ってくれたという意味では、本当にありがとうしか僕は出てこなかったです」


大学4年間で最も印象に残っているという、大学選手権準々決勝・京都産業大学戦後の一コマ

自分自身がレフリーしていることを楽しむ

早稲田大学を卒業して、3か月半が経った。

4月からは日本ラグビーフットボール協会に所属し、日中夜自身のレフリング向上に努めれば、2年連続となるNTTリーグワン2023-24 ベストホイッスル賞も受賞した。

6月から始まった日本代表合宿でも、練習の笛を担当するなど活躍の場を更に広げている。

そして今、ワールドラグビー U20トロフィー2024のマッチオフィシャルとして、国際大会の主審を任されるまでになった。

ワールドラグビーが主催する国際大会で初めて担当した試合は、123-15でU20スコットランド代表がU20サモア代表を下した一戦。大会史上最多得点、最多得失点差の記録が樹立された記録づくめの一戦だった。

「少し緊張しましたが、キックオフの笛を吹いた後、また最初の反則を吹いた後には緊張も解け自分らしくレフリングすることができたように思います。記録に残る試合になりましたが両チームの良さが出た試合になって良かったです」

7月17日に行われるU20スコットランド代表 対 U20アメリカ代表の決勝戦では、初の国際大会にも関わらず、笛を吹くことも決定した。

U20日本代表がたどり着かなかった決勝戦の舞台に、日本人が立つ。

スポンサーリンク

いよいよ本格化した、インターナショナルな舞台。

近い将来、国立競技場でリーグワン決勝の笛を。

そしてその先には、必ずやラグビーワールドカップでの笛を。

「今はレフリーに100%です」

未開の地を突き進む古瀬さんの、絶え間ない努力は続いていく。


高校生レフリーたちへ。「試合を楽しむこと。自分自身がレフリーしていることを楽しむこと。ゲームに関われることを楽しむこと。選手たちがプレーし、それをより良いゲームにしていく感覚を捨てないで欲しいです」

スポンサーリンク